「「グッド・ナイト、エンター・トレイナー(四十九日物語から)」
カン、カン、カン。
鉄製の階段を古びた独特の音を立てながら登っていると、
その横を聞き慣れない、足音が私の横をすり抜けていった。
どうやら、いつも私より先にきている金髪の女性が、送れてきたようだ。
ドアを勢いよく開け入った金髪の女性に遅れて、
私はゆっくりとお店にはいると、部屋の奥にある席へ向かった。
私がいつも座るお気に入りの席。
理由は、読んでいる本を取るのに楽なためだ。
すぐ横の本棚から一冊、手に取った。
「四十九日物語」と書かれた紅いそれは、
私がここに来るようになったきっかけの本。
本を開いたとき、店のマスターが、メニューを差し出してきた。
私はメニューから「ココア」という文字を見つけると、それを指指した。
マスターは、黙ってうなずくとそのままメニューを受け取って戻っていた。
マスターは相も変わらず、無口だ。
まぁ、私も人の事を言えない方だが・・・。
読んでいる最中に、ココアを持ってこられると興ざめするため、しばらくの待つことにした。
店内を見回すと、先ほどの金髪の女性はカウンター席の方で、
隣の男性にもたれ、はしゃいでいる。
仲がいいようではあるが、男性は遠慮がちな動きが見られた。
いつもの事ではあるが、普通ああいうタイプの女性に、いつのまにかなれるものじゃないか?
あの男性は何を遠慮しているのだろうか?
まぁ、どちらにしても私には、あの手の女性は、苦手だ。
私が女性とここで過ごすなら、黒髪で清楚な和服の似合う女性が何よりも素晴らしい。
そんな女性となら、私のおごりでお茶をしたい!
・・・まぁ、いつかは出会いたいものだ。
私が、物思いにふけっていると鼻先を甘いカカオの香りがくすぐった。
机の上に、注文したココアが置かれていた。
ココアを持ってきたマスターは、黙ったまま会釈すると、
そのまま基いた場所へと戻っていった。
私は、ココアに口をつけた。
独特の甘みが口の中に広がる。
さて本を読む事にしよう。