第18話 断絶の峡谷と「即席の架け橋」
村を出て三日。
俺とエレナを乗せた荷車は、王都への最短路である
「星落としの峡谷」に差し掛かっていた。
だが、眼前に広がっていたのは、無残に崩落した巨大な石橋の姿だった。
「……ひどい。これ、人為的に壊されてるわ」
エレナが馬車を降り、谷底を覗き込んで呟く。
本来なら、王都の魔導建築士が維持しているはずの公道。
だが、崩れた断面からは、魔力を無理やり引き抜かれたような
「枯死」の跡が見て取れた。
【解析:構造崩壊(魔力枯渇による風化)】
【追跡:後方に騎士団の別働隊を確認。距離、約2キロ】
「なるほどな。俺たちを逃がさないために、
唯一の退路(こっちから見れば進路)を断ったわけか」
俺は腰のコンベックス(巻尺)を引き出し、谷の幅を測る。
およそ30メートル。
通常の木材で橋を架けるには、あまりに距離がありすぎる。
「タカ、戻りましょう。ここを渡るのは無理よ」
「いや、戻れば騎士団の袋のネズミだ。
……エレナ、ここで『アルクス』を少しだけ使わせてくれ」
俺は荷台から、予備の建材として積んでいた数本の丸太と、
村から持ってきた**「アニマ草の繊維で作った丈夫なロープ」**
を取り出した。
「橋を一から作り直す時間はない。
だが、一瞬だけ渡れる**『吊り橋(即席版)』**なら、
構造計算でなんとかなる」
俺は崖の端にある頑丈な岩を基点にし、
ロープを複雑に組み合わせていく。
ここでYouTubeの知識――
「古代の吊り橋工法」と「トラス構造」の融合が火を噴く。
「エレナ、ロープの結び目にアルクスの魔力を流し込め。
繊維を硬化させて、引張強度を限界まで引き上げるんだ!」
「わかったわ……!」
エレナが黄金の触媒をかざすと、麻のロープが
金属のような光沢を帯びて引き締まる。
俺は滑車を使い、丸太を谷の向こう岸へ、
巨大な「釣り竿」のように突き出していった。
【建築スキル:跳ね出しトラス(片持ち梁)展開】
【構造強度:一時的にS。持続時間……120秒】
「よし、渡るぞ! 馬車ごと駆け抜けろ!」
背後からは、騎士団の馬蹄の音が迫っている。
俺たちは、宙に浮いたような細い丸太の道へ荷車を突っ込ませた。
ミシミシと悲鳴を上げるロープ。
だが、エレナの魔力と俺の組んだ計算が、
重力を否定するように車輪を支える。
渡り切った瞬間、俺はアンカーの固定ピンをハンマーで叩き出した。
バラバラッ!!
支えを失った即席の橋が、
追ってきた騎士たちの目の前で奈落へと崩れ落ちる。
「……大工野郎、どこまでも小癄な真似を!」
崖の向こうで悔しげに叫ぶ騎士たちを背に、
俺は手元の巻尺をカチリと戻した。
「悪いな。壊すのは得意じゃないが、
『一度しか渡れない道』を作るのは、大工の裏技なんだよ」
谷を抜けた先には、
夕日に照らされて黄金色に不気味に輝く王都の影が、
はっきりと見え始めていた。
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