第16話 鴉(カラス)の暗躍、大工の罠
ガストンがへたり込んだ泥の中で震えている。
村人たちの歓声はまだ遠く、俺とラウル、そしてエレナだけが、
この裏切りの事実と直面していた。
「……タカ、ガストンは?」
エレナが震える声で尋ねる。
「『鴉』に利用された。
炉を壊すように仕向けられてたが、無事だ」
俺の返答に、エレナは安堵の息を漏らしたが、
ラウルの表情は硬い。
「……しかし、村の人間が王都に通じていたとはな」
その時だった。
「ご忠告、感謝しますよ、大工さん」
空気を切り裂くような冷たい声が、排熱ダクトの影から響いた。
ヌッと姿を現したのは、黒衣を纏った細身の男。
顔の半分を布で隠し、フードを目深に被っているが、
鋭く光る瞳の奥には、冷酷な知性が宿っている。 ――密偵『鴉』。
「まさか、貴殿が私の『捨て駒』の真意を見破るとはね。見事だ」
鴉はゆっくりと歩み寄る。
その足音はほとんどなく、まるで影が移動しているようだ。
「王都は貴殿のような『イレギュラー』を最も嫌う。
魔法文明の秩序を乱す、得体の知れない“構造”の使い手だからな」
鴉の右手が、スッと上を指した。
次の瞬間、俺たちの頭上を覆うダクトの接合部から、
**キィン!**と鋭い金属音が響く。
鴉が仕込んでいた、高周波音波発生装置だ。
【警告:音波攻撃を確認。聴覚・平衡感覚への干渉開始】
脳を直接揺さぶられるような激痛。
視界が歪み、俺は思わず膝をついた。
ラウルも剣を杖にしてどうにか立っているが、
エレナは顔を蒼白にして耳を塞いでいる。
「残念だな、大工さん。貴殿の『構造』は素晴らしい。
だが、その肝心な頭脳が機能停止すれば、ただの凡人だ」
鴉は嗤いながら、俺にゆっくりと近づいてくる。
その手には、刃が二つに分かれた奇妙な短剣が握られていた。
「タカっ!」
ラウルが叫び、必死に剣を構えようとするが、
音波のせいで体が言うことを聞かない。
(くそっ……! この音波、
ダクトの構造を振動させて増幅してるのか!?)
俺の脳内では、
システムが音波発生源とダクトの共鳴周波数を解析している。
【分析:ダクトの金属疲労度、共振点……割り出し完了】
「終わりだ、大工。
貴殿の命と、その『構造』は、王都が回収させてもらう」
鴉が短剣を振り上げた。エレナが悲鳴をあげる。
「残念だったな、鴉」
俺は膝をついたまま、ニヤリと笑った。
「俺の『構造』は、そんな簡単に止まらねえ」
鴉が眉をひそめたその瞬間。
俺は懐から取り出した小さな鉛の塊を、ダクトの特定の接続部に、
渾身の力で叩き込んだ。
ゴツン!
鉛が変形し、ダクトの共振点を完全に潰した。
次の瞬間、キィィン!という耳鳴りがピタリと止む。
「……な!?」
【警告:音波攻撃、無力化完了】
【建築スキル:共振抑制(制振ダンパー)発動】
音波が止まったことで、俺たちの平衡感覚が一気に戻る。
ラウルがうなり声を上げ、鴉に斬りかかった。
「この野郎っ!」
鴉は素早く身を翻し、ラウルの剣撃を紙一重でかわす。
だが、その体勢は崩れた。 俺は待っていた。
「ここがお前の『死角』だ、鴉!」
俺は地面の特定のポイントを足で強く踏み込んだ。
【トラップ:埋設式拘束ネット(ワイヤー式)発動】
ギチギチッ!
俺が仕掛けていたのは、ダクト工事の際に余った細いワイヤーと、
排熱ダクトの支柱を応用した**「簡易足枷トラップ」**だ。
鴉がいた場所の地面から、細いワイヤーが網のように飛び出し、
鴉の両足を絡め取った。
「ぐっ……! こんな、馬鹿な!」
体勢を崩した鴉は、地面に強く叩きつけられる。
その拍子に、フードがずれ、隠された顔の半分が露わになった。
そこには、王都の貴族がつける**「片翼の鴉」**の紋様が、
薄く刻み込まれていた。
「王都の貴族が、こんな辺境の村で密偵か。ご苦労なことだ」
俺はハンマーを肩に担ぎ、倒れた鴉を見下ろした。
「ラウル、縛れ。
エレナ、鴉の通信石を回収して、魔力反応を解析してくれ」
村の片隅で、静かに繰り広げられた密偵との死闘。
この勝利は、村人たちの「裏切り」の不安を打ち消し、
新たな信頼の礎となるだろう。
要塞村アルラ。
内なる敵をも制圧し、その構造はさらに強固なものへと進化していく。
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