1-30 もうひとつのごほうび
ピチカと別れた僕は、帰りの駄賃にと岩イノシシの狩猟をすることにした。
手順は昨日と同じ。
何の問題もなく、一匹目をM4A1で仕留めた。
そのあたりで、僕は体の異変に気づくこととなった。
負担が軽かったのだ。それもビックリするぐらいに。
M4A1はコストが大きいため、毎回召喚には気を使う。
銃身からマガジンを抜いた状態で召喚する。拳銃との併用は厳禁。そういった工夫をしても、魔力の半分ぐらいをごっそり取られてしまうのだ。
その上、一発一発の射撃コストがあり、さらには銃本体の維持にも魔力が要る。
燃費がアメリカ車並にバカなのだ。乗ったことないけど。
しかし今日は違った。
M4A1を召喚した瞬間、魔力消費による不快感もなく、まるで拳銃を召喚したときのように平静を保っていられたのだ。
僕は確認のため、一匹目の岩イノシシを仕留めた後、M4A1を消さずにそのまま維持させ、2匹目を待ち伏せすることにした。
鞄の中をあさって懐中時計を取り出し、正確な時間を計りながらニーリングの姿勢を維持させる。
およそ20分ほど経過して、二匹目を発見。
ワンショットで仕留め、さらに余裕があるのを確認し、待ち伏せを継続。
三匹目を仕留めたあたりで、若干の不快感を覚えたので、実験は終了した。
結果、M4A1を出しっぱなしにして2時間待ち伏せすることができた。
こんなこと、昨日の僕には絶対出来なかったはずだ。
僕の体にいったい何が起こったんだ?
岩イノシシの解体作業をしながら、自分の変化について考える。
やがて一つの結論に至った。
もしかしたら魔力が増えているのかもしれない。
称号「一匹狼」の効果のひとつである「魔力回復力向上」が働いているというのは分かる。だが、そもそもの総量が増えなければ、こんなこと出来るわけがない。
なぜ魔力値が増えたのか、その心当たりもある。
ピチカだ。
ピチカの世話をしている精霊たちは、ピチカの体から溢れる魔力を吸収するために集まってきていた。つまり一日ピチカと過ごしたことで、僕もその恩恵を預かったのかもしれない。
しかしこれは全部憶測だ。
ハッキリと数字で確認する必要がある。
それも大至急!
「ええい、まだるっこしい!」
岩イノシシの牙が買い取り部分だ。その牙を、まるで枯れ木を折るように強引に分解しようとする。できない。苛立った僕はベレッタを召喚して牙の付け根を狙い、魔法の弾丸でもって叩き折り、カバンにブチ込み、町へと戻った。
(魔力が増えているかも……13じゃなくなってるかも……)
町へと向かう足取りは、徐々に早足になり、やがて全力疾走になっていた。
高まる鼓動とともに、期待も膨らんでいく。
汗を浮かべている顔には、いつのまにか笑顔が張り付いていた。
13じゃなくなってるかも!
昨日の半分の時間で町へと戻った僕は、迷わず冒険者ギルドへ駆け込んだ。
そして。
「ステラさん! いますぐ魔力測定してください!!」
エントランス中に響く声を張った。
カウンターで書類整理をしていたステラさんは、ギョッとして書類を落とした。
「ちょ、ちょっとどうしたのよオガミ君!? 落ち着いて、ね」
「お願いします、魔力測定をしてください!」
「測定ってキミ……あのねぇ」
鼻息荒く詰め寄る僕に、ステラさんはやれやれとため息をついた。
そして嗜める口調で言う。
「いい? 魔力は昨日今日で増えるものじゃないの。まして訓練所にさえ行ってない君が――」
「それは重々承知してます! でもたぶん増えてるはずなんです! お願いします!」
カウンターに手をつき、何度も頭を下げる。
やがて、
「……はぁ」
もう一度ため息をついたステラさんは、書類をケースに戻して席を立った。
そして30分後。
「うそ、なんで!?」
ステラさんは驚愕に目を見開き、書類を上へ下へと何度も視線をさまよわせていた。
思ったとおり、僕の魔力は増えていた。
魔力値28。
前回の数値が13だったので、一気に倍以上増えたことになる。
ギルドが規定する魔力値50には届かないが、それでも驚くべき成長だ。
それを証拠に、あの大人っぽいお姉さんキャラのステラさんが、ものすごい取り乱し方をしているのだから。
「なんでこんな事になったか言いなさい!」
鷲のように両肩を掴んだステラさんに、ガクガクと揺さぶられながら――。
僕は胸の中で、小さな友人に感謝の言葉を贈った。
ありがとう、ピチカ。
おかげでまた一歩、前進できたよ。
「ねぇちょっとオガミ君物思いにふけってないで素直に白状なさい! 怒らないから、ね? お姉さんに全部言いなさい。ね、ほら、言いなさいったら! 怒るわよ!」
どっちですかステラさん。