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1-24 仮説と実証




 うーーんと背を伸ばす。

 今日も快晴。気温はあたたかく、日差しが心地いい。

 吹き抜ける風が森林の薫りを運んでくる。

 その空気を胸いっぱいに吸い込み、よし!と僕は気合を入れた。

 防具屋で買い物をしたあと、カフェテラスでサンドイッチのお弁当と、水筒に入った紅茶を購入し、支度を整えてから、僕はラビットクローの生息する平野に来た。

 辺りを見回すが、人の気配は無い。

 はじめてここに来たときも思ったのだが、この狩場は人気がないのだろうか?

 2000ルーヴという買い取り価格では採算が合わないのか、はたまた、もっと価値の高いモンスターが生息する狩場が近くにあるのか。調べる必要があるな。

 まぁ僕としては、誤射の心配をする必要が無いので、人がいないほうが好都合だ。

 今日はこれから、ある実験をするつもりでいる。

 すっと瞳を閉じ、スペルブックを脳内で開く。そして残弾数を確認。

 ベレッタM92F 8+1。

 M4A1 5+1。

 ハーピー討伐後、また数字が更新していたのだ。

 一番最初にベレッタを生み出した時は、5発しか撃てなかったので、およそ倍に増えていることになる。M4A1も2発増えている。

 これに気づいた僕は、ある仮説を立てた。


『レベルアップ』


 モンスターを倒して経験値を溜めることで、レベルが更新し、それにともなって身体能力が向上する。RPGでおなじみの成長システムだ。

 もしかして僕の弾数の更新も、このレベルアップによるものじゃないかと考えたのだ。ということは、ラビットクローを大量に狩れば、もっと弾数が更新され、おまけに魔力も向上するかもしれない。その仮説を証明するために、これから実験を行う。

 確かめる価値は十分ある。

 昨日の疲れは微塵もない。全力でやってやる。

 僕は肩から鞄を下ろすと、その中からニーパッドとマガジンポーチを取り出して、体に装着していく。

 ポーチのベルトをギュッと締めると、体の中でスイッチが入る音がした。

 準備が整うと、必要な物だけ出して岩場の隙間に鞄を隠した。

 もう2度と盗られるのはごめんだ。

 屈伸などで動作を確認するが、ニーパッドもポーチもブーツも、まったく動きの邪魔にならない。本当にいい買い物をした。

 ステラさんに貰った言葉。

 モーガンの親父さんに貰った言葉。

 それらが僕の中で活力に変換され、血管を駆け巡る。心臓の回転数が徐々に上がってくるのがわかる。

 予備マガジン2本をマガジンポーチに差し込む。

 仕上げにベレッタM92Fを召喚し、スライドを引く。薬室に初弾があることを確認。手を離すとスライドが戻り、ジャキンッという金属の音を奏でる。

 音が右手を伝わって全身へと波及していく。

 一度、大きく深呼吸する。

 そして僕は行動を開始した。





 ゼェゼェと肩で息を吐く。

 玉の汗が頬をつたい、顎から垂れてポタポタと落ちる。

 着ていたシャツは、まるでバケツの水を被ったように汗で濡れている。

 42匹。

 僕はあれから42匹のラビットクローを仕留めた。

 解体作業の詳しい手順は、買取カウンターの職員に聞いていた。

 頭蓋骨と耳の軟骨がくっついているところに微妙な隙間があり、そこにナイフの刃を滑り込ませ、一気にクリッと回せばハイおしまい。めっちゃ簡単。

 その場で手早く解体し、死骸を近くのヤブに投げ捨て、次の獲物を探す。

 そしてある程度進んだら、もと居た場所に引き返し、死骸を漁りに来た新たなラビットクローを始末する。

 一匹一匹、丁寧に殺していく。

 そして学んだことがあればその都度メモにとる。

 途中、昼休憩をとりつつ、この作業を夕暮れになるまで延々続けた。

 弾薬の消費も激しく、帆馬車のときに溜めておいたストックの大部分を失った。

 銃声を聞きすぎて右側の耳鳴りがなかなか納まらない。

 魔法薬も、丸々1本消費することになった。

 その努力の結晶が42という数字になった。回収した耳は鞄に入りきらなくなり、そこらのツタで新聞紙のように縛った。それでも両手で持たないといけない。その2山のトロフィーを前にした僕は、達成感に思わずガッツポーズをとってしまった。

 でも本来の目的はそれじゃない。

 レベルアップだ!

 半日の時間をかけ、貴重な魔法薬を消費してまでやった実験は、


「なんでだよっ!」


 見事、失敗に終わった。

 まったく数字が増えていなかったのだ。

 戦っている最中、ベレッタの残弾数が増えないことに不安を覚えたが、スペルブックに何かしらの変化があることを期待していた。

 だが結果は、ご覧の通り。

 つまりレベルアップじゃないということなのか? 

 じゃーもーどーすりゃいーんだよもー!

 自信満々だった仮説が失敗に終わり、僕のやる気は真っ二つにへし折れた。

 ついでに理性も。

「あーもーやだ。ウサギ見たくない、血も見たくない、耳さわりたくない、お腹すいたサンドイッチ美味しくなかった玄米茶飲みたいキナコモチ食べたいシャワー浴びたい着替えたいお腹すいたあああ!」

 岩場の上に寝転がり、手足をバタバタさせて、天に向かって駄々をこねまくる。

 おもちゃ売り場で子供がよくやるやつだ。

 人がいないことをいいことに、存分にみっともないグチを吐き出しまくる。ちょっとスッキリした頃には、上がっていた動悸も収まっていた。

 足を投げ出したまま空を見上げる。

 時刻は夕暮れ。

 空はダークブルーとオレンジが混ざり合った綺麗な夕闇に染まっていた。

 火照った頬をなでる風はひんやりしていて、徐々に汗が引いていく。

 はー気持ちいい。

 しばらく涼をとり、体力が幾分回復したのを待ってから、僕は起き上がった。

「……帰るか」

 ポツリとこぼし、両腕にずっしりとくる戦利品を下げ、町へと戻ることにした。







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