第1話 転生初日、スマホなし
気づいたら異世界にいた。
けれど、俺の腰袋――釘抜きや巻尺が残っていた。
そして目の前に浮かぶステータス画面。
YouTubeで覚えた建築の知識が、俺の唯一の武器となる。
昼休み。
現場の鉄骨の下で、俺は昼飯を済ませてから、工具箱に腰かけた。
疲れていた。
前日遅くまで残業して、朝は早くから搬入の手伝い。
スマホを手に、YouTubeでログハウスの動画をぼんやり見ながら――
……気づけば、見知らぬ空があった。
「……は?」
木漏れ日が、静かにまぶたを照らす。
地面は柔らかく、湿った苔と草の匂いがする。
スマホを探したが、ポケットには入っていなかった。
――そういえば昼休み、
工具箱に腰かけて・・それから記憶がない。
目の前に、ふわりと透明なパネルが浮かび上がる。
【異世界環境認識完了】
【建築支援モード起動】
【スマート端末未検出:記憶同期より支援機能を展開】
「……なに、これ」
どこからともなく響く、静かで落ち着いた声。
聞いたことがあるような、ないような――そんな、優しい音。
【最終使用メディア:YouTube】
【再生履歴から知識抽出中:建築・DIY・古代工法・サバイバル技術】
【支援対象:貴方。記憶登録名……未設定】
混乱しながらも、腰に手をやる。
現場でいつもつけていた腰袋は、そのまま残っていた。
中には巻尺、カッター、ペンチ、ドライバー、釘抜き
――小さいけど頼れる道具たち。
「スマホは置いてきた。でも……お前は残ってくれたか」
【現状:異世界転移直後。生命維持可能】
【支援スタイル:視覚型ステータス+脳内検索ナビ】
【検索は“心の声”で行えます。必要なとき、いつでも】
パネルがすっと消えた。
でも、視界の端に、うっすらと“ステータス”の文字が漂っている。
深い森。聞いたことのない鳥の声。見たことのない雲。
これが、あの転生というやつか?
数時間歩く。
腹が減って、喉が渇いた。
このままじゃ、せっかく転生したのに・・死ぬ。
そのとき、草むらの向こうに畑が見えた。
畑の先には、小さな村。
木造の家々、井戸、薪の山。
農具を片付ける老婆と、子どもたちの笑い声。
できるだけゆっくり歩み寄る。
「旅の人かい?」
丸太のように太い腕をしたおばあさんが声をかけてきた。
「ええ、ちょっと道に迷って……」
「ふふ、あ、そうかい。腹、減ってるんだろ?」
彼女はニコッと笑い、指さした。
「裏手の石塀が崩れててね。直してくれたら、スープくらい出すよ」
俺はうなずき、“心の声”で呟いた。
石塀の積み直し方。道具少なめ。素人でもできるやつ。
ふわりと映像が浮かぶ。
「小学生と石垣を積んでみた」
「災害時のブロック補修法」――そんな動画のサムネイル。
ひとつを選ぶと、視界の隅に映像が再生され、音声が脳に響く。
「……なるほど。こうすれば安定するのか」
石を選び、支えとなる木の枝を使い、
少しずつ塀を元通りに積み上げていく。
「やるねぇ、あんた。手の動きが職人さんみたいだ」
おばあさんは笑い、湯気の立つスープとパンを差し出してくれた。
空腹の胃に、優しい味がしみわたる。
「泊まるとこ? あそこの空き小屋、
誰も使ってないから、自由にしていいよ」
案内された小屋は、屋根の半分が抜け、床板が傾いていた。
でも、俺にはもう“再生の手順”が見えていた。
巻尺を手に、寸法を測る。
壁の傾きを目視で確認。
明日からの修理の段取りを頭の中で立てていく。
そして、空を見上げた。
木材補強の基本。古材の再利用。
釘がなくても固定する方法。
ステータス画面の検索欄に、自然と心の声が走る。
──スマホはもうない。
でも、俺の手と目と、この“ステータス画面”がある。
やれる。やってやろうじゃねえか。
こうして俺の、転生生活が始まった。
ー続く
昼休みぼんやりしてて・・起きたらまさかの
異世界って・・
どうする?俺。by転生初日の俺
ここまでお読みいただきありがとうございます!
第2話は明日の18時に公開です。
次回は相棒との出会いです。
どんな相棒なのか、また次のお話しでお会いしましょう☆