漫画家は見た②
シンは自分が使っていた大剣の硬度を知っているからこそ、握り潰されたことに驚いて腰を抜かしてしまう。
それはコノヤも同様だが、怯むよりも先に眼鏡魔法と同様の解析を行うアイテム《スカウトスコープ》でゴーレムを覗き、その理由を探る。
「な⁉️逃げるぞ!」
そしてデータを見て一言。
逃げるぞと叫んだ彼が見たのはゴーレムの構成物質だった。
シンが使う大剣を握り潰した時点である程度は察していたことだが、それが予想より上すぎた。
大分類としてはブルーサファイアのゴーレムという認識は間違いなかったとはいえ、この巨大ゴーレムのフレームにはダイアモンドが多く使われていた。
通常の珪素フレームでは大剣の金属を握りつぶすことなど素材強度的に不可能な時点で、何か頑丈な素材を取り込んでいるのは想定通り。
だがゴーレムの素材としてダイアモンドを取り込んでいるということは、硬さと素早さを両立していることを意味していた。
撃ち出したシンを捕らえる鋭敏さの時点でそれは滲んでおり、ある意味で納得でもある。
だが問題は、こんな下層のモンスターが上層に出現したことだろう。
このダンジョンの中間層までゴーレムハントを生業としていたコノヤとしても、この強さのゴーレムは初見である。
そして攻撃魔法に秀でていればワンチャンスがあるかもしれないとはいえ、今の彼らが持つ手札では到底勝ち目がないことを彼は察した。
それを短く言語化したのが「逃げるぞ」の一言。
シンは長年バディを組んでいるのですぐに意味を理解するのだが、今回初めて参加した山口だけは状況を飲み込めていない。
「何を言っているんですか。もっとかっこよく戦う姿を見せてくださいよ」
逃げたほうがいいことなど山口も本能では理解している。
だが心の腰が抜けてしまった彼は〝シンとコノヤがさきほどまでと同様にゴーレムを軽く蹴散らしてくれる〟という妄想にすがることしかできなくなっていた。
なまじ記憶魔法でこれまでの蹂躙的なゴーレムハントを覚えていたのもあるのだろう。
さきほどの連携攻撃に目を奪われていたのもあるのだろう。
だが通用しなかったあの技に過度な期待を寄せる以外に、山口には正気を保つ手段がなかった。
「バカを言うな」
そう言ってシンは山口の手を引くのだが彼は動けず、
これがもし緊急脱出魔法が完備された、トレーニング施設としての側面を持つダンジョンであればそれでも構わなかった。
だが岩宿遺跡にはそんな気の利いた魔法はない。
死ねばそれで終了であり、だからこそゴーレムハントが産業として成り立つダンジョンであるとも言えた。
「ずらかるぞ」
そして立ち尽くす山口に対してコノヤは見捨てる判断をする。
動かせずに困っているシンの手を振りほどかせた彼は退路の先陣を切りシンを導いた。
そして残された山口は依然としてシンとコノヤが合体攻撃でゴーレムを迎撃するのを待つ。
記録魔法のフォーカスがブレないように身動きひとつ取らずに。
「ちっ!」
そんな逃げ出したおっさんたちとひとりの女性がすれ違う。
この様子だと前方には強いモンスターが居るのだろう。
そう判断した彼女の目に飛び込んできたのは、今にも潰されそうになっていた若い男だった。
舌打ちを合図に地面を蹴る彼女は風のような速さで距離を詰めると、山口を抱きかかえながらゴーレムの巨腕を潜り抜ける。
彼女には山口を助ける義務などなかったわけだが、目の前でスプラッターになったら気分が悪い。
ただそれだけの理由で彼を助けた女性は山口を降ろし、長い髪をなびかせながらゴーレムに向かって振り向いた。
「邪魔だから下がってて」
彼女の名は兵頭マツリ。
例のごとく相棒の指示でダンジョン攻略を押し付けられた、魔法が使えない超能力者だった。




