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魔法が常識の世界で魔法が使えない超能力者  作者: どるき


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12/15

心霊物件

 茨城県某所には、一部で知られる事故物件と言われる家屋がある。

 三右衛門邸と呼ばれるその家は昭和後期に建てられた母屋とそれよりも古い離れ、そして物置となる蔵で構成された、都会基準では豪邸に分類される広さを持つ。

 居住者である中年女性が交通事故で亡くなってからは、親族が管理していたが、その親族もいつしか来なくなり……放置されたその屋敷には件の女性の霊が出るようになった。

 一部ではそう言われているわけだが、実際のところそれは単なる噂話。

 今でも親族が管理しているし、幽霊が出たこともない。

 それでも極稀に忍び込むような悪ガキがいるのだから、火のないところに煙は立たぬか。


「なあ、本当に幽霊が出るのか?」


 この日、三右衛門邸に忍び込もうとしてやってきたのは都内から来た3人組の大学生グループ。

 件の屋敷は住宅街の端にあるということで、最寄りの公民館にレンタカーを停車させて、裏道から向かっている。

 この裏道はいちおうコンクリートの舗装が施されているとはいえ、街灯など一切ない。

 木々も生い茂っており月明かりも差し込まない闇であり、歩けばパキパキと落ち葉や枝を踏む音が響く中を、懐中電灯で照らして進むほかにない。

 そんな危険な場所を歩く彼らこそ近隣住民からすれば危険人物だろう。

 幽霊屋敷なだけあって、辺鄙な場所にあると悪態をつく彼らこそが不審者なのは間違いない。

 彼らは夜間撮影に対応したカメラを構えており、幽霊を撮影できたら動画でバズれるという甘い考えである。

 だがそんな簡単に幽霊が撮影できるものだろうか。


「俺のカンではガチだな。レイも気味悪がっているし」

「う、うん。なにかが居るのに魔力反応はない」


 屋敷の前で魔法を使った簡易検査を行なったのはレイという気弱な子。

 魔法が存在するこの世界では魔法による霊体化を果たしたケースも〝無くはない〟ため、その場合は霊体化した家主と確実にトラブルになるので検査は必須である。

 そもそも他人の家に忍び込むのは例え空き家でも不法侵入にあたるので、その時点でアウトではあるが。

 そんな状況で魔法でチェックした限りでは魔力の反応はなし。

 これは魔法による霊体化した家主、あるいは幽霊もどきを操る生身の人間が意味であり、この状況で出現した〝幽霊〟は本物の怪異だと言うことになる。

 そのため彼らは期待と緊張で心臓を高鳴らせるのだが、小さな見落としがあった。

 それは純粋な〝魔法を使っていない家主〟が中に居ることと、その人物が〝魔法を使わずに超常現象を起こせる可能性〟が抜け落ちていること。

 そして不法侵入をした不審者を家主が発見しようものなら━━━


「ひえっ!」


 可愛らしい声を上げたのは彼らのなかでも大柄なクロというスキンヘッドの男だった。

 本当に大学生かと疑うほどに老けた彼は物音に反応して甲高く鳴き、他のふたりはその声の大きさにビビるほど。


「お前の声に驚くわ」


 そしてツッコミを入れたのは背が低いが気が強いケンという男。

 彼らのなかではリーダー的なポジションであり、この肝試しめいた散策自体、彼の意向が強い。


「だってよぉ。いま物音がしたぞ。なんかこう、ガサガサって」

「そんなのネズミかなんかだろう。廃墟なんだし」

「それはなさそうかなあ。噂と違って綺麗だし。むしろこれ……普通に住んでいる人がいるんじゃ?」

「でも魔法の探知には引っかからなかったんだろう?」

「それはそうだけど、寝てて魔力の反応がなかった可能性だってあるし」

「だったらもう帰ろうじゃないか。ガチで誰かが寝ていたら通報されちまうよ」

「別にいいじゃねえか」

「は?」

「そんときは脅して金でもせびってやるよ。幽霊が居なかったことの慰謝料としてな」

「さすがにそれはマズイって、ケンくん」

「うっせえぞ。だったらテメーらは先に帰れ。クルマは使うんじゃねえぞ。徒歩でだ」

「そ、それは……」


 このときレンタカーの鍵を預かっていたのはクロであり運転も彼任せ。

