第8話:渋滞中の大ピンチ!「ジンギスカン」我慢の限界? (Day 20)
<ココロの日記>
6月24日 (Day 20)。
今日は、車が全然進まなかった。
外は、車がたくさん。
変な匂いもした。
お腹が、痛かった。
ユウタお兄ちゃんが、何かしてくれた。
恥ずかしかったけど、助かった。
ココロ視点メイン、ユウタの行動あり
朝、目が覚めると、軽キャンピングカー『ひまわり号』は、また気持ちよく走っていた。
窓の外には、どこまでも続くような、北海道の雄大な景色が広がっている。
昨日、美瑛の丘で見た、あの緑の絨毯。
まだ、ぼんやりと頭に残ってる。
しばらくして、車のスピードが、ゆっくりと落ち始めた。
そして、止まる。
また走り出す。
止まる。
これを何度か繰り返すうちに、車は完全に停止した。
外から、たくさんの車の音。
クラクションの音。
何かがおかしい。
「マジかよ、こんなところで渋滞かよ!」
運転席のユウタお兄ちゃんの、イライラしたような独り言が聞こえた。
電光掲示板が見えたのだろうか。
渋滞。
その言葉を聞いて、私の心臓が、少しだけ嫌な音を立てた。
人がたくさんいる場所。
高速道路の上。
私には、やっぱり、外は怖い。
私は、すぐにカーテンを閉め直した。
隙間なく、光を遮断する。
しばらく経っても、車は一向に動かない。
そして、じんわりと、お腹に違和感が芽生え始めた。
トイレに行きたい。
最初は、我慢できる程度だった。
でも、時間が経つにつれて、その感覚は、少しずつ、少しずつ、強くなっていく。
私は、簡易ベッドの上で、もじもじと身動きを取った。
ユウタお兄ちゃんに、バレないように。
こんなことを、知られるのは、恥ずかしい。
人目を気にする気持ちが、トイレに行きたいという生理的な欲求よりも先行した。
でも、もう、限界が近い。
顔色が、青ざめていくのが自分でもわかる。
冷や汗が、背中を伝う。
息が、荒くなってきた。
「おい、ココロ? もしかして、トイレ、行きたいのか?」
ユウタお兄ちゃんの声が、ミラー越しに聞こえた。
ビクッと、体が跳ねた。
「ち、違う!」
反射的に、首を横に振った。
でも、きっと、バレている。
顔が熱い。耳まで、真っ赤になっているのが分かる。
「いや、違うって顔色じゃねぇぞ。マジでヤバそうだな、お前。」
ユウタお兄ちゃんは、事態の深刻さを察してくれたみたいだった。
「参ったな……。この渋滞じゃ、サービスエリアまで何時間かかるか分かんねぇぞ。」
そう呟きながら、彼はバックミラー越しに、私の顔をじっと見つめている。
彼の表情が、真剣なものに変わった。
「よし、緊急事態だ。簡易トイレ、使うか!」
その言葉に、私の頭は真っ白になった。
簡易トイレ。
車の中で、そんなこと。
羞恥心で、全身が熱くなる。
でも、もう、本当に、限界だ。
ユウタお兄ちゃんは、助手席のシートを倒し始めた。
そして、シートと後部座席の間に、タオルや毛布を広げて、簡易的な目隠しを設置してくれる。
「これで、見えねーだろ? 大丈夫だから。」
不器用な手つきだけど、私を気遣ってくれているのが分かった。
狭い車内。
ユウタお兄ちゃんが動くたびに、彼の体がすぐ近くに感じられる。
息遣いも聞こえる。
私の荒い息遣い。
緊張と羞恥心で、心臓がバクバク鳴っている。
「お、お前、もう限界か!!?」
ユウタお兄ちゃんの焦った声が、耳元に響く。
その声に、私はさらに顔を赤くした。
無防備な、この状況。
彼が、私を、どう見ているのか。
そんなことを考える余裕も、もう、残されていなかった。
私は、意を決して、簡易トイレへと向かった。
ユウタお兄ちゃんは、私のプライバシーを守るように、車の外に出てくれた。
窓の外には、ジンギスカンの匂いが漂ってきた。
楽しそうに笑う家族連れが見える。
私には、まだ、そんな風に笑うことはできない。
でも、ユウタお兄ちゃんが、外で、私を守ってくれている。
その存在が、少しだけ、安心できた。
用を足し終え、ホッと息をつく。
カーテンを開けると、ユウタお兄ちゃんが車の前で、外の景色を眺めていた。
顔色はまだ青いが、体から力が抜けていくのが分かった。
「……ありがとう。」
か細くも、はっきりとした声で、感謝を伝える。
ユウタお兄ちゃんが、振り返った。
私の顔を見て、安堵したような表情になった。
「よく頑張ったな、ココロ。」
優しい声。
彼の言葉に、私は、初めて、誰かに助けてもらった、という感覚を覚えた。
外の世界は、まだ怖い。
でも、この人は、私を守ってくれる。
この旅は、私にとって、ただ怖いだけじゃない。
困った時は、頼ってもいいんだ。
そう、思えた。
ちょうどその時、停止していた車が、ゆっくりと動き始めた。
渋滞が、ようやく解消したみたいだ。
<ユウタのVlog再生画面のコメント欄>
「北海道の渋滞!?マジか!俺も巻き込まれたことあるわw」
「軽キャンパーだとトイレ問題マジで切実だよな…」
「ジンギスカン食ってる家族連れ、最高に北海道って感じ!」
「ユウタくん、ココロちゃんのことちゃんと見てて偉いな!」
<ココロのSNS(X)タイムライン>
※第8話時点では、まだ投稿を再開していないため、コメントは表示されません。
<ココロの心情>
恥ずかしかった。でも、ユウタお兄ちゃんが、私を助けてくれた。誰かに頼るって、こんなに安心するんだ。外の世界は、まだ不安だけど、少しだけ、この旅の続きが、楽しみになってきた。
<次回予告>
ユウタ「ココロ、ちょっと今から、ライブ配信するんだけど……」
ココロ「……ライブ?」
ユウタ「大丈夫!ちょっとだけ顔出すだけでもいいからさ!」
ココロ「……無理」
第9話:初めてのライブ配信と、「富良野メロン」のような温かいコメント!