第四十二話
「籠城戦で勝てばいい」
そう宣言してみたものの、具体的に何をすればいいのか思い付いていなかった。
彼我の戦力差は一対三、攻城戦における定跡の比で勝ってみせようとするのだろう。
但し徳川方の戦力の損耗が大きければ、攻城戦の攻め手における矜持などかなぐり捨てて戦力の補充を図るだろうし、それが出来る体制を構築している。
つまり、どれだけ徳川の兵に被害を出したところで、豊臣の勝利には結びつかない。
我々が勝つには、徳川家康及び徳川秀忠、この二人を倒さなければならない。
だが、二人の陣は大坂城から遠い位置に布陣するだろう。
籠城戦で、遠い距離にいる敵将をいかにして倒すのか、この問題に対する回答を提示出来なければ、恐らく僕は軍師を解任されるだろう。
そうなれば、僕の立場は真田信繁の世継ぎで、秀頼公の侍従の一人に過ぎない。軍師を解任された僕を、真田家の皆さんは、特に十勇士の方々は受け入れてくれるだろうか。
やれやれと思う。転生してからの数か月、生き残る為の布石を一つ一つ積み上げて来たのに、今日崩された。諦めずもう一度積み上げて行くしかないだろう。
思えば十勇士の皆さんには無茶なお願いばかりしていたな。八丈島から宇喜多秀家さんを連れて来て、淀の方を亡き者にして、各大名への調略活動を実施した。・・・待てよ。初対面の時に僕が言った策は四つで、実施したのは三つ。何を実施していないのか。
思い出した。・・・同時に問題に対する答えの一つを見つけ出した。
籠城戦において徳川本陣に被害を与える方法について。
「すぐに十勇士の皆さんを集めて下さい」
速やかに十人が集結した。ここに至っては、隠し部屋での謀議ではない。豊臣方の軍師として、堂々と開会を宣言する。
「お忙しいところ誠に申し訳ありませんが、集まっていただいたのは今回の徳川の戦についてです。初めに申しておきますが、本日の軍議において、徳川とは籠城戦を主として戦う事になりました。本来は一か八かの野戦を選ぶべきところを、必敗と思われる籠城戦を選択したのは、僕の力が不足していた為に、他なりません。申し訳御座いません。・・・しかし僕達が生き残るためには、勝たなければなりません。ここで勝利するには、何としても大御所と現将軍を倒す必要があります。しかし、二人の陣は天守から離れた場所に布陣するでしょう。我等は籠城戦にて、その二人を倒さなければなりません」
才蔵さんが挙手して、話し始めた。
「大助様、我等が大御所並びに将軍の陣に潜入して、二人を無き者に致しましょう」
「ありがとうございます。その心意気に感謝致します。しかし、暗殺は駄目なのです。いくら我等が将軍を倒した、と言っても幕府は否定するでしょうし、代わりの二代将軍を立ててくるでしょう。それ程、幕府という組織は堅固なものなのです。・・・ですから、我等は皆の見ている前で、大御所並びに将軍の軍を完膚なきまでに倒す必要があります」
「・・・そんな事出来るのですか?」
「立場上、出来ない、とは言えません。しかし、それは非常に困難です。ですので、籠城戦を考えている方から見ても、今こそ城から出て大御所並びに将軍を倒すべきだと思わせる状況を作らなければなりません。・・・そこで皆さんに働いてもらいます。大御所及び幕府の所有する大砲を暴発させて、両軍に大きな被害を出させるのです」
「どうやってそれを実現するのですか?」
「それについて、今から説明致します。まず、大御所並びに幕府が今回の戦で使用する大砲について調べます。大砲の数は勿論ですが、砲身の長さと砲身部の筒の厚さを調べて下さい。それにより大砲の射程距離が分かりますし、大御所や将軍の布陣する場所も特定出来るかもしれません」
「どうして大御所や将軍の布陣場所が特定出来るのですか?」
「それはわかります。大砲を他の藩に貸し与える事はあり得ないからです。いくら信頼している藩であっても、もし砲身を向けられれば大被害を受ける兵器を貸すでしょうか?また、貸し与えられた藩主が、天下人になれる誘惑を捨て去る事が出来るでしょうか?よって、幕府並びに大御所の陣の中で発射しようとする筈です。目標はここ大坂城天守であると同時に、味方の藩への牽制となるのです。・・・次に暴発する砲弾の作成です。余裕があるのでしたら、着弾後の爆発・飛散を抑えた砲弾の作成もお願いします。我等の被害がそれだけ抑えられますので・・・。それから、作成した砲弾を敵のものとすりかえます。ここで注意する必要があるのは、暴発する弾丸を最初に持って来てはなりません。一射目で暴発事故が発生した場合、幕府は我々の関与を疑うでしょう。疑われたら最後、二度と大砲は使用しなくなり、籠城戦は更に長期化すると同時に、動員数通りの結果となる可能性は高まります。後は単に混ぜるだけでは駄目です。必ず同数を持ち帰って下さい。砲弾数に関しては常に確認しているでしょうから、砲弾数が増える事態となれば、我々の策略を疑いますからね。ここまでを開戦前にやり遂げたいと思います」
ここで一旦説明を中止すると、十人で担当を決め、必要な人員、失敗した場合の追加策・代替策の詳細を決めていった。彼等の決めた案は非の打ち所が無いものに思われた。
実を言うと、ここで話を切ったのは、僕に迷いがあったからだ。今から僕が話す事は、確実に味方の犠牲を伴うものだ。軍師でありながら、味方の死に躊躇する。お笑い種だ。
僕は覚悟を決めた。
「そして、ここからが重要です。開戦後、自陣の前に大砲を押し出して砲撃されたのでは、暴発しても彼等に与える被害は少ない。従って、大砲を陣の中央で、出来れば将である大御所や将軍の近くで砲撃させる必要があります。そして、その状況を作るべく、徳川の本陣に向けて攻撃する必要があります。真田が砲撃をやめさせる為に大砲を狙っている、と思わせるのです。そうすれば敵の防御が次第に厚くなり、暴発時の被害は大きく出来ます。しかし、これを達成するには多くの犠牲を伴います。全員討ち死にする事も覚悟しなければなりません。・・・ごめんなさい。軍師と名乗っていながら、こんな見方の犠牲を前提とした策しか考えられず、本当にごめんなさい」
僕は泣きながら、十勇士の皆さんに土下座していた。僕はこんな不甲斐無い策しか考えられない自分を恥じていた。どれだけ恨まれても、仕方が無いと思っていた。
しかし、彼等からの言葉は、僕の予想とは違っていた。
「何をおっしゃられているんですか。我等武士は死ねと言われたら、死ぬのが役目です。寧ろこういう大事な役目を、我等に与えて下さり御礼を言いたい気分ですよ」
「ありがとうございます・・・」
僕は再び皆さんに土下座した。
「皆さん、先程申した役目の部隊には、真田家の為に、豊臣家の為に死んでくれる旨の了解をいただいて下さい。豊臣家、真田家が存続する限り、皆さんの御家族の事はお守りします」




