同窓会
配信者兼探索者になって2回目の夏。
お盆休みの時期に合わせて、マツリが通っていた高校の同窓会が開かれることになった。
マツリは遠方からの通学だったこともあり、高校時代の友人とはほとんど校内だけの付き合いで、面倒を理由に欠席しても良さげなところ。
だが今の住居である三右衛門屋敷のほうが実家よりも高校に近いこともあり、参加することにした。
「お久しぶり」
と、顔を憶えていたグループを探して入り込んだ会場内ではそれなりの人数が騒がしく談笑している。
何故なら今回の同窓会は生徒会長が企画した学年単位のモノので、ホテルを借りての立食パーティとなっていた。
当時のマツリは放課後は早々に帰宅してピアノ教室に通うか自宅で練習が日課の内向的女子。
部活にも所属していない彼女はクラスメイトの経験があっても覚えていない生徒がそれなりにいた。
こういうときに目立つ友人が居てくれるのは頼もしい。
「今でも仲がいいんだな」
マツリが声をかけたのは天音ミレッタと叢神フェイトのふたり。
彼女たちは中学時代からの仲で、お互いに地毛が銀髪のため浮いた要素を抱えていた。
マツリはここまで散々説明した通り〝ぼっち〟タイプの高校生活だったわけだが、そんなハグレモノだからこそ彼女たちと気が合ったのだろう。
「中学の頃から一緒だし、特に今はフェイトちゃんも結婚したばかりで、家にいることが多いからね」
「え⁉️結婚!もう?」
「高校の頃からお熱だった弟くんが相手だからむしろようやくだよ」
「ああ、なるほど」
マツリも言われてみるとフェイトには幼馴染の弟的な好きな相手がいたなと思い出して唸る。
確か2歳差だったか。
お互いに高校を卒業すれば成人として結婚を決めても普通のことだろうと。
「でも私よりミレッタのほうが凄いぞ。先に結婚してるし、今年末には子供が産まれる予定なんだ」
「マジで?」
「あはは……流石に結婚して3年目だし、頑張っちゃって」
「その前に結婚したことすら知らなかったよ。しかも3年目って。成人式の頃には結婚してたってことじゃないか」
「それは……ちょっといろいろあったから、フェイトちゃん以外には言う機会がなくてつい。だからマツリちゃんをシカトして教えなかったってわけじゃないよ」
「そもそも成人式のときの同窓会はマツリのほうが来なかったんじゃないか。地元が違うからって」
「あはは」
なんだかんだ似たものグループ的な印象を持っていたふたりから〝結婚している〟と言われて、しかも片方は見た目では目立っていないので気づかなかったのだが妊娠中。
これには未だに結婚どころか恋愛経験すらないマツリは少し焦ってしまう。
彼女の自認としては〝恋愛方面に限れば〟3人の中で一番進んでいたという、根拠のない自信があったからだ。
「それにしてもなんで男嫌いのミリィが先に結婚しているんだよ。オレのほうがモテてたのに」
「いや……ミレッタは男嫌いっていうより男慣れしていなかっただけだぞ。というか、それを言い出すと、マツリはただでさえ付き合いが悪いのに、ウチらみたいな慣れた相手の前でだけ一人称が〝オレ〟になるクセがバレバレで地雷扱いをされていたぞ。普通にミレッタのほうがモテてた」
「それを言い出すとフェイトちゃんが一番人気だったじゃない。開くん一筋すぎて全部振っていただけで、男子どころか女子からも告白されていたし」
「お……お……うん。もしかしてオレの認識がズレていた?」
「「左様」」
「左様か」
肩を落とすマツリのことを既婚者のふたりは残念ながら当然という態度で見ていた。
それから高校卒業後の近況について語り合ったわけだが、高卒で個人経営のパン屋に就職したミレッタは夫共々店では大きく頼られていて、実質的な店長になっているそうだ。
フェイトのほうは探索者の手配や斡旋を行う公益団体……俗に言う〝ギルド〟の契約社員という話だが、高校時代にはバイトとして所属していたのを知っているので、正規採用ではないのかという部分が少し気がかりである。
まあ、バイトと学業を両立してきた秀才の判断なのだ。
新婚ということも踏まえると、正社員では束縛が多くて、旦那としっぽりできないという判断なのだろう。
そして最後はマツリのターン。
音大は無事に卒業できたが音楽関係の仕事には就けていないこと。
そして趣味と実益を兼ねていた演奏動画の配信者として多少の収益を得ていることをマツリはふたりに明かした。
他の同級生と違って彼女たちになら知られても構わないという判断だったが、この事を知ったフェイトは少し訝しんだ表情を見せる。
「あれってマツリだったのか。言われてみると確かにマツリか、あれ」
「フェイトも見てくれていたのか。照れるな」
「チャンネル登録はしていなかったけれどね。ちょっと前に仕事でフェスピアノの動画をチェックさせられたんだ」
