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2-02 トトリ峠





 弱装弾というものがある。

 これは火薬量を減らした弾丸を指し、通常よりも威力や反動を減らすことができる。

 この弱装弾なら素人でも安全に撃つことができるので、グアムなどの実弾射撃を体験できる場所で広く使用されている。

 なんでその話をしているのかと言うと、僕の生み出す弾丸でも、これと同じことが出来るんじゃないかと思いついたからだ。

 思いついたら即実験。

 いろいろ試した結果、分厚い頭蓋骨を破壊するほどの威力が、木の幹を折るぐらいにまで下げることが出来た。これなら人体を撃っても骨折ぐらいで済む。

 頭に当てるとヤバイけどね。

 弱い弾丸。

 一見すると何の役にも立たないように思えるが、実はちゃんと使い道がある。

 この弱装弾を使うことで、相手を必要以上に傷つけずに無力化したり威嚇することが出来るのだ。

 リュッカさんと初めて出会った時の、あの強盗たち。

 あいつらも弱装弾を2・3発撃てば、難なく追い払えたはずだ。

 異世界の活動には、こういった弱い弾丸も必要なのだ。

 そしてその考えは、バッチリ当たっていた。

 ちなみに。

 火薬量を増やした「強装弾」は生み出すことはできなかった。

 これは今後も検証をしていくつもりだ。





 サルラの町から馬車で移動すること2時間。

 そこにはトトリ峠という休息所がある。

 この休息所はサービスエリアやみたいな施設で、長い移動をしている旅人や行商人、そして冒険者の労を癒すために、茶屋や簡易の宿泊施設などが設けられている。

 また手紙などの一般的な通信を中継・補助する業務も行われている。

 時代劇に出てくる宿場みたいな場所だ。

 そんなトトリ峠で、最近困ったことが起こっていた。

 ある若者の一団が、この場所にたむろするようになったのだ。

 年齢は15から18くらい。

 みな、「貴族」と呼ばれる上流階級の者たちである。

 彼らは綺麗な身なりと、それに不釣合いな剣や槍を片手に持ち、我が物顔で施設内を闊歩している。

 それだけならいいのだが、問題は、彼らが日常的にトラブルを起こしている事だ。

 無銭飲食なんて可愛いもの。

 通り過ぎる馬車の馬を傷つけたり、通行料だと金をせびったり。

 荷馬車を横転せたり、店内をめちゃくちゃに荒らしたり。

 彼らはやりたい放題している。

 しかも冒険者や衛兵などの『刺激したら危ない連中』には手を出さない。

 狙うのは、自分たちに抵抗してこないような立場の弱い者のみ。

 仮に文句を言おうものなら「んだゴラ」「やんのかよ!」と奇声を上げて凄み、剣をチラつかせて脅し、一方的な暴力を振るう。身分は圧倒的に彼らのほうが上。だから相手が迂闊に反撃できないことを、ちゃんと計算した上での蛮行だ。

 腕に覚えのある冒険者たちも、身なりからひと目で貴族だとわかるので、彼らの勝手な振る舞いを諌めようとはしない。余計な波風を立てて、今後の仕事に悪影響をおよぼしたくないからだ。衛兵も右に同じ。

 貴族という言葉は、このカンニバル国で、それだけの影響力を持っている。

 そして彼らは、その事もちゃんと理解していた。

 結果、トトリ峠は彼らの遊び場と化した。

 休息所を取り仕切っている責任者はほとほと困り果て、さりとて貴族の親たちに直接申し出ることも出来ず、けっきょく冒険者ギルドに相談した。

 で、僕の出番というわけだ。

 先に言っておく。


 僕は今、めちゃくちゃイライラしている。


 話を今朝に戻す。

 ラビットクローを単独で42匹狩った実績と、魔力が28に増加したということで、僕の評価はすこしだけ上昇した。

 そんな時、ステラさんからこの任務を薦められた。

 具体的な内容は、トトリ峠の貴族連中を説得し、このサルラの町まで連行すること。

 相手は戦闘経験のない素人集団。

 護衛は連れていないそうだ。理由は不明。

 また今回に限り、ギルド職員が同伴してくれるため、最低限の安全も保障されている。

 実際の任務がどういうものなのか、肌で学ぶのにはよい機会だ。

 そうステラさんに説明され、僕は了承した。

 さっそく二頭引きの帆馬車に乗り込み、サルラの町を出る。

 運転を職員に任せ、僕は後部座席に腰掛けると、さっそく弱装弾をマガジンに込める作業をはじめた。親指の動きに合わせて、獣の牙を髣髴とさせる9ミリパラベラム弾が、一発ずつマガジンに収まっていく。

