「第10章」
バディーは、ちょっと困りながらも、ルイに会うことにした。
ルイはこの時代に合わせた、5人の小さなバンド編成でやって来た。
オリバーのところに戻るためだったのだが、シカゴにオリバーはいなかった。
後でカポネに聞いて調べてもらったところ、オリバーはシカゴで一番の演奏者だったが体調を崩し、ルイを追うようにニューヨークにいったそうだ。
ニューヨークで、仕事を探したがうまくいかず、今はどこにいるかわからないと言うことだった。
デュークと出会った、あのコットンクラブにも交渉に来ていたらしい。
なんとも、不思議な話だとバディーは思った。
ルイのバンドはいろいろなところから、声がかかった。
人数が少なく、安くですむうえに、オリバーの弟子とも言える人物なので、腕が確かと言うのが、売りだった。
そんなある日、ルイが何度目かのレコードに録音するという話を、バディーに持って来た。
バディーは、レコードには嫌な思い出しかなかった。
始めて録音したのは、2曲。
再生した時のあまりの音の悪さに、耳をふさいだものだ。
その話は置いといて、とりあえず、ルイの演奏する曲を聞いてみた。
昔よりは、マシになったみたいだけど、相も変わらずノイズだらけだ。
その中で、面白かった1曲歌詞を見せてもらった。
「ルイ。この曲いいじゃないかな?」
バディーは、”ヒービージービーズ”という曲をルイに進めた。
ルイが帰って、部屋を見ると、1枚の歌詞カードを忘れて帰っていた。
まぁ、取りに戻ってくるでしょ。
バディーはそう思いながら、いつも通り生活していた。
それからしばらくして、ルイが歌ったレコードが面白いという噂が聞こえてきた。
バディーはカポネに蓄音機を借りて、ルイの曲を聴いた。
バディーはその曲を聴いてあぜんとした。
歌の途中で、適当にハミングしていたのだ。
多分、歌詞カードを忘れたまま録音したに違いない。
バディーは居た堪れない気持ちになった。
その後も、ルイは7人のバンドと大きくなり、成功をしていった。
また、ラジオという謎の箱によって、ニューヨークで会ったデュークや、モートンの声や曲を聴けるようになった。
しかし、世界恐慌で街中は地味な服装が増え、貧困で住む家もなくなった人は、街中を徘徊するようになっていた。
そんな状態も、ラジオという不思議な箱は、救ってくれた。
なんと、ルーズベルト大統領が「世界を巻き直す」と宣言して、ニューディール政策というのを始めた。
街中でラジオを販売している、お店には多くの人が集まり、その内容を聞くや否や、仕事をもらうためハローワークへ向かった。
これによって、街は整備され、田舎の道にも綺麗な道路ができるようになっていた。