3-07 幕間
広々とした厩舎。
等間隔に並ぶ天窓からは、温かな陽射しと、清潔な空気が送り込まれている。
くすんだ飴色の内壁に囲まれた空間の一角。
「飼葉とはちょっと違うのよね」
そこに一人の少女が、腕を組んで立っていた。
自分に問いかけるように言葉をつむぐ。
「どこかで嗅いだことがあるんだけど、何だったかしらこれ?」
スンスンと鼻を鳴らしてはウーンと首をかしげ、記憶を巡らせる。その横顔は真剣そのものであった。
美しい少女である。
朝露に濡れる花びらを思わせる、艶やかな肌。
長いまつげに縁取られた、ぱっちりとした碧眼。
ぷるぷると動くその唇は、まるで剥きたての果実のように瑞々しい。
清冽な川のように流れる金髪が、額縁のように彼女の美を引き立てる。
完璧な黄金比で配置された目鼻立ち。そこには、どこかイタズラ好きの猫のような雰囲気が混じっている。そのアクセントが、絵画から抜け出したかのような彼女の美貌に、人間らしい愛嬌を加えていた。
何事か思案していた彼女は、やがて、
「あっ思い出した、イ草だわっ!」
パッと表情を明るくさ、メモにペンを走らせた。
自分が口にした言葉に、うんうんと満足げに頷く。
「そうそうあの貧乏臭い編み物のヤツのニオイだわ。誰が買うのかしらアレ」
桜色の唇から、さらりと毒が流れる。
とくに悪意があるわけではなく、思ったままを口にしているのだ。
メモを取り終えると、彼女は一度目の前のそいつに挑戦的な視線を向け、そしてフフーンと鼻を鳴らし、その場を後にした。
「ルル?」
その不可解な訪問者に、走竜は首をかしげていた。




