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プロローグⅠ・路地裏


 長ったらしい前口上や、全てを理解しているような口を利く必要というものはこの町には必要ないのかもしれない。しかし、敢えて説明するならば、この町で起こる犯罪の多くは、夜の汚い路地裏で始まるということだ。そう、今夜も・・・



 ある狭い路地裏で、青年が一人歩いていた。彼は幼い顔つきをしており、青年というよりはむしろ少年と表現した方が適しているかもしれない。長くボサボサの金髪を掻き毟りながら、月明かりに薄暗く照らされた周囲の新聞紙やダンボール、空になった缶などを避け、路地裏を通り抜けようとしている所だ。

 と、その時、青年は対面から来た自分より少し大柄な男とぶつかった。


「おっと、ごめんよ」


 青年は足元ばかり見ていたため、先に謝りながらその男の横を通りすぎた。狭い路地裏でこのようなことは稀でなく、加えて男は大柄なためそのような事がよくあるのか、気にするなとでも言うように手を挙げ、そのまま先に進む。

 はずだった。


「・・・おい、お前」


 男が立ち止まり、青年に声をかけその足を止めた。


「ん?」


 青年が振り返ると、男は鋭い目つきで彼を睨んでいた。拳を握り、今にも殴りかかってきそうな雰囲気さえ出している。


「・・・何か用でも?」

「・・・無いんだよ、上着の内ポケットに入れていたものが・・・無いんだよ」

「なにが?」

「俺の・・・財布だ!!」


 言うが早いか、男は青年の顔めがけ、猛然と殴りかかってきた。青年は足がもつれながらも、なんとか後退してそれをかわす。しかし、一撃を避けても、二撃、三撃と次々に拳は襲い掛かってくる。拳が鼻先を掠める度、嫌な汗が青年の背中を伝う。


「いってえ!!」


 遂に青年はバランスを崩し、転んだ拍子に壁に頭をぶつけた。ぶつけた所を押さえながら青年が顔を上げると、目の前に男がいた。男はいつの間にか右手に空の酒瓶を持っていて、額に血管を浮かび上がらせながら青年を見下ろしている。


「・・・ちょっ、待てって! 俺じゃねえって!」

「じゃあ、誰だって言うんだ! 言い訳してんじゃねえぞガキ!」

「知らねえよ! んなこと!」

「路地裏に入るまでは確かにあったんだ!」

「勘違いかもしれねぇだろ!」

「お前、俺を馬鹿にしてんのか!」


 男が酒瓶を振り上げる。


「待て待て待て待て! 俺が持ってる財布はこれしかねえよ!」


 青年は慌ててコートから茶色い財布を取り出し、男の顔面に投げつける。男は空いた左手で財布を受け取り、確認した。色、形、カード類、紙幣、小銭。


「・・・お前・・・これ俺の財布じゃねえか!」


 そう言って、男が財布から青年に視線を戻すと、青年が男に殴りかかってきていた。しかし、男は財布と酒瓶で両手が塞がっており、青年の拳を真正面からもろにくらう。


「ぐえっ!」


 男は思わず財布を放し、空いた左手で鼻を押さえる。痛みとともに、液体ような固体のような嫌な感触が左手いっぱいに広がる。

 青年はその隙を見逃さず、男の右手を捻り上げ酒瓶を奪い取ると、鼻を押さえている顔面めがけ、それを振るった。

 酒瓶が割れる大きな音と、男が倒れる小さな音が辺りに広がった後、騒がしかった路地裏に静けさが戻った。

 青年は割れた酒瓶を男に向けながら、恐る恐る近づく。男の傍まで来ると、男の頬を軽く掌で叩き、様子を見る。反応が無いことを確かめると、彼は安堵の表情を浮かべ、持っていた酒瓶をそこらに放り投げ、財布を拾う。


「久々に、ばれちまったなー。やっぱり内ポケットから盗むのは無茶があったか・・・しっかし、財布盗まれたぐらいでごちゃごちゃうるさいやつだったな。こちとら喧嘩は苦手だっていうのによー。盗まれた時点で俺の物で、お前の注意不足を恨めっての・・・」


 ぶつくさ言いながら青年は財布の汚れを払うと、自分のコートのポケットにそれをしまう。

 月明かりの下、腕時計を確認すると、時刻は夜の十一時を過ぎていた。


「やっべえ! 遅刻だ!」


 そう言うと、青年、いや、この町の犯罪者には色々種類はあるが、その中でも一番多く、一般的な犯罪を犯すもの、泥棒の一人、ヒューゴ・アッカーソンは路地裏を抜け、夜の街に駆け出していった。


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