■2:勇者カリナ、魔王城突入
カリナの周囲に立つ護衛官たちが次々に情報を伝達してくる。
「リザードマン兵団はそのまま岩場を進行して魔王城を包囲しています。敵守備部隊の側面迂回攻撃を阻止するとのこと」
「魔王城周辺には戦闘力の高い魔獣が放逐されております。マルセウス殿がドラゴン族を率いてそちらの対処に向かうとのこと」
「牙狼騎士団が正面突撃を具申しております。いかがいたしましょうか?」
それに対して適時回答を示すのもカリナの必要な役目だ。
「マルセウス殿に敵魔獣集団の対処は全面的にお任せするとお伝え下さい」
「はっ!」
魔族には、魔界の生物である〝魔獣〟が戦力として確保されている。その対処は困難なものだが、ドラゴン種族ならまさに好敵手である。
「リザードマン兵団にはそのまま敵の迂回攻撃を阻止した後、魔王城の突入口となる正面ゲート付近へと集合するように伝えてください。牙狼騎士団には魔王城突入の際はエルリック率いる重装歩兵部隊、及び、ミリア率いる弓兵部隊との連携で突入を行うので、それまで待機するように伝えてください」
「心得ました!」
リザードマン戦闘兵団、牙狼騎士団、そしてドラゴン族戦闘部隊、それぞれに活躍の場が与えられる。特に巨躯と翼を有するドラゴンたちは必然的に城外での活躍が期待されるのは当然だった。
そこにソフィアが語りかけてくる。
「カリナ、空中警戒用の翼竜ドラゴンと視点共有で魔王城周辺を詳細に分析したけれど、この魔王城中枢本城においては、城の周囲には魔獣が展開されているのみで、守備部隊はすべて場内に残しているようよ」
魔獣とは魔族の生息領域や別位相世界である魔界に生息している魔導性生物の事だ。高い戦闘能力と生命力を有し、魔王軍の主要戦力として太古より脅威とされてきた存在だ。ドラゴン諸氏に対応を任せるのは当然の流れだった。
カリナはソフィアの言葉に反応した。
「つまり――、もう立てこもるしかできなくなっていると?」
「そのようね。もしくは今後のことを考えて現魔王を見限り離脱した者たちがかなりいるのかもね」
「つまりは〝残党〟となることを覚悟した者たちがいるということですね?」
「その通りよ」
カリナは少し沈黙した。
「〝戦後処理〟が大変なことになりそうね。でも今はそんなことよりもあれをなんとかしましょう」
カリナの視線の先にはそびえ立つ魔王の漆黒の牙城――ダークフォージ城の本城ががそびえ立っていた。
また、周辺には支城や関連施設が一つの巨大な都市のように張り巡らされている。ソルスター自由連合軍の諸勢力は、それら本城以外のすべての勢力を牽制し潰すために全力を尽くしているのだ。
今、ダークフォージ本城の城壁には銃眼があり、そこから弓矢による威嚇が行われている。だが対策は抜かりない。
城外の守備部隊を壊滅させたリザードマンの長たるケラブノスが具申する。
「城の弓兵を沈黙させます。我ら鱗の眷属にお任せあれ」
「お願いいたします!」
カリナはミリアとソフィアに命じて城に対して牽制攻撃を行う。その隙に乗じてリザードマン兵たちは周囲の水堀を通じてやすやすと城壁に張り付くとあっさりとよじ登り、敵が矢を放つ銃眼から直接攻撃を仕掛けた。
敵の弓攻撃の隙をつき、銃眼の隙間から手投げ弾を投げ込む。魔法剣士騎士団が独自に開発した防水構造の特製の手投げ弾だ。水中を得意とするリザードマンの特性に合わせて奇襲攻撃時に有効に使えるように開発し与えてあったものである。
――ドォオオン!――
絶妙に手投げ弾が敵場内に押し込まれて炸裂する。うまい具合に城の壁を越えて投げ込む者もいた。リザードマンたちは手投げ弾の扱いには完全に習熟していた。
「お見事!」とカリナ、
「リザードマンたちの奇襲攻撃はこれまでにも多大な戦果をあげております」とエルリック、
「ええ、でも安心してはだめよ。次が来るわ」
カリナは皆の気持ちを引き締めるように告げた。
城門が開き中から重武装の守備部隊が現れる。向こうから攻撃に打って出てきたのだ。カリナは即座に指示を出す。
