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婚約者?

 朝食の後、部屋に戻ってぬいぐるみ作りに取り掛かることにした。

 急なことで、いつもこっそり手伝ってもらっていた侯爵家の侍女を連れて来れなかったので、自分の力だけでなんとかするしかない。

 まがりなりにも十年以上ぬいぐるみを作り続けてきたわけで、決して下手ではない。

 けれど、上手くもなければ早くもなく……今日中に一体仕上げることができるのだろうかと、頭を抱えながらも、『くま吉』の手足のパーツを仕上げていく。


「はあ……ランズベルト様がお戻りになるまでに出来上がるかしら……」


 大きくため息をついていると、扉がノックされ、ワゴンを押しながらジョアンナが入ってきた。


「あまり根を詰め過ぎてはできるものもできなくなってしまいますよ。少し休憩されてはいかがですか?」


 心配そうに声をかけながら、テーブルの空いている部分にカップを置いていく。


「そうね。少し休憩するわ。ありがとう、ジョアンナ」


「いいえ。それと、もしよろしければ……僭越ながら私がお手伝いさせていただきます! 裁縫には結構自信がありますので!」


 拳をギュッと握り締めながらそう言われ、思わず声を上げる。


「女神様~~~~!!!」


「いえ、そんな。その……実は私もぬいぐるみが好きでして、よく作っているのです」


「そうなのね! とっても心強いわ!」


 ジョアンナは紅茶を注ぎながら、少し照れると嬉しそうに頷いた。



 ――そうして、二人でぬいぐるみ作りに勤しんで、数時間が経過した頃。


 廊下から人の言い合うような声が聞こえると、段々こちらの部屋に向かって近づいてきた。


「お、お待ちください、リリアーナ様! そちらのお部屋にはお客様が!」

「ええ。そのお客様に用があるのよ! さっさとそこを退きなさい!!」


 扉の向こうから静止する使用人の声と共に、気の強そうな女性の怒鳴り声が聞こえる。

 すると次の瞬間、勢いよく扉が開かれた。



 そこには直毛の長い黒髪にルビーのような瞳でこちらを睨みつける、貴族令嬢の姿があった。


「あなたがロベリア・アラベスクね」


 座っている私を値踏みするように見つめる。


「ええ。そうよ。あなたは一体どなたかしら? いきなり押しかけてきて、失礼じゃありませんこと?」


「何であなたなんかがここにいらっしゃいますの!? しかもランズベルト様が自らお連れになっただなんて……!」


 黒髪の令嬢は手に持った扇子をギリギリと握りしめながら、怒りを露わにするだけで、私の質問に答えようとしない。


(あ、この人、人の話を全く聞いてないわ。さっき使用人がリリアーナ様と呼んでいたけど……どこかで聞いたことがあるような……)


「ランズベルト様のお知り合いかしら?」


「……ランズベルト様ですって?」


 名乗らない令嬢は、私がランズベルト様と呼んだことに反応すると、更にきつく睨みつける。


「わたくしは、ランズベルト様の幼馴染で婚約者の、リリアーナ・サハウェイですわ!」


(サハウェイ!? 宰相様のところの、つまりサハウェイ公爵令嬢!? どうりで名前に聞き覚えがあるはずね。まあでも今はそんなことよりも……)


「ランズベルト様の婚約者……?」


「ええ、そうよ」


 私の反応を見ると勝ち誇ったように笑みを浮かべる。


「婚約者がいるランズベルト様を誑かすなんて、やはりあなた、伺っていた通りの性悪ですのね」


(アレが原因で毎回お見合いをお断りしているとおっしゃっていたし、公爵邸の使用人たちのあの反応からして、婚約者がいるのはおかしいわよね……)


 リリアーナ様の言葉を無視して、冷静に考えを巡らせる。

 そんな私の様子が気に入らないようで、リリアーナ様は、さらに続けた。


「王太子殿下が婚約破棄されたのも頷けますわ。こんな次から次に殿方にすり寄るだなんて。ランズベルト様はお優しいから、その優しさに縋りついたのでしょうけれど、立場をわきまえなさい!」


 断罪さながらに、そう言い放ったリリアーナ嬢は「ふふん」と聞こえてきそうな顔で髪をかき上げた。


(おお~~私なんかよりもよっぽどしっかり悪役令嬢なんじゃないかしら!? 凄いわ!)


 思わず心の中で拍手を送ってしまう。


「何を呑気にこちらを見て嬉しそうにしていますの!? 何か言い返しなさいよ!!」


(あ、無意識に顔に出てしまっていたわ……)


 それでも何も言い返さずにいたのが気に障ったのか、更に強めの言葉が飛んでくる。


「あなたみたいな傷モノがランズベルト様のお側にいることなど、許されませ――」


 けれどその言葉はリリアーナ様を追ってきたであろう人物によってかき消された。


「ランスの婚約者はあなたではないと、何度言えばわかるのかしら?」


 扉の前には、怒り心頭なルイーゼ様が背筋の凍りつくような美しい笑顔で立っていた。

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