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この作品には 〔ガールズラブ要素〕が含まれています。

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牢妹百合部屋

掲載日:2026/03/10

 目が覚めた時、私の身体が動かなくなっていた。


 ベッドに仰向けになりながらでも、手を伸ばせば届きそうな場所にあるスマホのアラームが鳴り響く、けど今は止められない。

 身体が言うことを聞かない。


 意識はあるし、五感もある。

 ただ、身体だけが動きを止めている。


「ぁ...ぁ...」

 喉から出たその声は、今の私が出せる限界の声。

 口は動く、だけど声が出ない。


 アラームの鳴ったタイミング的に現在は6時。

 早く起きないと学校に行けない。

 今日は化学のテストがある日なのに。


 今の私がするべき事。

 とりあえず考える。


 これは夢?

 現実味がないし、動けないなんて夢みたい。

 ただ、私の本能が夢ではないと語っている。

 現実だと。


 ならば、現実ならこれは一体何なのだろうか。

 金縛り?それとも病気?

 頭は回るようで回らない。


 今は、誰か来てくれるのを待つしかない。

 と、結論づけた。



 6時30分を過ぎた頃だろうか。

 アラームは止まり、スヌーズも時間で止まった。


 今はとにかく焦っている。

 早く支度をしないと遅刻になっちゃう。

 夢ならそれで良い、早く終わってほしい。

 と言うか夢であってほしい。



 なんて考えてから4分後。


 視界には映らないが、確かに「ガチャ」っと音が聞こえた。

 扉の開く音。に加えて。

「お姉ちゃん?まだ寝てるの?」

 という、妹の声。


 (はる)は私に近づき、驚きの声を上げる。

 私の目が開いているのに驚いたのだろう。

「わっ..! って...起きてるじゃん。なんで下に来ないの?遅刻しちゃうよ?」

 行きたいけど、行けない。

 と、伝えたい。が、伝わらない。


「ん?大丈夫?体調悪いの?」

 春は私のおでこに手を当て、うーんと唸る。

「うん、熱っぽくはなさそう。お姉ちゃん?おーい、あれ?この状態は...目が虚ろってやつ?これ見えてる?」

 私の顔の正面で手をブンブンと振り、困惑した表情を浮かべている春はしっかり見える。


 どうしたものか、コレ。

「...ぁ...あ」

 掠れたゴミみたいな声を出して、とりあえず見えてる事を伝えたい。

「?」

 うん、伝わらない。

「えっと...パパはもう会社行っちゃったし...とりあえずママ連れてくるね。待ってて」

 急ぎ足で部屋を出ていった春。

 うーむ、私の心配だけしているけど、あなたも学校に行く準備できてなさそうですけど、大丈夫なのかな。



こころ、大丈夫?」

 お母さんは来て第一声そう言った。

 私の名前を呼び、顔色を覗き込むかのように見てくる。


「心、喋れる?体動かしたり出来そう?」

「...ぁ」

「ん?なに?よくわかんないけど喋れた?ってことで良いのかなぁ...。けど聞こえてはいるのね。じゃあ、体は動かせないのね」

 ピンポン、正解。


「ねぇ、大丈夫なの?」

「大丈夫じゃ無いから後で病院に行きます。春は朝ごはん食べて学校に行く準備をしなさいね」

「えー...」

「えー、じゃないの」


 そう言って二人は私の部屋を後にした。


 いやー、まいったさんですね。

 ドウシヨ。

 特に何もやる事がない、と言うか、何も出来ないと言うか...

 とにかくドウシヨ。



 好きな音楽を頭の中で流しながら歌う。

 上手い!

 脳内ではすごく上手い!

 けど、いざカラオケに行けば80点前後という、ビミョーな点数なんだよね。残念。


 あー...なんか体痛くなって来た。

 ずっと同じ姿勢だからかな...?動かせないのに痛覚あるのめっちゃ変な感覚。


 とりあえず...状況整理とかしてみたり?しちゃうかぁ。


 体動かせない。

 寝て起きたらこの状態に。

 五感はある。

 考えることも余裕。

 声は出せない。


 さて、これな〜んだ?