 ケンの横暴に付き合わず、そのままふたりだけ車で先に帰れば良いのだが、言いなりになっている彼らにはそれができない。

 置き去りにできないというよりも、言葉通りに歩いて帰ることが困難だし、そのうえ先に帰ったことを理由に何らかの暴力を受けるのではないか。

 そんな弱気からふたりは黙ってしまう。


「わかったのなら、さっさと行くぞ。レイは早くココを開ける」


 言われるがまま、離れの玄関にかかっていた鍵を開けるためにレイは戸に手をかざした。

 鍵開けの魔法は防犯的な意味合いで厳しい制限があり、仮にコレで他人の家の鍵を開ければ一発通報。

 なのでレイは裏側にある閂を力技で押し上げるための魔法を発動させた。

 動きとしては念動力に酷似しているが、手が届かない場所にマジックアームを伸ばす程度の弱い力。

 ちょっとした生活魔法として習得したソレを悪用していることにレイは心を痛めつつも、ケンには逆らえずにいた。

 ガチャリという音とともに鍵が開いたところで忍び込む彼ら。

 もちろんケンは後ろに隠れて前に出ないので、恐る恐る先に行くのはレイとクロである。

 この状況でひとりカメラを抱えて大御所の配信者気取りなのだから、ケンは人間的に愚劣だろう。

 こんな人物が撮影した動画が広がるというのは〝好評〟よりも〝炎上〟だろうという指摘を出来る人物がいないこのグループは止まることのない集団だ。


「結構モノがあるね。だけど埃は舞ってないし、やっぱり誰かが住んでいるんじゃ?」

「でもこんなゴミだらけの物置に住めるやつなんていねえって。せいぜい持ち主が倉庫代わりに使っているってことだろ?」

「それはアウトなような……」

「あ?」


 中の状況から〝廃墟ではない〟と結論づけたレイやクロを恫喝するケンにとって、もはや興味はここで心霊現象を撮影できるかしかない。

 誰かの家だろうと構わない。

 幽霊を撮影して再生数を稼いで、注目を浴びつつ広告収入を得たい。

 そしてもし社会的に叩かれることになっても矛先はレイとクロなので俺には関係ない。

 ケンは自分勝手な迷惑行為なんていまどき配信者としても流行らないと言うことを教えられていないのだろう。

 偏ったイメージのまま、ガキ大将まがいの行動を大学生になってまでしているのは哀れとも言えた。

 それは彼に逆らえないレイとクロもある意味で同罪かもしれない。

 そういう意味ではケンの横暴にも少しだけ理があった。


「お!コレとか高値で売れるんじゃね?」


 室内を物色して進んでいく中で、ケンは当然のように金目のモノを見つけてはポケットに隠していく。

 といっても古いだけで二束三文の品なので価値は低いが、この流れではレイたちは「安物と言っても盗んではいけない」と言える空気ではない。

 不法侵入に窃盗の組み合わせはそれなりに大きな罪なのだが、心霊物件なのが悪いとしか、ケンは思っていなかった。

 そろそろ時刻は丑三つ時。

 幽霊が出るのには丁度いい。


「あのさ……そろそろ……」

「ビビるなって。未だに誰も来ないってことは、レイが思っているような心配はない。まあ、幽霊が来ないのは不満だが」

「……ひぇ!」

「またかよ……って、おいおいおい!」


 再び叫んだクロに呆れるケンだったが、反射的にクロのほうを向いたケンの顔は引きつっていた。

 そこにいたのは形容しがたい鳥のようなマスクをした小人。

 ぬいぐるみがひとりでに動いていると言う方が正しいか。

 即座にレイが魔法で周囲を調べるのだが、ぬいぐるみらしきモノからも、周囲からも魔力の反応はない。

 つまりコイツは心霊現象に相違ないとケンは判断し、興奮しながらカメラを向けた。


「大当たりじゃねえか!」


 動くぬいぐるみ。

 しかも音声としてレイが魔法を使って魔力の反応を調べる様子も映っている。

 これは間違いなく心霊動画だと鼻息が荒いケンのカメラはブレブレだが、この程度は補正編集でカバー可能。

 値千金の素材が取れて御満悦のケンはカメラを手放せずに居るのだが、被写体はそれを許さない。


「「あーっ!」」

「こ、この野郎!」


 困惑してその様子を横で見るしか出来なかったレイとクロが同時に声を上げたのは、そのぬいぐるみの動きに驚いてのこと。

 懐中電灯頼りの暗がりで一瞬にして照らされた範囲から移動されたら反応できるわけもなく。

