第22話 狂王の祭壇と、歪んだ黄金
第八地区の騒動から間を置かず、
俺たちは白銀の鎧を着た近衛兵に囲まれていた。
連れて行かれたのは、王都の頂点――「浮遊王宮」。
王の謁見の間は、黄金の装飾に覆われていた。
壁にはアニマ草を模した模様が刻まれ、
天井には太陽を象った巨大な円盤。
だが、その豪奢さの奥に漂うのは、
鉄と煮出した薬草の混じった、どこか病んだ匂いだ。
玉座に座る王は痩せこけ、顔色は青白い。
肩で荒く息をしながらも、
その瞳だけはぎらぎらと獲物を狙う獣のような光を放っていた。
「……そなたが噂の大工か」
王の声はしわがれ、それでも絶対的な威圧感を帯びていた。
「村で不思議な炉を築き、人を救ったと聞く。
ならば直せ。延命薬を妨げている“神殿の欠陥”を!」
王の震える指が、背後の大扉を指し示す。
俺とエレナが連行された神殿は、石造りの堂々たる建物だが
内部は不自然なほど静まり返っていた。
床には湿った苔が生え、祭壇の上には
巨大な「黄金草」を編んだ飾りが鎮座している。
だが、その背後の鏡板には、
落雷でも受けたような巨大な「ひび」が走っていた。
エレナが息を呑む。
「……光を導く仕掛け。これが壊れていたら
……アニマ草に『命の熱』が届かない」
俺は頷き、腰袋に手を伸ばした。
巻尺、釘抜き、木槌。
使い慣れた道具の感触が、焦る心を落ち着かせる。
【建築スキル:光路解析発動】
【診断:光導管の破損、反射角度のズレ。
修復によりエネルギー収束率98%まで回復可能】
「そなたの腕、見せてみよ! 神の光を甦らせろ!」
玉座から付いてきた王の声が、残響となって神殿に響く。
俺は石板を押し、最適な角度を探った。
埃をかぶった反射鏡を拭い、
欠けた部分には磨いた金属片を楔として差し込む。
ルナが「ふん、ここが一番暗いわよ」
と尻尾で指し示した角に、光を通す水晶をはめ込む。
ひとつひとつ、仕組みを積み直していく。
エレナが持つ薬草の束を仮の支えにし、砕けた枠を縄で固定した。
最後の板を、一ミリの狂いもなく動かしたその時。
天井の隙間から差し込んだ細い一筋の光が、
反射鏡で増幅され、幾重にも屈折しながら祭壇へと導かれた。
カァァァァァァッ!!
黄金草の飾りが、一斉にきらめく。 まるで炎のように、
神殿全体が神々しい金色の光に染まった。
俺は深く息を吐いた。
仕掛けは単純だ。
だが、この「光の道」がなければ、草はただの枯れ葉でしかない。
光が甦ったのを見た瞬間、王は狂喜し、祭壇へと駆け寄った。
「よくやった! 次だ、次は薬だ!」
痩せた指が、今度はエレナを指し示す。
「この光が甦った今こそ、延命薬は完成する!
作れ! 余のために! 不死の力を、この手に!」
王の声は狂熱に震えていた。 俺は拳を握った。
――建築は終わった。
だが、俺が直したこの光は、人を救うためのものか、
それとも王の狂気を加速させるためのものか。
視界の端に、冷たい文字が浮かぶ。
【神殿修復:成功】
【延命薬の試練:開始】
【警告:アルクス炉の共鳴が臨界点に近づいています】
金色の光が眩しく揺らめく中、俺たちは次なる、
そして最大の試練の舞台に立たされていた。
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