 同伴するギルド職員から、これから会う連中の所業を聞いた。

 それからというもの、ドス黒い気持ちが湧き出るのを抑えることができない。

 こうして単純作業を繰り返していないと、感情が表に出てしまいそうだった。

 散々人に迷惑をかけた貴族たちは、このあとサルラのギルドに行き、そこでちょっと叱られて、あっさりと解放される。それだけだ。お咎めもなにもない。

 この国には法があり、罪を犯せば当然罰せられる。

 しかしその罪を『明確』に実証させるためには証人が要る。きっちりと証拠と証人が揃わないと、罪が重くならない。保釈金で終わってしまう。

 で、だ。

 貴族はその被害者や証人に、水面下で交渉という名の圧力をかけるんだとさ。

 お金握らせてお前わかってるよな? が通用するんだって。

 弁護士ももちろんいて、金を出せばすっごいのが用意できるんだって。

 だから先日、熱湯をかけられて火傷を負った人も泣き寝入りなんだってさ。

 くそったれめ。

 これから会う連中の顔を想像するだけで吐き気がする。

 でも僕が任せられているのは、あくまで説得だ。

 『自衛の時以外』は、攻撃を固く禁じられている。

 頭では理解できている。

 だが、灰色の毛並みをした感情は、理解してくれなかった。

 行き場のないフラストレーションが、腹の中でマグマのように煮えたぎっている。

 やがて。

 爆発する時がきた。





 午前10時。

 予定よりも早く現場に到着。

 僕は馬車から飛び降ると、一直線に連中のいる茶屋へと向かおうとした。

 しかしその背中を、運転席にいた男性職員が慌てて呼び止める。

「待ちなさい!」

「……」

 しぶしぶ足を止め、振り返る。

「いいか、我々はあくまで平和的に事を解決するために派遣されたのであって、武力で鎮圧しに来たわけじゃないからな? そのあたり分かっているんだよな?」

「はいっ!」

「いや、そんな血走った目で言われてもだな」

 職員は逡巡するような表情を浮かべる。

「やはり私も付いていった方が――」

「いえ、一人でやらせてくださいっ!」

「しかし」

「大丈夫ですっ!」

 片意地を張るように言うと、彼は困ったように頬をかいた。

 やがて。

「わかった。まず君一人でやってみなさい」

「ありがとうございますっ!」

 ただし、と彼は付け加える。

「ただし、私が危険だと判断した場合は、すぐに間に入るからね? その際は、私の指示に全て従うこと。反論はなし。いいね?」

「はいっ! 力加減を間違えてブチ殺しそうになったら止めてくださいっ!」

「……私は君の身の安全の話をしているんだよ? あとブチ殺すって何?」

「押忍っ!」

「オスって君、なんだいその熱のこもった掛け声。あれ、ちゃんと分かってる? 話し合いだよ?」

「いってきますっ!」

「あっ、こら」

 待ちなさい、という声を耳から追い出し、僕は茶屋へと向き直った。

 大丈夫。怒りに我を忘れて、先走るようなダサいことはしない。

 これはあくまで平和的な話し合いだ。

 だから『先制攻撃』は厳禁だ。

 さりげなく相手を『挑発』して、『先に手を出させる』必要がある。

 それも人前で。

 手を出させるといっても、おめおめ相手の攻撃を受けるつもりはない。剣を抜かせて、誰の目にも僕が危ないというポーズをとるだけでいい。

 それで僕の自衛権の行使は成立する。

 そのあとは、お楽しみだ。

 徐々に近づいてくる茶屋に、眼の照準を合わせる。

 そこでたむろしている連中に、僕は心の中で語りかけた。


 人の痛みがわからないなら、僕が教えてやる。


 首をゴキゴキ鳴らしながら、鉄火場へと足を踏み入れた。





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