 じゃなくて。えっと、とにかくわかった事は、夢では無い。なんらかの病気?って事くらいかな。


 はぁ...本格的にドウシヨ。



 大体1時間後。

「心?大丈夫?病院予約出来たから行くよ?」

 お母さんは部屋に入りながらそう言って来た。

 春を後ろに連れて。


 春め、学校を休むつもりだなぁ?

 まぁ、良いけどさ。

「なので、車まで私がお姉ちゃん連れて行きます!」

 ぴょこっと現れて、すぐさま私のベッドの横に立った。


 どうやって...

 そう思う前に、気づけば私の視界はぐわんぐわんと揺れ...すぐに安定した。


 分かりにくいけど、多分お姫様抱っこと言うやつだろう。春にそんな力があったとは...お姉ちゃんビックリです。


「行きましょーねおねーちゃん」

 私は子供じゃありません。



 車に乗り、シートベルトで固定される。

 春は私の隣に座り、息を弾ませている。

 疲れたのだろう。

 そりゃあ、当たり前だね。


 自分の姉を抱っこしながら、一階に行くために階段を降りて、玄関まで行き、車に乗せる。

 この一連の動作、私は出来ない。多分部屋に出る前に相手を降ろす。


 なので、春はすごい。ものすごく感謝だね。



 病院に着き、私は春におんぶされる。

 恥ずかしいけど。まぁ、抱っこよりはいっか...


 病院の中に入り、椅子に下ろされる。

 なんかめっちゃ久しぶりな気がするなぁ。

 高校生になってからあまり病院って来ないからかな。


 時々春が私を心配して、声をかけてくる。

 大丈夫だよ、って一言声をかけてあげたい。

 そのまま三人で大人しく待っていると名前を呼ばれる。

雛村ひなむら 心さん」


 若干子供たちの視線を集めながら、私は移動する。

 で、また少し待つ時間。



 待つ時間終了。

 診察の時間です。


 診察部屋に入り、座るところが丸い椅子に下ろされる。

 けど、そのまま下ろされても背もたれがないので落ちちゃう。

 それを春はカバーしてくれている。

 後ろに立ちながら、手で背中を支えてくれている。

 ありがたい。


「心さん、えーっと。喋れないし、体も動かせないと...」

「はい...朝からこんな状態で。昨日の夜は普通だったのに、朝になったら...」

 医師は少し考えてからこう言った。

「そうですね...こんな言葉はありませんが。この状態は、半植物人間。と、言ったところではないでしょうか」

 半、植物人間?


「半植物人間って、何ですか?」

「そんな言葉ないのですが、今私が作りました。ただ、それ以外にどう言えば良いのか分からず。こんなケース見た事ないですしねぇ」


「意識はある、ただ身体が動かせない。けど目は開いている。声も、掠れてはいますが出せてはいるんですよね?」

「は、はい...」

「なら、それ以外に言い方が分かりません。初めてですよ、こんなの。治し方も分かりません。前例がありませんからね...」

 医師は、困ったにゃあ、とでも言わんばかりの表情でそう告げた。


「頼りになれず申し訳ございません。とりあえず入院させ」

 医師がそう言う。

 だが、その前に私の視界はぐわんと回り、意識を失っていた。

 最後に感じたのは、首の痛みだった。



 目が覚める。

 仰向けになりながら天井を見ていた。

 見知らぬ天井。

 ではない、何度も見た私の部屋の天井だった。


 アレ?なんで部屋に?

 病院に行ってたと思うんだけど?


 瞬きを一回。

 体は動かない、声も出ない。

 全部夢でしたオチは無いか...



 窓から差し込む光は若干赤い、5時か6時くらいか。

 結構意識失ってるなぁ


 すると、隣に居た春が私の様子に気づく。

「あっ!お姉ちゃん!起きたの?大丈夫?病院で急に意識失っちゃったから、ずっと心配してたよ!」


 わっ!ビックリした...。いつから隣に?ずっと?ずっと居たの?

 小さい椅子に座りながら私の目が覚めるのを待っていたのだろうか?