「仕事って……探索者と演奏動画ってあまり関係ない気がするけど、なんで?」
「配信中に〝藤沢ダンジョンで助けられた〟ってコメントがあっただろう?それの裏取りだよ」
「藤沢……そんなのあったかな」
「これこれ。この動画のコメントだよ」
「あーっ」
配信当時、マツリは酒が入っていたのもありコメントの内容もうろ覚え。
なので改めてフェイトからスマホで該当の動画とコメントを見せられたことで、マツリは色々と思い出した。
藤沢ダンジョンはたしかにミロクの命令で最近潜っている。
そしてそのとき、巨大スライムに捕まっていた高校生を助けてもいた。
コメント主があのときの誰かだとして、フェスピアノのリスナーかつマツリが中の人だと見抜いたというのは驚きである。
「このコメントを見つけたギルドがコメ主の高校生に接触したんだ。彼をフェスピアノが助けたのは本当なのか。それと本当ならば、何故フェスピアノは黙って立ち去ったのかと。無許可で色々されると危ないから、ギルドとしては一度しっかり〝お話〟したいってね」
「あはは。でもこの人の勘違いじゃないかな」
「たしかにこの子は〝勘違いだった可能性が高い〟とは言っていたよ。動画の中のお前も、コメントの内容に要領を得ていない様子だったし」
「そりゃそうだよね。でもそんなことがきっかけでオレのチャンネルを観てくれる人がいるってのは驚いたよ」
「私も驚いたよ。マツリが配信者だなんて」
フェイトの驚きの顔には含みがあり、マツリとミレッタはそれをなんとなく察していた。
だがミレッタは「ギルド絡みなら自分が口出しをする内容ではない」と指摘はしないし、マツリはコメントの出来事を思い出したからこそ「ギルドにバレたら面倒そうだ」と愛想笑いで済ませた。
(それにしてもフェスピアノの正体がマツリってのは、信じられない反面で信じれば疑問のピースがうまくハマるわね。ここ1年くらいギルドが追っている〝謎の探索者〟の出現と〝フェスピアノの深夜配信日〟には妙な関係性があるし。でもマツリって音楽一本で魔法とかは〝からきし〟のハズなのがなあ)
そしてフェイトは最近追っていたフェスピアノの正体が旧友と知り、手がかりを得られた喜びの反面で矛盾に頭を抱えてしまった。
これは昔のマツリを知っているからこそ陥った罠のようなもの。
最近頻発している〝ダンジョン最下層、第13階層のボスを倒すだけ倒して姿を消す通り魔〟が戦闘強者であることと、マツリに魔法の才能が全くないことを把握しているが故の矛盾にフェイトは頭を悩ませた。
知恵熱と2つの相手から同時に同じ人間を対象にした仕事を受けているというストレス。
通り魔=マツリという正解を導き出せずにいたフェイトはとりあえず、帰ったら夫に甘えて発散することにした。
「ただいま」
そして夜。
人妻たちは二次会などには参加せずに帰るものが多く、マツリもその波に乗じて退散していた。
正直仲がいいミレッタやフェイトが参加すると言っても帰る気だった程度に、マツリは二次会の類は苦手である。
「おかえり。この時間に帰ってくるということは、同窓会で再会したクラスメイトとのラブロマンスは無かったようだね」
出迎えたミロクは早々にマツリを茶化す。
「あるわけないだろ。古い漫画の見過ぎだぞ」
「でも漫画になっている時点で〝みんなの憧れ〟ってことだろうに。それを最初から否定するようだと、いつまで経ってもモテないぞ。お前はどうやら自分よりモテないと思っていた友人知人に差をつけられて落ち込んでいるようだが、そんなんだから差がついたんだ。反省しろ」
「うるへー。むしゃくしゃするから生配信だ。邪魔するなよ」
「しないさ。でもその前にお土産はないのか?残った料理のお持たせくらいあってもいいだろう。どうせ余らせるんだし」
「それこそないわ。ああいう場の料理を持ち帰るヤツの気がしれない」
「非常識だって?それは失敬。私は育ちが悪いものでね」
「……すねるなよ」
「すねてない……」
「まあ……今日はまだ間に合うしピザでも出前しろよ。オレのぶんも含めて2枚頼んでいいから。その代わり出前の対応は任せたぜ」
「じゃあLにする」
ミロクに図星を突かれたこともあり、配信部屋にしばらく籠ったマツリの演奏。
いつもより早い時間のゲリラ生配信と言うことで、この日の再生数はいつもの深夜より多かった。
配信中、別室でピザを貪るミロクが訝しむのはフェイトのこと。
マツリには黙っているが、マツリが見聞きしたことをミロクは概ね知っているため、同窓会でのフェイトの様子を怪しんでいた。
近々マツリのダンジョン攻略中にフェイトが障害になるのではないか。
ギルドはまだいいが、フェイトにはそれ以外の背景があるのではないかとミロクは直感していた。




