第15話:泥中の楔(裏切り者の動き)
村人たちが「勝った!」と叫び声を上げる中、
俺の視界には冷たいアラートが点滅していた。
【警告:村内部の構造的歪みを検知】
【分析:要塞化進捗に負の影響を与える“異物”が移動中】
(……やっぱり、中にいやがるな)
俺は監視塔から、喜びを爆発させる群衆を凝視した。
皆が壁の勝利に酔いしれる中、一人だけ、村の奥
――「アルクス炉」とエレナがいる方向へ背を向けて走る影があった。
「ラウル! 監視塔を任せる。騎士団の次の動きを逃すな!」
「おい、タカ! どこへ行くんだ!」
呼びかけを背に、俺は塔の階段を飛び降りた。
建築スキルの【空間把握】を最大に広げる。
地面を伝う足音、空気の揺れ。
それらすべてが設計図上のノイズとして俺の脳内に位置を刻んでいく。
影が向かったのは、村の北側にある排熱ダクトの基部だった。
そこは今回の要塞化工事で「炉の熱を壁に送る」ための、
防衛システムの心臓部だ。
「……誰だ」
俺の声に、影がびくりと肩を揺らした。
振り返ったのは、あの中年の男――ガストンだった。
壁の建設に最後まで反対していた男だ。
その手には、王都の騎士が使うものと同じ、
禍々しい紋章の刻まれた「通信石」が握られている。
「……タカ、お前さえ来なければ、こんなことにはならなかったんだ」
ガストンの声は震えていたが、その瞳にはどす黒い恐怖と、
自分を正当化しようとする歪んだ意志が宿っていた。
「壁を作れば作るほど、王都は本気になる! 逆らえば皆殺しだ!
だったら、あの女と薬を差し出せば、俺たちは助かるんだよ!」
「……それを決めるのは、あんたじゃない」
俺が一歩踏み出すと、
ガストンは通信石をダクトの点検口にねじ込もうとした。
そこはアルクス炉の魔力循環の要。
そこに妨害石を叩き込まれれば、炉は暴走し、内側から壁が自壊する。
「鴉の奴が言ってた。
これを壊せば、俺だけは王都に連れて行ってくれるって
……王都の市民にしてくれるってな!」
「あんた、村を売ったのか……!」
ガストンが石を押し込もうとしたその瞬間。
【建築スキル:構造解体(部分)発動】
俺は腰袋からハンマーを引き抜き、
ダクトの「支点」となるボルトを一点、正確に叩いた。
カキンッ!
計算された衝撃で、点検口の蓋がバネのようにはね返り、
ガストンの手から通信石を弾き飛ばした。
「あ、がっ……!」
「あんたが憧れる王都の『構造』は、人を守るためのもんじゃない。
切り捨てるためのもんだ。その証拠に――」
俺は地面に転がった通信石を指差した。
石からは、すでに赤黒い毒霧が噴き出している。
「鴉はあんたに、炉を壊せとは言ってないはずだ。
『自爆しろ』と言ったんだよ」
もし石がダクトに入っていれば、
炉の爆発とともにガストンも跡形もなく吹き飛んでいたはずだ。
王都にとって、裏切り者の村人など使い捨ての導火線に過ぎない。
「……う、うわああああッ!」
ガストンが腰を抜かし、泥の中にへたり込む。
その時、森の奥から鋭い口笛が響いた。
騎士団の撤退を装った、鴉の「次なる合図」だ。
俺は通信石を踏み砕き、動けなくなったガストンを一瞥して、
再び監視塔を見上げた。
「……ラウル、配置を変えるぞ! 内側からも食い破りに来る!」
裏切り者の存在は、村の団結に冷や水を浴びせた。
だが、これで「本当の敵」のやり方がはっきりした。
俺たちの要塞は、まだ48%だ。
だが、この裏切りを乗り越えた時、その数字は真の意味で「命」を宿す。
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