「ママがお姉ちゃん起きたらこれ食べさせてって」

 春は私の隣から離れて、机に置いてあったお盆を持ってこっちにやってきた。

 そして、さっきまで座っていた椅子の上にお盆を置いて、私の体をゆっくりと起こし、ベッドの淵で支えるようにした。

 ちょっと背中が痛いけどいっか。

「これお粥、もう冷めちゃったと思うけど...」

 春はベッドの上に座り、お椀を持ってお粥をスプーンで掬う。

「はい、あーん」

 春は若干開いていた私の口にスプーンを入れ、取り出す。


 飲み込めるのか不安になったが、どうやら飲み込めるらしい。不思議。

 春は次に水を飲ませてくれた。


 ゆっくりとお粥、お粥、水のループで食事を進める。

 20分程かけて、全てを食べ切った。


 春は私の体制を楽にしてくれた。

 仰向けになった私に布団を上からかけてくれて、寝る準備はバッチリ。


 なんだけど、すごく申し訳ない。

 全部をお世話させてもらって、何が出来るのか分からないけど、自分なりにこの状況を解決する方法を見つけたい。


 ...寝て起きたら戻ってて欲しい!

 そう思いながら私は眠りについた。



 ゆっくりと目を開ける。

 もう朝か。

 私は起き上がって体を伸ばしたかったが、動かず。


 忘れてた、動けないんだった。

 はぁ、もう疲れた。



 私が目を覚ました2分後に扉が開かれた。

「おはよう!お姉ちゃん!」

 バンッ!と開かれた扉と共に、春が入って来た。


 朝から元気で何よりですよ。

「今は時刻5時40分ですよー。今日は早く起きたねー」

 春はカーテンを開けながらそう言う。


 一つ聞きたかったのは、何故私が今起きているとわかったの?それだけです。

 超能力でも持っているのかこの妹は。


「はい、これお茶」

 私の体を若干起こしながら、口に水を流し込んでくれる。

 ありがたいけど、やっぱり申し訳ないっていう気持ちが大きいなぁ。



 春は6時20分になるまでずっと一緒にいてくれた。

 ベッドの隣の椅子に座りながら、一方的に話をされた。

 相槌を返せるわけでも無いのに、話をしてくれた。


 一人の時はちょー暇なのでこうして話してくれるだけでもすごく嬉しかった。


 6時20分になると、「ごめんねお姉ちゃん、学校行かないといけないから準備しに行くね」と言って部屋を後にした。



 暇だ。

 とにかく暇。


 何をしよう。

 考えてみよう。


 なんで身体が動けないのか、医師さんは半植物人間とか言ってたけど...

 ...ってアレ?そう言えば入院してなくね?


 最後に入院がなんだって言ってた気がするんだけど。

 どう考えてもここ私の部屋だよね。

 一応病気みたいだし、入院させた方がいいと私は思うんだけど...

 お母さんがダメって言ったのかな?


 なんでだろ。



 春が部屋を出てから30分程経った頃。

 またしても扉が開かれて春が入って来た。


 制服に着替えて、髪も綺麗に整っている。

 肩にぶら下げた大きめの鞄。

 そして右手には水の入ったコップ。


 春は私に近づき、水を飲ませてくれた。


「行ってきます!お姉ちゃん!」

 そう言って部屋を後にした。


 元気なのはいい事だけど、何しに来たの?




 むぁあ...んー..寝てた...

 はぁ...


 春が出ていった5分後くらいに急に眠気が来たんだよね...

 こんなに寝てもまだ眠たくなるとは、人間だ不思議。


 って、アレ?ここどこ?

 目を覚ましたら、真っ暗な視界が辺りを包んでいた。

 そこには光が少しも入ってこない。


 体の節々が痛い。圧迫されている感覚。

 体を丸められている感じ。


 何かに捕まった?

 カバンのような何かの中にいる感じがする。

 感触とかがそれっぽいし。


 ん?なんか動いてる?

 自分の体ではなく、この私を入れている物が動いてる気がする。

 え?ほんとに何これ。

 誘拐とか?ヤバイ?ヤバイよねこれ...


 目が覚めてから10分弱。

 考えがまとまる間に、動き続けていたのが止まった。


 なになになに?

