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魔法が常識の世界で魔法が使えない超能力者  作者: どるき


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タブー

 愛知県某所にある犬丸ダンジョン。

 ここにはタブーと呼ばれる特殊なモンスターが生息していた。

 外見は二足直立。

 魚人や獣人に近いが肌には毛やうろこなどはなく、人間に近い形状をしていた。

 だがその最大の特徴はヒラヒラとしたエプロンのようなもの。

 薄いのに頑強なそれに包まれた人間に似た肢体はさながら裸エプロンであり、ご丁寧に乳房や男性器に似た箇所を持つのだから、首から下だけを見たら卑猥な格好をしている人間そのものだった。

 故にタブー。

 安易に触れられない魔物はこのダンジョンの支配者だった。


「アグロ?」


 通常、このタブーたちは第10階層以下の深層にしか生息していないのだが、ときおり上層に出没していた。

 それが目撃されて犬丸ダンジョン自体を有名にしたわけなのだが、上層では希少な存在ゆえに危険性の周知が不足しているらしい。

 なにせレーサーなどが使用するフルフェイスヘルメットを被ったような頭部を除けば、ぱっと見では美しく整った身体である。

 雪女よろしく美男美女の怪異として、異種婚姻譚に夢を見る人間が居ても不思議じゃなかった。

 そんな夢見がちな男がここにもひとり。

 アラサー男性、カズナリは発見したタブーを前に鼻息が荒い。


「見つけたぞ」


 相手の言葉ですらない声の意味も理解せず、目当てのタブーを発見したことに興奮するカズナリ。

 彼の中では〝独り身男性を慰めてくれる怪異〟という扱いであり、これで非モテも卒業できると思っていた。

 ヘルメット頭も〝そういう趣味〟としてアリ。

 女性ではなく雌雄同体に近いエプロンの下も〝ついているほうがお得〟なので問題なし。

 ファンタジーな〝都合のいい嫁〟とみなして近づいた彼にタブーが向けたのは魔物の性だった。


「エイブ!」


 エプロンの下で揺れる大きなボールを波打たせながら、谷間に隠していた棒状の物質を指と指の間に挟んで一気に投げつける。

 一度に3本。

 羽根もないのに真っ直ぐに飛来するのは魔法の類で制御しているのかもしれない。

 距離のおかげで狙いが外れたのか、棒はカズナリの肩をかすめていく。

 直撃して内臓に刺さっていたら致命的であろう。


「な、なんで⁉️」

「ラ!」


 攻撃された瞬間すら意識していなかった恐怖を肩の傷口が与えた痛みで自覚するカズナリ。

 色情魔ですら引きつらせたタブーの暴力はそのまま彼の命の火を消した。


 このように好事家ほど引き寄せられる艶容さをもつタブーを前にして、積み上がるのは死体の山。

 犬丸ダンジョンには古くから伝わる美女伝説があるのだが、おそらくそれも今回のように上層に現れたタブーだったのだろう。

 地元の行政機関も討伐隊を募集したのだが、悪知恵の働くタブーは大人数のパーティを見ると隠れてしまう。

 そのうえ本来生息する下層では群れているため、この数を討伐できるレベルの探索者が容易に集まるのならば、既にこのダンジョンは完全踏破済である。

 討伐隊は直接的な成果こそ出せないまでも、被害を食い止めたという理由で解散された。

 そんな境目の時期にマツリは犬丸ダンジョンに潜っていた。


「それにしてもタブーだなんて、なんだか仰々しい名前だな」


 禁断、禁忌を名前に与えられた人間型モンスターの概要を前に、マツリはポツリと訝しむ。

 古くから伝わる人間型のモンスターであれば、魚人や獣人のような〝それらしい〟名前のひとつくらいありそうなものだがソレはなし。

 何故に禁忌なのだろう。

 疑問には思いつつも、あくまでマツリの目的は最下層にあるダンジョンとの繋がりのパス。

 どのみちどこかで遭遇するだろうとしか思っていなかった。

 そのうえで先日の討伐隊が露払いになったのだろう。

 モンスターをほとんど見かけぬままに3層に降りたマツリの前にタブーが現れた。


「ハム」


 意味不明な鳴き声でマツリを見たタブーは筋骨隆々。

 だが女性的な肉体のようで、男性ボディビルダーと比べたらだいぶ細く、豊満な乳房がカーテンのようにエプロンを押し出している。

 コレにはフェチズムを刺激する一定の需要があるだろうなとマツリも唸った。


「首から下は艶容っていう話はマジなのか。せっかくだったら男らしいほうがオレの好みだってのに」


 プライベートでの一人称が〝オレ〟という事でガサツか女性を性的な意味で好きな娘に受け取られそうではあるマツリだが、その本心は繊細で気弱。

 どちらかと言えば普段から虚勢を張ることでパフォーマンスの低下を防ごうというルーティンの一環であり、昔からオレと名乗っていたわけではない。

 その証拠に配信のときは〝アタシ〟を使っているわけだ。

 そんな真っ当に王子様に憧れる乙女もモンスターが相手となればさながら女騎士。

 ムキムキな体躯にはちょっとした憧れを抱くが、相手はしょせんバケモノだ。

 ボウガンらしきものを取り出したタブーに臆することなく身構えたマツリは、発射された矢を念動力で受け止める。

 中空に浮かぶは3本の細い棒。

 羽根もない矢をまっすぐに飛ばせることよりも、一度に3本発射することに気をつけるマツリの観察眼は一廉の域。

 この棒やボウガンはタブーが能力で生成したもののようで、再び3本同時の射撃が飛ぶ。

 最初の射撃を防いだことに気を緩めていたら防げないだろう。

 実際、最初こそ防げたが矢継ぎ早の連射に崩される探索者も少なくない。

 手数の多さから群れていたら危険だと推測するマツリ。

 その点では本来生息する第10階層よりも前で逸れ個体と遭遇したのは彼女にとって幸運である。

 その怪異が短期間に多くの男を惑わしていたことなど知らぬまま、マツリは攻守を逆転させた。


「お返しだ!」


 これまで受け止めていた矢をマツリはそのままテレキネシスで打ち返す。

 タブーは撃ち落とそうというのか、それとも相打ち覚悟なのか、矢の射線上にいるマツリ目掛けてボウガンを撃った。

 だがテレキネシスは1本ずつではなく矢を受け止めた空間そのものを押し出している。

 矢に当たろうとも、すれ違ってマツリを目指そうとも、構わずに受け止めた力場が迎撃の矢すら押し返した。


「!」


 表情がわからない外見でも察する驚いた表情で、返された矢を受けたタブーは最終手段を取る。

 エプロンを母衣のように広げて矢の勢いを殺したが、直撃こそ免れても広がったエプロンに縫い留められたタブーはもう動けなくなっていた。

 フゴフゴと息苦しそうにもがくタブー。

 その身体がエプロン越しにくっきりと浮かんだのを見て、マツリはようやく名前の意味を知ることになった。


「ああ……これは確かにタブーだ」


 エプロンをテントのように盛り上げているのはタブーの股間部分。

 御立派すぎるソレが何であるか、マツリは実物を知らない。

 だが知識としては知っているので、確かにこれを人前に晒すことはタブーであろう。

 女性ゆえに見慣れた乳房よりも、見たことのない怒張の存在で、マツリはその名に納得した。

 冷静に考えれば〝首から下は裸エプロン姿の痴女に見える〟時点でタブーなのは言わずもがな。

 ここで初遭遇をしていたことで心の準備が整ったマツリは冷静に逸れ個体を討伐し、第10階層以降にいるタブーの群れを掻い潜っていった。

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