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◇お出迎え

「よし、できたわ!!」


「なんとか間に合いましたね! ロベリア様!」


「ええ。あなたのおかげよ、ジョアンナ。私だけじゃ絶対に間に合わなかったわ。ありがとう」


 テーブルには、ランズベルト様のために作ったエメラルドの目をした「くま吉」と、ルイーゼ様のために作ったアメジストの目をした「くま吉」が並んでいた。

 それぞれ本人の目の色に合わせていて、首には同じ色のリボンも結んである。


「んん~~可愛い!! なんて可愛いのかしら!!」


 二体を並べて眺めながら、あまりの可愛さに思わず自画自賛してしまう。


「お二人とも喜んでくださると良いのだけれど……」


「きっと喜ばれますよ、こんなに可愛いのですから」


 ジョアンナに励まされ頷くと、ランズベルト様の馬車が門に着いたと知らせが入った。

 伝えに来た使用人に案内され、お出迎えに急ぎ玄関ホールへと向かう。

 完成した「くま吉」はまだラッピングが済んでいないので、夕食後に渡そうと決め、部屋にそのままにしてきた。

 すると、玄関ホールの手前まで来たところで、急に使用人たちの騒がしい声が聞こえてきた。


(もしかして、ランズベルト様に何かあったんじゃ……!?)


 急にぞわりと寒気のようなものが走る。

 私がランズベルト様を巻き込んでしまったせいで、彼が危険な目に遭ってしまったのではないか。

 そんな焦りとともに、もしランズベルト様に何かあったら……そう思うと、なぜか無性に胸が締め付けられて、心がざわつく。


 この気持ちは一体なんなのだろう?

 彼を巻き込んでしまったことへの罪悪感?

 それとも心配?


 心配にしては、もしもを考えるときに湧き上がるこの恐怖にも似た、この気持ちは何なのか。


 この心のざわめきは一体……。


 一度考え出したら止まらず、不安な気持ちを抱えたまま、玄関ホールに到着した。


「あ、ロベリア嬢! もう私、どうしたら良いの!?」


 ――そこには、なぜかオネエ言葉で頬を緩ませながら窮状を訴える、ランズベルト様の姿があった。


「ランズベルト様!」


 姿を見た途端、居ても立ってもいられなくて、声を上げて駆け出していた。


「……ご無事で良かったです」


 今にも泣き出しそうになっている私の様子に目を見開いたランズベルト様は、興奮状態が収まったのか、私にそっと微笑みかける。


「ただいま戻りました。ご心配をかけてしまったようで、申し訳ありません」


 そう言いながら目元の涙を拭われて初めて、自分が泣いていることに気づく。


「あ、いえ、その……」


 彼の笑顔に急に胸が締め付けられ、なぜか涙が止まらない私を、ランズベルト様は優しく抱きしめた。

 抱きしめられた途端、それまでの不安な気持ちが急に凪いでいくのがわかった。

 それどころか、彼の逞しい腕に抱きしめられ、胸に顔をうずめながら、ドキドキする私の心臓はめいっぱい早鐘を打ち始める。


(わ、私、ランズベルト様に抱きしめられてる!? え? ええ!? 何で!?)


 そんな心臓の動きとは裏腹に、恥ずかしいのに、周りには使用人たちがいっぱい居るのに、そんなの気にならないくらいに、心が満たされていく。

 一分にも満たない時間だったと思う。

 ランズベルト様は、私を離しながら顔を覗き込むと「落ち着きましたか?」と優しく聞いてくれる。

 居た堪れないままコクリと頷くと、ランズベルト様はホッとしたように微笑んだ。

 そんなランズベルト様の優しい笑顔に思わず見惚れていると、彼の肩にふわりと何かが降り立つ。


「クマ?」


(え? 私夢でも見ているのかしら? なんか目の前で私の「くま吉」が立って、動いて喋ってる……? え!? これは夢? そうよね、そもそもランズベルト様に私が抱きしめられるなんてところからして、やっぱりこれは夢よ!)


「早く起きて、ランズベルト様をお迎えしなくちゃ!」


「ロベリア嬢? ちゃんと起きてますよ?」


 思わず口から出てしまった言葉にランズベルト様が反応してくださる。

 クスクスと笑うランズベルト様の肩には、やっぱり「くま吉」が立っている。


「……え? 嘘……くま吉? 動いてる、の……? え!? 夢じゃないの!?」


「クマ~!」


 私の声に応えるように鳴いた「くま吉」は、ランズベルト様の肩からまたふわりと浮かぶと、私の頬にすり寄ってきた。


(え!? 嘘!? どうしよう!? もふもふのふわふわの可愛いくま吉が私の頬に触ってすりすりしてる~~~~!!)


 アワアワしながら思わずそっとくま吉に手を添える。

 すると、くま吉は嬉しそうに「クマクマー!」と鳴きながら、さらに私の頬にすり寄った。


「きゃーーーーー!!!! 無理無理無理無理無理! 可愛過ぎて無理ー!!! くま吉―!!! ああもう、大好き~~~!」


 溢れ出した思いがこらえきれず、「くま吉」を両手で抱き寄せ、顔にうずめる。

 目の前でその光景を見ていたランズベルト様も、拳を握りながらふるふる震え出したかと思うと、いつも以上にハイテンションな声が響き渡る。


「あああああああ~~~~! もう、いや~~~!!!! かわいい! 可愛いの、可愛すぎるのよ!!!! もう何なのこの組み合わせ!! 最っ高過ぎて無理よ~~!! あなたたちもうほんとに私をどうしたいの!? 私このままだと悶え死ねそうよ……」


 そう言いながら口元を押さえて、涙目になっている。

 私でもこの「くま吉」には耐えられないのだから、ランズベルト様はもう、我慢しろという方が無理だ。

 そうしてしばらくの間、玄関ホールからは私たちの騒がしい声が響き渡っていた。



 ――そして、その光景をルイーゼ様はしっかり映像記録の魔道具に収めていたことを、この時の私たちは知る由もない。

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