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異世界建築録 ~YouTube知識で村を直したら、追放薬師と出会い王都をざまぁしました~  作者: 転々丸
王都編

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第26話 泥を這う元王太子と、黄金の理想郷

かつて雲を割り、

神の領域を気取って浮遊していた王都「アルクス」。


その最外周部、かつては傲慢な貴族たちが酒杯を片手に

下界を見下ろしていた白亜のバルコニーは、今や見る影もない。


いや、正しく言えば「生まれ変わった」のだ。


タカの指揮によって、都市を浮遊させていた過剰な魔力は

すべて、大地と街を物理的に繋ぐための巨大な

「スロープ(斜路)」の建設へと振り向けられた。


地表に降り立った王都は、もはや孤立した島ではない。


広大な草原の地脈を吸い上げ、

大地と共に生きる世界最大の城塞都市へとリノベーションを果たしていた。


そのスロープの麓、建設資材が積み上がる

泥濘ぬかるみの中で、一人の男が呻き声を上げていた。


「……くそっ!

なぜだ、なぜ私がこんな重い石を運ばねばならんのだ……!

手が、私の美しい手が泥にまみれていく……!」


ボロボロの労働着に身を包み、かつての栄光の面影もないほどに

痩せこけた男――元皇太子レオネルである。


彼は王都を追放された際、他国へ亡命して

再起を図るプライドすら持ち合わせていなかった。


結局、自分が「ゴミ溜め」と蔑んでいた大地を這い回り、

皮肉にもタカが作った「新アルクス」の建設現場で、

日雇いの土木作業員として食い繋ぐしかなかったのだ。


「おい、新入り! 手を休めるな!

そこ、構造的に不安定だって大工のタカ様が厳しく仰ってた場所だぞ。

詰め物が甘いんだよ!」


レオネルに怒鳴り声を浴びせたのは、

かつて彼が「歯車」と呼んで使い潰そうとした

元スラム住まいの男だった。


今やその男は、タカから教わった基礎建築学を身につけ

立派な体格と自信を持って現場を仕切っている。


「……黙れ、下賤な者が私に指図を……っ」


「あ? なんか言ったか? ほら、さっさと次の石を運べ。

働かない奴に、今日のスープを飲む権利はねえぞ」


レオネルは屈辱に震えながら、泥にまみれた石材を担ぎ上げた。


その時、ふと顔を上げた彼の目に、信じられない光景が飛び込んできた。


スロープの先にそびえ立つ「新アルクス」の全貌だ。


「な……なんだ、あの輝きは……!

私が統治していた頃の王都よりも、

ずっと、ずっと豪華ではないか……!」


レオネルの瞳が驚愕に染まる。


そこに広がるのは、金箔を貼り付けただけの安っぽい虚飾ではない。


タカが設計した、理にかなった「アーチ構造」と

「トラス構造」が織り成す幾何学的な美しさ。


そして、かつては爆発の危機にあった大アルクス炉は、

ゼノスとの協力によって「安全な循環システム」へと作り変えられ

街の隅々にまで温かな、陽だまりのような魔力光を供給していた。


不衛生で病が蔓延していたスラムは、

陽当たりと通風を計算し尽くした清潔な集合住宅へと変貌している。


タカがYouTubeで得た知識を応用した「合流式下水道」が完備され

悪臭は消え、子供たちが噴水広場で笑い転げている。


さらに、街の周囲を囲むのは、

エレナが調合した「アニマ草の抽出肥料」を

惜しみなく注ぎ込まれた広大な農地だ。


地表に降りたことで得られた肥沃な土壌と、

王都の高度な灌漑システムが融合し、一年中枯れることのない

黄金の小麦畑が地平線の先まで広がっている。


それはかつての王都が求めていた「永遠の命」よりも、

ずっと確かで力強い、生きるための糧だった。


「殿下……おっと、失礼。今はただの『レオネルさん』でしたね」


聞き覚えのある、芯の通った声が頭上から降ってきた。


レオネルが泥に膝をついたまま見上げると

そこには、豪華な礼服ではなく、機能性を重視した

高級な革の作業着を纏い、腰に愛用のハンマーを差したタカが立っていた。


その隣には、白い薬師の正装に身を包み

聖女のような慈愛の微笑みを浮かべたエレナ。


さらに二人の傍らには、すっかり顔色の良くなった王が

従者も連れずに民衆と握手を交わしながら歩いていた。


「タカ……! 貴様ぁっ!

