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3-04 初任務




 単身での山賊の討伐。そして人質の救出。

 その功績をギルドに認められた僕は、晴れて正規メンバーとして扱ってもらえるようになった。つまり、以前の不良貴族の説得みたいな珍道中ではなく、ちゃんとした護送や魔物討伐などの依頼を受けられるようになったのだ!

 そして、さっそく仕事が決まった。

 内容は、荷馬車の護送。サルラから「ナンバー」と呼ばれる町までを護衛する。

 日程は片道2日。

 参加するのは、僕を含め7人。

 報酬は1万5千ルーヴ。

 額としては相当低いものらしいが、それも仕方ない。すでに安全が確保されたルートを通るため、ぶっちゃけ冒険者じゃなくてもできる仕事だからだ。この手の仕事は、もっぱら初心者が経験を積むために採算度外視で受けるものらしい。

 でも、たとえそうだとしても、ちゃんとした仕事が受けられるのは嬉しかった。……もしこれが迷い犬の捜索とかだったら、僕は荒ぶる鬼と化してギルドの登録カードを引き裂いていたことだろう。

 ちなみにこの依頼は、リュッカさんが持ってきてくれたものだ。

 そしてリュッカさんも同行する事になっている。

 推薦者が同行するというルールは以前ステラさんから聞いてはいたが、正式にギルドに認められても、当分の間は一緒じゃないとだめらしい。その事について、リュッカさんには申し訳なく思っている。だって高額の依頼を受けられるだけの実力があるのに、僕のせいで額の少ない仕事に付き合わせているのだから。

 心苦しかった僕は、「本当にコレを受けてもいいんですか?」と尋ねたのだが、


『はあ? なによ私の持って来た依頼に文句でもあるワケ? 魔力値50未満のヘッポコ魔法使いの分際で! バカのくせに変に気なんかまわすんじゃないわよバカ! アンタは黙って私の言うとおりにしてればいーの! いい? わかったわね!』


 と、怒られてしまった。

 言葉使いはアレだけど……良い人なんだと思う。

 出発は明後日。

 それまでに必要なものを揃えておく必要がある。

 いちおうギルドから最低限の日用品が貸し出されるので、手ぶらで参加することも勿論OKだ。しかし貸し出される物品は、他人と使いまわしているので、品質は相当よろしくないそうだ。

 リュッカさんいわく。

『誰がいつ何に使ったか分からないタオルとか食べかすがこびり付いた鍋とか不潔なヤツと回し飲みする水筒とか変なニオイのする毛布なんて死んでもイヤッ! あんなもの人間が使う物じゃないわ!!』

 とのこと。

 それには僕も同意だ。

 つまり仕事中を快適に過ごすために、個人で用意しておかないといけない物がいくつかあるのだ。でも初心者の僕には、いったい何が必要なのか分からない。

 というわけで。

 今日はこの後、先輩であるリュッカさんに買い物を付き合ってもらう事になっている。

 待ち合わせは午前10時。噴水前で。

『なんだかまるでデートの約束みたいですね』

 昨日冗談でそう言ったら、顔を真っ赤にして怒ってしまった。

 相変わらずシャレの通じない人だ。

「うんまー!」

 トレーニングを終え、シャワーを浴びてさっぱりした僕は、オーナーが運んできてくれた朝食に舌鼓を打っていた。

 今日のメニューはトロトロのチーズオムレツに、分厚いベーコンとほうれん草のソテー。ほかほかと湯気を立てるトマトポタージュスープ。そして焼きたての丸い白パンだ。

 体を動かした後なので、特に美味しく感じられる。

 パンを二つに割って、オムレツとベーコンとほうれん草を挟み、ガブッ! 幸せっ!

 2人前のボリュームをぺろりと平らげ、食後のコーヒーで一息つく。

 静かにコーヒーの香りを楽しんでいると、窓から朝の喧騒が流れ込んできた。

 外では人々が慌しく活動しているのに、壁一枚隔てたこちらでは、優雅にリラックスタイムを満喫している。なんだかこうしていると、小学生の頃、風邪で寝ていると外から登校中の声を聞いた時の、あの得もいえぬ優越感を思い出す。

 しかしそんな僕の贅沢なひと時は、

「うそだろっ!?」

 時計を目にした瞬間、ガシャーンと崩壊した。

 のんびりしていたら、いつの間にか待ち合わせの時刻に差し迫っていたのだ。

 ヤッッッバイ!!

 こっちから頼んでおいて遅刻なんて、それこそシャレにならないぞ!

 僕は慌ててコーヒーを煽りカバンを肩にかけ洗濯物を廊下の専用カゴに放り込み食器を載せたトレーを調理場まで戻しに行き「今日も美味しかったですっ」「あんがとよっ」調理場の人と声を掛け合いフロントのオーナーにもう一度挨拶してからホテルを飛び出した。





 待ち合わせには何とか間に合った。

 それは良かったんだけど、別のことでリュッカさんの機嫌を損ねてしまった。

 その理由なのだが……どうやら僕が普段着で来たことが原因らしい。

「なんでお洒落して来ないのよっ!」とムクれるリュッカさん。

 わけがわからず、しかし尋ねてもハッキリと答えてくれない。

 昨日僕が何か言ったそうなのだが、まったく記憶に無かった。

 おまけにリュッカさんが髪型を変えていることに気付いて「あっ、今日は内巻きにカールしているんですね。いつもと雰囲気が変わって、とても似合ってますよ」と褒めたら、また怒り出したのだ。

 ……ホント、何なんだこの人。

 どこに怒りのポイントがあるのか、さっぱり分からない。

 この歳の女の子って、みんなこうなのか?

 それともリュッカさんだけが特別なのか?

 


 恋愛指南とかの男性向け雑誌がなぜ売れるのか、なんとなくわかった。









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