 それからすぐに物ごと私を持ち上げられた。

 そして、落とされた振動の後。若干声が聞こえて来た。

「ーーへ、おねーーすー」

 聞こえて来たその声はとても小さく、部分的にしか聞こえなかった。


 そして、チャックが開く音と共に、私の目に光が差し込んだ。

 見えて来たのは、眩しい太陽の光が差し込む窓と、影で暗く見えていた、見慣れていた妹の顔だった。


 ?

 私の頭にはそれしか浮かばなかった。

「おはよっ!お姉ちゃん!」

 ニコッと、顔を綻ばせる春。


 ここはどこなのか、なんで春がいるのか、学校は、今は何時なのか、何故私の四肢が無くなっているのか。


 何もかもわからなかった。




「あっ、ごめんねお姉ちゃん。なんの許可もなしに連れ出しちゃって...」


「だけど安心して?お姉ちゃんは私が守るからね!」

 いやいや、わからない。何これ...何これ。


 気づけば私の声は漏れていた。

「...ぁ..ぇ..?」

「ん?どうしたの?大丈夫?

 あー...もしかして腕と足のこと?ごめんね...でも、切り落とさないとスーツケースに入んなかったの...。けど、心配しないでね!私がお姉ちゃんの足と腕になるからね!」


「今はね、北海道に来たの。最北端だよ!行きたがってたよね?

 それに、ここなら元いた場所から遠いしね。ちゃうどよかったね。


 今はね、タクシーでね人の少ないところに移動しているんだよ。だから小声で言ってるの、バレちゃいけないからね。お姉ちゃんもシッ、だよ?」


「あれ?お姉ちゃんちゃんとわかってる?大丈夫?えっと...とりあえず今は、お姉ちゃんは大人しくしてればいいからね?」


 すると、春は私で詰まったスーツケースのチャックを閉じてこう言った。

「あっ、運転手さん。ここで降ろしてください」

 すると、今まで揺れていた車内が止まり、次はガタガタと音を鳴らしながら揺れ続けた。


 それから15分程経って、再びチャックが開かれた。


 見えて来たわかったのは、ホテルの一室にいると言うこと。

 ベッドの上にスーツケースが置かれている。

 やっぱり、夢では無い。

 足も手も無い。

 うぷっ...

 吐きそう。気持ち悪い。


 やったと考えられるのは、春しかいない...。

 先の言動が物語っている。


 さらに吐き気が込み上げる。


「ふーっ、ようやく落ち着いたね。お姉ちゃん。

 今日はここに泊まって、明日また移動するからね。

 あっ、それともその間眠っとく?そしたらお姉ちゃんが眠っている間に目的地に辿り着けるし...どうかな?

 できれば、()()睡眠薬は使いたく無いんだよなぁ...。お姉ちゃんの身に何かあると思うと...心配なの」


 春はそう言いながら、私をスーツケースの中から取り出す。


「あっ、そうだそうだ。腕とか痛く無い?それ私がやったんだけど、どうかな?綺麗にできたでしょ?一応知識はあったんだけど、出来るかなって心配で...。まぁ、大丈夫だよね?

 痛かったら瞼二回閉じて?

 それで判別できるし。お願い。」


 頭が回っていなかった私は、瞼を二回閉じて、と言う命令しか聞こえなかった。


 私は二回、瞼を閉じた。

 それを確認した春は、私のことを持ち上げ抱きしめて言った。

「よかったぁ…」

 と。


 安心し、ほっと息を吐いた陽にゾッとする。

 なんで春が安心するの?あなたがやったんでしょ?


 今まで春に感じてこなかった感情が一気に襲いかかってきた。

 様々な感情が渦巻く中、一番大きかったのは、「恐怖」だった。


 気づけば私の口からは声が出ていた。


 何が発端かはわからない。だが、口が開き、言葉が発せられた。


「なん..で…?」


 その一言、たった一言だけだった。


「えっ?喋った?ねえ?今お姉ちゃん喋ったよね?!」

 言葉の端々から嬉しそうな感情が伝わってくるほど、春は嬉しそうに微笑んだ。



「はる...なんで...?」

「なに?なんで?何のことかなぁ。手足については邪魔だったからって言ったしぃ...あ、なんで二人で北海道(ここ)にいるのかってこと?ちょっと長くなっちゃうけど、いい?」


