漆黒と真紅の章 07
王都の研究所にてーー。
研究員「……なるほど、道中で卵の温度が上がったり、淡い光と霧が発生し、卵が震えていたとのことですね」
ミリス「はい。私が不安や焦りを感じていた時ほど、卵の様子も落ち着かなくなっていました」
研究員「それは、卵が持ち主――つまりミリス様の感情と共鳴しているからでしょう。強い情動が卵へと伝わり、卵が防衛反応や信号として“光”や“霧”を発していたと考えられます」
ミリス「森の中で金と銀の毛並みの幻獣が現れ、冒険者の皆さんが襲われました。卵の防衛反応となにか関係が?」
研究員「卵が危機を感じたとき、卵自身の本能的な防衛機構に加え、守護精霊とも交信し“幻獣の幻影”として周囲に実体化させ、敵対存在を撃退しようとしたのでしょう」
ミリス「ですが、セリーヌさん……冒険者の一人が私を抱きしめて安心させてくれると、幻獣の攻撃も光もおさまりました」
研究員「ミリス様の心が安定すると、その情動が卵にも伝わり、卵自体も落ち着いたのでしょう。つまり、持ち主の感情が卵を“通じて”外に強く影響を及ぼす。それがこの幻獣卵の特徴だと考えられます」
ミリス「……全部、私の感情やストレスが卵に作用していた……?」
研究員「はい、そうですね。卵は主の心に非常に敏感で、必要に応じて守護精霊が連動し、孵化まで強力に守ろうとするのでしょう」
ミリス「……こんなにも私の心に寄り添ってくれていたなんて。無理に閉じ込めていたら、卵もずっと苦しかったんですね」
研究員「ええ。幻獣の卵は、時として主と深く心を通わせるものです。もしも押さえつけたり無理に隠したりしていれば、最悪の場合、卵そのものが生命力を削ってしまったかもしれません」
ミリス「怖かったけれど、ここまで連れてくることができて良かった……」
研究員「ミリス様がご自身の不安や情熱に正直でいてくれたからこそ、卵も最後まで応えてくれたのでしょう」
ミリス「……でも、私のせいでみんなが危険な目に――」
研究員「いいえ、むしろ誇っていいことです。卵の声にきちんと耳を傾け、命を守ろうとされた。その勇気も、優しさも、そうそう持てるものじゃありません」
ミリス「……ありがとう、ございます」
研究員「こちらこそ、こんなに大切なものをきちんと運び届けてくれて。ミリス様のおかげで、この卵はきっと無事に新しい命として生まれてきますよ」
研究員はやわらかな笑みとともに、誇りと感謝のまなざしをミリスに向けた。