第4話 超精密かまどで命を救え
「助けて、エレナ様!」
悲鳴のような叫び声が、夕暮れの村に響いた。
駆け込んだ家の中で、幼い少女が苦しそうに肩で息をしていた。
「……熱は上がりきっていない。喉の炎症ね」
エレナの瞳に、鋭いプロの光が宿る。だが、彼女は唇を噛んだ。
「……火が足りない。この土間の焚き火じゃ
温度の微調整ができないわ。薬草の成分が死んでしまう……!」
村の粗末な焚き場では、火が強すぎれば薬が焦げ
弱すぎれば抽出が間に合わない。
母親が絶望に顔をゆがめた、その時。
「――俺がやる。エレナ、お前は調合に集中しろ」
俺の腰袋がジャラリと鳴る。
視界には、YouTube知識から抽出された
【高効率・緊急用ロケットストーブ工法】の設計図が
AR映像のように青く浮かび上がっていた。
「な、何をするんだい、タカさん!」
驚く村人を背に、俺は庭の平石と泥、そして数個のレンガを
電光石火の速さで組み上げた。
「ラウル! 薪を5センチ角に割れ。それから、その筒を持ってろ!」
「お、おう!」
大工としての指先が、迷いなく「空気の道」を作っていく。 数分後。
そこには、ただの石積みではない、
驚異的な燃焼効率を誇る『超精密かまど』が完成していた。
「火を入れろ」
ゴォッ! と、吸気口から空気が吸い込まれる独特の音が響く。
煙は一切出ず、青白い炎が一直線に鍋の底を突いた。
「な……これ、火力が魔法みたいに安定してる……!?」
エレナが目を見開く。
「火力を落とすぞ。……今だ、薬草を入れろ!」
俺が吸気口を1センチ単位で調整すると、
炎は瞬時に穏やかな「微塵泡」に変わる。
「……信じられない。これなら、王都の最高級魔導コンロより正確よ!」
エレナの指が舞う。
柳皮、エルダーフラワー、薄荷。
完璧な温度管理のもとで抽出された薬液は
見たこともないほど透き通った琥珀色に輝いていた。
少女が薬を一口飲み、やがて――。
呼吸が整い、穏やかな寝息を立て始めた。
「……すごすぎる!タカさん。あんた、ただの大工じゃないだろ?」
ラウルが震える声で言う。
俺は汗を拭い、ニカッと笑った。
「ただの大工さ。
……ただ、少しだけ『最高の火の扱い方』を知ってるだけだよ」
「タカ」
名前を呼ばれ、振り向くとエレナが薬草の束をひとつ差し出していた。
「軒先に“影干し”用の棚を作りたいの。
風は通るけど、陽は当てない場所。できる?」
「できる!越屋根に風が抜けるようにして、棚は格子。
吊るす棒は太さを揃えて、乾きの差を抑える」
口にしてから、自分でも驚いた。
言葉が、さっきの映像の余熱を引いている。
「……あなた、本当に大工なのね」
エレナは目を細める。
「乾かし方で、薬はまるで別物になるの。
“ただ干せばいい”わけじゃないわ。」
子どもは半刻ほどで汗をかき、うとうとし始めた。
熱が“上がりきって下がり始めた”ときの、
あの微かな安堵の匂いが部屋に満ちる。
「今夜は無理をさせないで。明日の朝、また来る」
エレナが言うと、母親は何度も頭を下げた。
外に出ると、残照が森の上に薄く残っていた。
ラウルが小声で言う。
「……エレナを頼るのを、ためらう奴もまだいる。
けど、今のを見たら、明日は違う。エレナは本物だ。」
それ以外、言葉はいらなかった。
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