「出てきた! ミリアとソフィア、迎撃してください! エルリックと牙狼騎士団は突撃攻撃の準備!!」
「心得た!」とエルリック、
「応っ!」と牙狼騎士団団長のゲオルグ、
そして、カリナの言葉に救世の魔女と呼ばれたソフィアが語る。
妖艶な容姿を持つ極めて鋭敏な知性を宿した稀代の女性魔導士だ。清楚なチュニックドレスを纏い、両肩から高位魔導士の証の紫のローブマントを羽織っていた。
「任せてカリナ。魔法と言う魔族ならではの力においては人間側の不利は避けられなかった。数の上では人間が勝りつつも、魔族の魔法の前の苦渋をなめてきた。でも今は違う!」
その傍らでカリナの仲間で弓の名手のミリアが戦陣の後方から弓隊を率いて展開する。男性風のチュニックにホーズズボンに革ブーツを付け肩からハーフマントをなびかせた男装の麗しい女性斥候戦士だ。
「長弓隊! 前へ! 魔法指標矢! 準備!」
弓隊が先端に赤く光り輝く水晶の鏃を付けた弓をつがえた。
「撃て!」
一斉に弓が放たれ、それと同時に戦陣の後方で待機していたソフィア率いる魔導士部隊による魔法詠唱隊がマジックスペルを唱えた。
「降魔破壊衝撃波! 魔法指標に従い! 目標に接触にて発動!」
それは魔法と弓術の連携だった。弓矢程度では魔力に優れ強い生命力に満ちた魔族を倒すことは不可能だ。しかし魔法の詠唱では射程に難があり、また精密な目標指定は技量を必要とする。ならば、この2つの利点を合わせれば良いと人間は気づいたのだ。そして――
「がっ!?」
「ぐああぁっ!」
圧倒的な魔力で優るはずの魔族が、一本の矢によって次々に打たれていく。敵魔族の城塞防衛兵が次々に姿を消していった。だが、敵もこれで沈黙するほど甘くはない。
――ゴトッ――
かすかな物音がする。それに気づいたのは狼獣人のゲオルグだ。
「危ないっ!」
物陰からカリナを狙った短弓の暗殺の矢が射たれた。それに気づいて瞬時に飛び出すと腰に下げたスクラマサクス刀を抜いて矢を弾き飛ばした。勇者カリナを狙い撃ちにする暗殺者の影にゲオルグは怒り猛った。
「隠し通路から奇襲をかけやがったな?! そうはさせるか! 牙狼騎士団! 出番だ!」
「おおおおっ!」
それまで命じられるままに静寂を守り控えていた牙狼騎士団の狼獣人たちだったが戦う場を得て俄然いきり立った。〝群れ〟と言う価値観の中に生きる狼ならではである。そして、狼ゆえにさらに優れた面がある。
「暗殺者は複数! ざっと〝聞いて〟20から30は居る! 鼻と耳で嗅ぎ分けて引きずり出せ!」
「応っ!」
狼が生物として優れているものに聴力と嗅覚がある。目で見ることに慣れきっている人間にはない、独自の感覚だった。これまでの戦闘経験からゲオルグは目算ならぬ耳算で敵暗殺者の数を探り出す。当然、姿を隠しているはずの暗殺者のその位置をあっさりと見破る。
「そこだぁっ!」
腰に巻いたベルトには肉厚なダガーナイフが投擲用に複数下げられている。その一つを抜いて投げ放てばなにもない壁に突き刺さり、うめき声とともに黒装束の魔族兵が現れて崩れ落ちた。隠身用の光学偽装魔法を用いていたのだ。
他の牙狼騎士団の団員たちも暗殺者集団を即座に暴き出していく。姿を隠して暗殺を成功させて、混乱を生じさせようとしていた魔王軍だったが、その狙いは脆くも崩れ去った。
音もなく忍び寄り命を奪うのが暗殺者の本懐だが、狼獣人たちの能力の前には虚しい去勢に過ぎない。。
「ひっ、ひぃいい!」
恐れをなして逃げ出す暗殺者集団だったが、逃げる獲物を追うのは狼が一番得意とするところだ。
「逃がすかぁっ!」
即座に追いつきその首を背後から抑え込む、と同時に心臓を一突きにして絶命させる。まさに一網打尽である。
「暗殺者排除成功!」
「気を抜くな! 奇襲攻撃の第2波があるかもしれねえ!」
「了解!」
そんな彼らの働きをカリナはしっかりと見ていた。
「牙狼騎士団の方々、お見事です!」
「恐悦!」
ねぎらいの言葉に満足げなゲオルグだったが戦意はなお燃え盛っていたのだった。