「最初はお姉ちゃんの身体が動かなくなってからだよね。お姉ちゃんの身体が動かなくなったのは私もよくわかんないの。ごめんね。

 それで、半植物人間状態みたいになって医師さんがこう言ったの。「入院させましょう」って、その言葉を聞いてすぐさまお姉ちゃんを眠らせた、首痛かったよね...ごめんなさい。

 でも、私がそう言ったってお姉ちゃんに知られたくなかったから...今となっては自分で言っちゃったけど...。


 えっと...私はお姉ちゃんを取られたくなくて...入院なんかしちゃったら私がお世話できなくなるじゃん?お姉ちゃんが他の人のこと頼るようになるじゃん?だから、それは嫌だったから。ってママに言ったんだけど、受け入れてくれなかったからお姉ちゃんを眠らせて無理矢理連れて来ちゃったの」


 と、聞かされた。

 意味がわからない。

 言葉を失った。

 何で春が私に固執しているのかも、何もかも。わからない。


「まぁ、一通り話も終わったし、一緒にお風呂入ろっか」

 抱き抱えられ、ホテルの一室に向かっていく。

「ひゃっ…ゃ…」

 精一杯に声を出す。

 やめて、と。

「なに?そんな声じゃ分かんないよ。とりあえず先にお風呂行こ?疲れたでしょ?」


 そのまま声が届かないままお風呂へとやって来た。


 いつも通りの春となら、別にいい。

 たまに入ってくるし。

 ただ、今の春は嫌だ。怖い。

 何をしてくるかわからない。


「はーい、お姉ちゃん服脱がすねー」

 そう言って、袖が垂れている私の服を上に持ち上げる、その時に目に入ってしまった。


 実感したくなかった、それをみてしまった。

 腕が綺麗に無くなって、腕の先端には縫い目があるソレを。

 しっかり見てしまった。


「ぅぷ...」

 急に吐き気が込み上げてくる。

 気持ち悪い。

「大丈夫?!お姉ちゃん!どうしたの?よーしよーし。大丈夫だよ」

 本当に心配そうに見てくれる目と声。

 それがさらに私の中を掻き立てる。


 約3分。

 背中を支えられたまま、ホテルの洗面台で過ごし。

 何とか出さずに済んだ。


「あー...よかった。どうする?お風呂やめよっか?」

「ぅ..」

「...今日はもう寝る?お姉ちゃん疲れたよね」

 毛布に包まり、抱きしめられながらベッドに寝る。


「大丈夫だよ、お姉ちゃんは私が守るからね...大丈夫...大丈夫...」



 そんな春の声を聞きながら、3時間で眠ってしまった。




「っ!おはよ!お姉ちゃん!」

 春は、私の目が覚めるや否やすぐさまそう言った。


「今は6時20分だよー、朝ごはん食べようねー。さっき買って来たやつ...」

 と言って、レジ袋の中をゴソゴソと漁る。


「あったあった、おにぎり。お姉ちゃんシャケ好きだもんね。あと、お茶ね」

 春は私に次から次へとおにぎりを頬張らせ、たまにお茶を挟んでくれた。

 二つのおにぎりを食べた。おにぎり二つだけでも相当な時間をかけた。


「うん、ご飯も食べたし。ここから移動するよー。

 お姉ちゃんちょっと痛いかもしれないけど我慢してね...?」

 そう言って、私をスーツケースの中に入れ込んだ。


 移動...どこに...。

 とは聞けなかった。その前にスーツケースがガタガタと揺れ始めた。



 約1時間、私は揺さぶられ続けた。

 この1時間の間、私は何も抵抗できなかった。

 動けないのだから中から出ることもできないし、叫ぼうにも小さなうめき声しか出せない。


 そして動きが止まった。

 それが何を意味するか、目的地に着いたと言う事だろう。


「着いたよ、お姉ちゃん!」

 スーツケースが開かれ、目の前には自然にポツリとある古臭い家。

「今日からここが、私たちの家だね!」


 そう言って、スーツケースを持ちながら扉に向かって行く。



 私は、この妹から逃げれない事を悟り、大人しく従うのだった。


 今も、

 この先も、


 死ぬまでずっと。

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