私をあんな泥の中に追い出しておきながら、

自分たちはこんな贅沢を……この街の輝きは、私のものだったはずだ!」


レオネルが泥を掴んで叫ぶ。


タカは腰のコンベックスをカチリと戻し

感情を交えない冷徹な視線をレオネルに向けた。


「贅沢? 勘違いすんなよ、レオネル。

あんたが信じてた『魔法の贅沢』は、誰かから奪った魔力で

虚空に浮かぶだけの、ただの風船だった」


タカは静かに街を指し示した。


「これは、民衆全員がハンマーを持って、汗を流して

自分たちの家を一軒ずつ直して作った『当たり前の生活』だ。

あんたが私利私欲のために爆発させようとしたあの炉は

今じゃ全家庭の暖房と、炊き出しの火、そして街を照らす明かりになってる。……あんたには、この『構造』の温かさは一生理解できねえよ」


「そんな……魔法の力は、高貴な血を引く者のためにあるはずだ!

あいつらが暖を取るためだけに、神の力が使われるなど……!」


「その考え方そのものが、人生の設計ミス……『欠陥』なんだよ」


タカはレオネルの足元、彼が今しがた「とりあえず」のつもりで

積み上げたばかりの石積みを指差した。


「……あんたが運んでるその石、俺の計算じゃ、あと3分で崩れるぞ。

あんたが目先の楽のために、

基礎の泥をかき出さず手抜きして積んだからな。

……自分の『構造』がどれだけ脆いか、その泥の中で一生、測り直してな」


「なっ……!?」


その瞬間、レオネルが縋り付いていた石積みが、

不気味な地鳴りとともに崩壊した。


レオネルは無様に泥濘の中へと転げ落ち、

重い石材が彼を泥の中へと押し込めていく。


通りかかった民衆たちは、その様子を見ても

もはや怒りも嘲笑も向けなかった。


今の彼らにとって、この泥まみれの男は「憎むべき暴君」ですらない。


ただの「基礎もまともに作れない、仕事の遅い作業員」という

存在に過ぎなかった。


夕暮れが、新アルクスの堅牢な城壁を黄金色に染め上げていく。


タカは、二度と自分たちの視界に入ることもないだろう男に背を向け

エレナと共に歩き出した。


「タカ、これからどうするの?

王様は、あなたをこの国の『終身大建築総督』に任命したいみたいだけど」


エレナが微笑みながら尋ねる。

タカは肩に乗ったルナの頭を撫で、空高く舞うホーを見上げた。


「総督なんて柄じゃないさ。……見てみろよ、あの山の向こう。

あそこにも、古い迷信や魔法のせいで

今にも家が崩れそうな連中がいるはずだ」


「ふん、またあちこち連れ回す気?

せっかくこの街のクッション、最高のリフォームができたところなのに」


ルナはツンとそっぽを向くが

その尻尾は満足げにタカの首に巻き付いている。


「タカが行くなら、私も行くわ。

……壊れた街を直すには、大工の腕と、私の薬が必要でしょ?」


「ああ。……次はどんな欠陥物件が待ってるか、楽しみだ。

よし、行くか。世界中の『構造』を、俺たちの手でリフォームしにな!」


タカは愛用のハンマーを叩き、一歩を踏み出した。


大工と薬師、そして二匹の相棒たちの旅路の先には

まだ誰も見たことがない「正しい世界の設計図」が広がっていた。



ご覧頂きありがとうございますm(_ _)m

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