吾輩とω
前世の記憶を取り戻して異世界に転生したと気がついたのは、ちょうど去勢が終わって麻酔が醒めた頃だった。
女神の言う通りに俺は猫に転生していた。
猫の体に加えてエリザベスカラーの影響もあって、しばらくは難儀な生活を送ったが、美女に文字通り『上にも下にも置かない』世話をされて鼻の下を伸ばしっぱなしだった。
外で暮らすオスの地域ネコ達は俺のことを憐れんでいたが、俺はむしろ安心すらしていた。
思い返せば魔王を倒して王座に就いた時には、冒険とは違った厄介事が多かった。
と、その前になぜ俺が王位についたかについて説明させて欲しい。
どうやら俺は王の血を引いていたらしく、母親が王宮での内紛から俺を逃す為に山の中に匿ったらしい。
ただの捨て子だと思っていたがこれには自分でも驚いた。
そう言った訳で魔王討伐の冒険に出かける前に王族の籍に入る事となった。
そして討伐後は人間界の英雄として王座に就く羽目になった。
魔王討伐も命懸けでめげそうになったが、王就任からの国の立て直しや王族内の内紛調停もとにかく仕事が多く休む暇もなかった。
中でもとりわけ辛かったのは、王に就任した時に与えられたスキルだった。
戴冠の後に別の部屋で儀式があると聞いて地下へ向かうと、前王が儀式の台に下半身を丸出しにして横たわっていた。
何事かと目を白黒させる俺を尻目に、従者達は暗殺者の如く素早く俺のズボンも下着も脱がせて下半身を丸出しにすると、そのまま俺の両脇を抱えてもう一つの儀式台に押さえつけた。
神官が恭しく呪文を唱え
「ウコマシっ!」
と大声で叫んでカッと目を見開くと、突然前王の下半身が眩く輝き、その輝きが俺の下半身に移動して音もなく吸収されていった。
何事かと終始唖然としている横で、前王はようやく重荷から解放されたと言わんばかりに安堵のため息をついて自分で下着とズボンを履いた。
呆然と横たわる俺の肩に前王がそっと手を載せる。
「子供たくさん作って子供をよその国に嫁がせて外交するのも王の勤めだから頑張って。男の子はほどほどに、女の子はなんぼ生まれてもええからな。」
と、くだけた口調で言うと儀式の部屋から出ていった。
この国で秘匿された王のみが保有するスキルは『死ぬまで・どんな女性にも絶倫』と神官に説明され、あまりのしょうもなさにしばらく呆然とした後、
「なんてぇ?!!!!」
と絶叫した。
この国はこの珍スキル『絶倫』を獲得した事により、王が多くの女性達に子供を産ませ、特に娘は外交の為によその国に嫁がせまくった結果、稀に見る大国になったのだとか。
そんな珍スキル『絶倫』は男女の産み分けなど到底できるはずもなく、特に王の息子とその母親達は王位継承の為に王宮内で血で血を洗う羽目になっていた。
そう言った経緯を聞くと、俺が捨てられたのも当然だった。むしろまだ捨てられて命があるだけマシだと、宮廷内に留まって権力争いに負けたり謀略に嵌った兄弟達の凄惨な姿を見て思ったのだった。
そんな訳で王になったら珍スキル『死ぬまで・どんな女性にも絶倫』のせいで、どんな女性だろうがハニートラップだろうが節操なく絶倫が発動し、前王達と同じような面倒を背負う羽目になった。
さらに言うと、詳細は省くが俺は結局ひ孫の代まで生きた上に王政に関わる羽目になり、その間も珍スキル『絶倫』は発動し、俺の子供がひ孫より若いと言うとんでもない状況になった。
結局この珍スキルについて、ひ孫含む子供達と協議し、俺の代で廃止する事となった。
子供の多さで国費を圧迫するわ、俺の息子達を巡って王位継承で内紛はさらに激化するわ、この珍スキルを知らぬ国民達から「王は節操がない」と陰口を言われるわ、好きでもない女でも抱いて欲しいと言われたら年齢容姿問わず抱けてしまうわで、とにかく散々だった。
そんな訳でこの異世界で金持ち美女の飼い猫になってそう言ったバカなスキルに振り回される事もなく、日々安穏な生活を送っている。
子作りをやらずとも美女の細腕に抱かれて何不自由ない幸せを享受できると思えば、去勢される事など大した事ではなかった。
俺はそんな元いた世界の苦労を思い出しつつ、今は睾丸の入っていないただの萎んだ袋をザラついた舌で丁寧に毛繕いした。
去勢されたオス猫の心境をどうしようか考えて、ヘンテコスキルを継承して苦労したナーロッパ系にしようと思いました。
気が向いたら続きを書きます。
大まかには、異世界『日本』に転生した主人公の猫が、時々前世の世界の話をしたり、異世界『日本』で飼い主の為に奮闘(?)したりなどが書けたらいいなと思っています。
余談
俺「何あの『ウコマシ』って?」
女神「私の上司が『課長島〇作』って漫画の世代の人なので、そう言う加護です。昔はもう少し長くて『クルブスプハ』だったんですけど」
俺「なんてぇ?!」