 動きの速さに見失ったソレが次の瞬間にケンに飛びかかっていたのだから、ふたりは驚きの声しか出せない。

 ぬいぐるみはカメラをケンから奪うと、そのまま外に出ていく。

 怒りに任せて後を追うケンは盗んだ小物をポロポロと落としており、あの一瞬の交差でポケットに穴を空けられていたようだ。

 追いかけたレイとクロが月明かりの下に出た瞬間に見た光景は、悲鳴を上げる余裕すらなくタコ殴りにされて倒れているケンと、それを足蹴にするぬいぐるみの姿だった。

 クロは一瞬だけ月明かりで身体のラインが透けて見えるワンピース姿の女性を見たが、あれは見間違いであろうか。

 だが彼は見間違いではないと信じるような出来事が起きたと後に語る。


「コイツを連れて帰れ」


 ぬいぐるみが喋っているのか、それともぬいぐるみを操る幽霊の言葉なのか。

 困惑するふたりに命令をする女性の声。


「あと中のモノは盗んで居ないよな?盗んでいたら殺すぞ」


 声に対して激しく首を振るふたり。

 ぬいぐるみがソレを見て手をかざす仕草をすると、彼らの身体を何かが弄った。

 少しくすぐったいが、恐怖が勝つので何もできない。

 それで手荷物を把握したらしいぬいぐるみはふたりを信用したようで、足蹴にしていたケンから離れて彼を宙に浮かしてクロに抱きかかえさせた。


「逆らっているのかビビって固まっているのかは判断に困るけれど、面倒だし脳をイジらせてもらうか」


 その後、気がつくと3人は駅近くのコンビニ駐車場で目を覚ました。

 記憶が途中で抜け落ちて、ケンに至っては衣服もボロボロ。

 そして手荷物のうちカメラがなくなっていたことにケンは激しい怒りをぶつけた。

 理不尽な折檻に恐怖するレイとクロだったが幸いなことに近くの交番からきた警察官が仲裁に入り、この場はお開きとなる。

 後日、レイとクロはこの日の出来事を誰にも語ることなく過ごし、ケンとは疎遠になる。

 一方のケンはSNSでこの出来事を投稿するのだが証拠もなく、誰にも相手をされない日々の末に彼はアカウントを削除してネットから姿を消していった。


 ━━━


「ただいま。オレが居ない間は大丈夫だったか?」

「いや、何もなかったよ」


 件の侵入事件から半日後のこと。

 遠方から帰宅した家主は留守番をしていた同居人に、不在の間に起きた出来事を尋ねた。

 彼女としては車椅子で留守番をする同居人を気にかけてのことなのだが、帰ってくる返事はいつも同じ。

 何もなかったと返す同居人が何かを隠していることなど家主も薄々勘づいているのだが、せいぜい「宅配ピザをカロリーを気にせずひとりでLサイズを2枚食べた」とか「近所の男子をたぶらかして破廉恥な交際でもしている」程度の下世話な出来事だろうと思っていた。

 なにせ彼女は自分が住む三右衛門屋敷がネットの一部で噂になっていることなど知らない。

 そしてその噂の何割かが同居人による加虐趣味的な不法侵入への仕返しによるものであろうと言うことも。


「それにしてもその身体で留守番できるのは凄いよな。オレもだいぶ慣れたものだけれど、動かない部位にまで意識を回すのはまだ無理だよ」

「それくらいしなければお前にチカラ授けたりなんてことも出来やしないさ」

「授けた?無理やり押しつけたうえ、逆らったら殺す縛りまで入れておいてよく言うよ」

「でもわたしがキミのサイキックを目覚めさせたことで、キミ自身には良いことばかりじゃないか。配信も右肩上がりだし、わたしの手伝いついでに得たドロップアイテムのおかげで収入もあるし」

「でもその手伝いのせいで配信はペースが落ちてプラマイゼロ。未だに演奏家としてのオファーなんて来ていないし、なにより1週間単位での遠征がデフォなのは骨が折れるんだよ」

「まあまあ。機嫌を直してくれよマツリ。特注のアイスを用意してあるから」

「それってピザッツのヤツじゃないよな?」

「ぎくり」

「いくらなんでもミロクはオレに隠れて食べ過ぎだっての。まあ、アイスは貰うけれどな」


 今は兵頭マツリが住んでいる三右衛門屋敷。

 この屋敷についた心霊物件としての噂の大半はミロクの手によるモノなのだが、本当に幽霊がいないという保証はない。

 まあ、居たとしても彼女たちに危害を加えることはないであろうが。

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