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漆黒と真紅の章 04

 鬱蒼とした深い森。その合間に差す光も、銀色の獣たちの気配を前にどこか冷たく感じられる。


「このへん、足跡がばっちり残ってるよ」


 ラースが木から木へ、信じられないほど軽い身ごなしで滑り降りてきた。


「すぐ追いつけそう。あ! でも、こっちにも動く気配……三つ!」

「すごいな、俺の《索敵》より範囲が広いじゃないか」

「みんなを危ない目にあわせたくないしね。ちゃんと見張っておくから!」


 ラースはすばやく耳をすませ確認すると、カイルの言葉に小さな牙をちらりと見せる。褒められ、それは嬉しそうににっこりと笑った。


「へー、頼りになるな!」

 リタも片手を剣の柄におき、感心したようにつぶやいた。


 次の刹那、木々の梢がざわめき、不意に空気が張りつめる。ゾワゾワと背中を這い寄る嫌な気配にラースの耳がピンと立った。


「……くる!」


 ラースの言葉を聞いたカイルが冷静に声を飛ばす。


「マグナは正面で構えて、リタは左から回り込め。ラースは右上からフォロー。俺は魔法で抑え込む。セリーヌ、支援を頼む」

「ああ」

「了解!」

「わかったー!」

「ええ、任せて」


 ざわざわと空気が揺れ――銀色の狼たちが木々の合間から怒涛のごとく現れた! 5頭、否、それ以上――銀狼たちは狡猾に左右から取り囲むように動きだした。


「オレが受ける。背中は任せた」


 マグナは静かに前へ出た。巨大な盾が陽光を弾く。木の葉一枚すらも通させるものかという気概が圧となり狼たちは一瞬怯む。


 リタも素早く剣を抜き戦闘態勢を整えた。


「来たね! さあ、こっちで遊ぼうか!」


 豪快に直進、斬り抜ける。狼の牙をかわし、逆に体重を乗せた斬撃で地面をえぐる。一頭、二頭……リタの通り道が血塗られていく。


「動きを止める。《風縛》!」


 カイルが指先を払うと、一陣の風が鎖のように絡み付いた。二体の狼の脚が地面に縛りつけられ、咆哮が響く。


「いまだ!」


 ラースが身軽に枝から滑り出し、低く跳んで狼の側面に矢を撃ち込む。狼が事切れたのを確認すると、油断することなく、ただ人よりも優れた視力で見つけた新たな敵の存在を仲間に知らせた。


「あと一体、左の茂みにいるよ!」

「ふんっ!!」


 マグナは返り血を気にせず、正面の一匹を大盾で強引に押し返す。静かに一歩、また一歩と詰め、狼の動きを制していく。


 セリーヌは聖書を片手に、状況を冷静に見極めようとしていた。


「マグナさんに《ヒール》、リタさんに……ここで《シェル》!」


 淡い光がリタの肩に降り注ぎ、次の瞬間、狼の牙がかすっても傷にはならない。


「サンキュー、助かったよ!」

 リタは明るく声を上げ、また駆け出した。



 ついにやってきた、森の奥から独特の重い気配――

一回り大きな銀色の親玉が姿を現す。その金色の瞳に、知性と狡猾さが宿っていた。まわりの子分も戦意むき出しで、パーティーを狙っている。


「まずい、挟み撃ちの形だ!油断するな」


 カイルが素早く状況を読み取る。


「ラース、左の高い枝。全体を見て援護しろ!」

「了解!」


 

 ラースは枝から枝へ軽やかに跳び移り、全体を俯瞰する。


 正面は親玉が、尋常でない速さと重さでリタとマグナめがけて突進してくる。


「……んぐっ……重てぇ!」


 リタの剣が一度はじかれ、抗う間も無く親玉の爪が脇腹をかすめる――そのとき、マグナが間に割り込み、自らの大盾でリタを守る。


「……下がれ」


 普段は無口な彼が、低い声で短くそう言い捨てる。


「助かった!」


 リタはホッと息をつくと、するりとマグナの後ろに回ると、その隙に体勢を立て直す。


 反対側、子分の狼がセリーヌに飛びかかる。

 それを察したラースの矢が、狼の鼻先を鋭く掠める。


「危ない、セリーヌ姉ちゃん!」

「ありがとう、ラースくん!」


 セリーヌはすかさず聖書を構えなおし、素早く詠唱する。


「《ホーリーライト》!」


 光が狼の視界を眩ませ、素早く回復と防御を自身と前衛にいるリタとマグナに展開する。


「《シェル》、二人ともこのまま持ちこたえて!」


 カイルはそんなみんなの動きに目を走らせていた。


「《雷嵐縛》!」


 全体の連携がうまく回るように、親玉と子分の動きを嵐の鎖で制限する。


「リタ、右前足が鈍ってる。今なら狙える!」

「よーし、任せときなさい!」


 リタは一声かけて、セリーヌの加護ごしに親玉へ踏み込む。剣を滑らせて前足を力一杯、斬り上げ――


 だが親玉が振り返り、鋭い牙でリタに噛みつこうとした。


「ッ……!」


 すんでのところでマグナの盾が割って入り、リタの体を再度かばう。


「こっちだよ!」


 咄嗟にラースが枝を揺らして注意を引いた。


「《氷晶穿光》!」


 親玉が一瞬ラースに視線を向けた隙を逃さずはなたれたカイルの魔法が、親玉の肩を正確に貫く。


「さすが!」

「調子に乗るな、まだ終わってない!」

「わかってるって!」


 リタが息を整え、剣を構える。


 セリーヌの《リジェネ》が、一番傷の深いマグナに届いた。


「マグナさん、大丈夫ですか?」


 マグナは黙って頷き、再び盾を高く掲げた。


「さあ、一気に畳み掛けるよ!」


 リタが叫ぶ。そこからは一方的な攻撃のラッシュだった。


 カイルの号令の下、ラースが矢を連射、親玉の脚を鈍らせ、リタが斬り込み、マグナが巨盾で追い打ちをかける。セリーヌが全員の傷を癒しながら減弱効果のある《ホーリーライト》で親玉を包み、カイルが呼吸を合わせ、《雷閃》で一気に決める。


 最後の瞬間、リタにみんなの「頼んだ!」の声。


「みんなで作った最大のチャンス……私の渾身の力をくらえっ! !」


 リタの剣が輝き、親玉の首元を正確に断つ――!

 銀狼の親玉は、ついに崩れた。



 静寂。みんなに傷や汗はある。でも、互いの目が自然に合い、笑みが浮かんだ。


「やったな!」

リタが大きくガッツポーズ。


「良かったー。みんなのおかげだよ、本当に!」

 とラース。


「すごい連携だったわね。ふふ、次も安心して暴れられそう」

「……悪くなかった」


 セリーヌが微笑めば、マグナも無口なまま、けれど柔らかな目で言葉少なに応じる。


「この五人なら、どんな相手もやれる気がするよ」

 カイルが思わず、と言った様子でフッと漏らした。


 誰か一人でも欠けたらつかめなかった勝利。まさに、助け合いから生まれた“絆の初陣”だった。

 森の静寂が、いつもよりやさしく感じられる。不思議と、どこまでも前向きな気持ちで歩き出せる1日の始まりだった――。





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