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僕という人間は、それはもう、どこにでもいる普通の高校生だ。
アクション映画と時代劇、そしてFPSゲームが大好物。
映画「ブレイブハート」の影響で、最近ケルト音楽にはまっている。
ケルトつながりで「処刑人」という映画を知り、これも気に入った。一時期、主人公のマクナマス兄弟に憧れて、ブルージーンズに黒のPコートを私服にしていたのは……消したい過去のひとつだ。
好きな俳優は勝新太郎と萬屋錦之介。
身長170cm。運動する習慣が無いので体は細い。
顔は犬っぽいとよく言われる。
これといった才能もなく、部活に情熱を燃やすような性格でもない。
特徴なんてこんなものだ。
映画や音楽に影響されやすい、そんな、どこにでもいる思春期の高校生だ。
僕の日常は、学校にいって、適度に勉強して、残った時間をひたすらネットとゲームに消費する。そして休日になると近所のレンタルショップに行き、100円で借りられる古いアクション映画を漁り、本屋の新作コーナーをはしごする。
だいたい、いつもこの繰り返しだ。
学校では真面目な生徒で通している。
遅刻もしないし、宿題も忘れない。おまけに普段から「ですます」調で話すから、なおさら真面目に見られる。担任からの評判もすこぶる良好。
でも僕は、自分で言うのもなんだが、けっこういい加減な人間だ。
僕にウサギ小屋の管理を任せたら、一週間たらずで『羅生門』のような共食いだらけの地獄絵図に変わり果てるだろう。
興味のあることにはいくらでも真剣になれるが、それ以外となると、とたんに無頓着になる。
学業を真面目にこなしているのには理由がある。
それが月々のおこづかいに直結しているからだ。そういう打算がなかったら、とてもじゃないけど毎朝7時起床なんて無理だ。
こういう僕の性格を知り尽くしている母さんが作った、成績と授業態度によって増減するおこづかいシステムは、おおむね上手く機能しているといえる。なんか癪だけど。
そんなわけで。
僕は親に上手く転がされつつも、趣味に没頭するだけの毎日を送っていた。
そんな変化の無い日常を、僕はいたく気に入っていた。
できればこのままのペースでいけばなぁとボンヤリ思っている。
しかしそうも言ってられない時期がやって来た。
高校3年の1学期。この時期になって、僕はある悩みを抱えていた。
僕はいったい何がしたいんだろう?
いままでは、テストがあるから勉強した。
受験があるから塾に通い、内申点があるからまじめに学校に通った。
みんながやっているから、僕は悩むことなく同じ事をしていられた。
余計なことに頭を煩わせる必要がなかった。
でも高校を卒業したら、その先はどうなるんだろう?
さすがに皆といっしょとはいかなくなる。
大学に進学したらどうだろう? また今までのように、何も考えずに怠惰な生活を続けられるかもしれない。
でもそれは問題を先延ばしにしているだけだ。
それに遊ぶためだけに高い学費を両親に払ってもらうのは、さすがに心苦しい。
じゃあいっその卒業と同時に、ゲーム会社に就職してみてはどうだろうか?
説明書を読まず、チュートリアルをすっとばすヤツが、ゲームを作るなんて無理だ。
そもそも僕が社会に出て、いったい何が出来るんだろう?
勉強は平均的にやれる。でもそれだけだ。
履歴書になんて書けばいいんだ?
――特技って何だ?
仮想空間で敵の頭を吹き飛ばす技術が評価されて、世界ランキングで3位を取りました! でもいいのだろうか? いいわけないか。
――志望動機は?
僕はいままで何も考えずに生きてきました。だから御社でも何も考えずに仕事だけ与えてください。余計なことは考えずに従います。でも定時で帰してくださいゲームしたいので。
そんなやつ雇うか?
あれこれ考えるだけで、僕は具体的な行動を何も起こせないでいる。
僕のまわりは高校2年のうちに進路を決めた連中ばかりで、もう進路に向けて活動している。今頃悩んでいるようなマヌケは僕だけだ。
焦るが、まったく答えが出てこない。
というか結局。
いったい僕は何がしたいんだ?
あーもー。
考えるの面倒くさっ!
とりあえずゲームしてから、また考えよう。