第5話:ひまわり号、北の大地へ!絶品「海鮮丼」の誘惑 (Day 14-15)
<ココロの日記>
6月9日 (Day 5)。
富士宮やきそばは、本当に美味しかった。
あの匂いが、まだ混ざってるみたい。
ユウタお兄ちゃんは、私が外に出られたことを、すごく喜んでくれた。
今日の晩御飯は、また車の中で食べたけど、外の景色が、少しだけ見えるようになった。
6月10日 (Day 6)。
朝、目が覚めたら、車の窓から、知らない湖が見えた。
ユウタお兄ちゃんが、写真撮るか?ってカメラを渡してくれた。
まだ、人のいない時間だったから、少しだけシャッターを切ってみた。
なんだか、心が軽くなる気がした。
6月12日 (Day 8)。
色々な場所に行った。
海沿いを走ったり、山の中を走ったり。
ユウタお兄ちゃんのVlogは、毎日更新されてる。
たくさんの人が見てくれてる。
私を心配するコメントも、たまに見かけるようになった。
少しずつ、外の世界が、怖いだけじゃないって、思い始めた。
6月14日 (Day 10)。
今日は、少しだけ、ユウタお兄ちゃんと話した。
私が撮った写真のこと。
彼が、私の写真に、すごく期待してくれてるのが分かった。
嬉しい。でも、まだ、ちゃんと撮れるか、不安になる。
明日から、船に乗るらしい。
北海道。すごく遠い場所。
フェリー乗り場へ向かう途中、海沿いの小さな食堂で海鮮丼を食べた。
初めての、キラキラした丼。美味しかった。
北海道のは、もっとすごいんだろうか。
6月18日 (Day 14)。
今日は、船に乗る日。
海が見える。すごく広い。
軽キャンピングカーの簡易ベッドで、揺れるのがわかる。
夜になったら、もっと揺れるのかな。
ユウタお兄ちゃんは、疲れているみたい。
疲れているのに、私を気遣ってくれてる。
北海道に着いたら、美味しい海鮮丼を食べさせてくれるらしい。
どんな味がするんだろう。楽しみ。
ユウタ視点
「ふう……やっと着いたぜ、フェリーターミナル!」
ハンドルを握りしめていた手が、じんわりと汗ばんでいた。
静岡から北海道への移動。今回はフェリーだ。長距離の移動と船内泊。
ココロを飽きさせないように、色々と工夫はしてきたつもりだ。サービスエリアでは、俺が面白おかしくご当地グルメを食ってVlogを撮ったり、途中の景色のいい場所で「ほら、見てみろよ!」って声をかけたり。
でも、正直、体がキツい。
連日の運転に、Vlogの編集作業。さらに、ココロの様子も常に気にかけなくちゃならない。
俺の体力も、思ったより旅が大変なことに直面し、内心で葛藤し始めていた。
「ココロ、船に乗るぞ。荷物、大丈夫か?」
ミラー越しにココロを見ると、彼女は不安そうに簡易ベッドに座り込んでいる。
「……はい」
か細い声が、返ってきた。
サービスエリアで少し外に出られたとはいえ、船という、閉鎖された空間。しかも、見知らぬ人たちが大勢いる。ココロにとっては、かなりのストレスだろう。
俺は軽キャンピングカーをゆっくりと進め、フェリーへと乗り込んだ。
大きな船体が、ゴゴゴ……と音を立てながら、ゆっくりと埠頭から離れていく。
窓の外には、広大な海が広がっていた。
ココロは、船が動き出したことに気づいたのか、わずかに身を震わせた。
俺は、一瞬だけミラーを見た。ココロは、カーテンを閉め切って、相変わらず自分の世界に閉じこもっている。
「北海道まで、しばらくかかるからな。暇だったら、Vlogでも見るか? 俺が撮ったやつ、まだ見てないだろ?」
そう声をかけると、ココロはわずかにカーテンの隙間から顔を覗かせた。
「……見ます」
その小さな声に、俺は少しだけホッとした。
ココロが俺のVlogを見る。
それは、彼女が少しでも俺に、そして外の世界に興味を持ってくれている証拠だ。
俺は、旅の途中で撮りためたVlogの映像を、ココロに見せた。
絶景が広がる山の頂上、賑やかなお祭り、そして、美味しそうなご当地グルメ。
ココロは、食い入るように画面を見つめている。
特に、動物の映像には、目を輝かせているように見えた。
「……可愛い」
その声に、俺は思わず振り返った。
ココロの顔が、少しだけ緩んでいる。
そんなココロの様子に、俺も疲れが吹っ飛ぶような気がした。
しばらくして、ココロは簡易ベッドに横になり、疲れたように目を閉じた。
船内泊の狭い空間。
俺の簡易ベッドとココロの簡易ベッドは、目と鼻の先だ。
夜中に寝返りを打つと、ココロのベッドが微かに揺れるのがわかる。
聞こえてくる、微かな寝息。
無防備な寝顔。
普段はフードで隠している顔も、今は無防備に晒されている。
真っ白な肌。少し開いた唇。
日中とは全く違う、子供のような無垢な表情に、俺は思わずドキッとした。
こんな近くにココロがいる。
しかも、こんな無防備な姿で。
俺は、とっさに視線を逸らした。
いけない。いけない。
俺は、ただの従兄だ。
それに、ココロはまだ、外界に慣れていない。
旅の疲れもあって、俺もいつの間にか眠りについていた。
朝、目が覚めると、フェリーはもう北海道の港に近づいていた。
窓の外には、雄大な大地が広がっているのが見えた。
「ココロ、着くぞ! 北海道だ!」
俺が声をかけると、ココロはゆっくりと目を開けた。
そして、カーテンを開けた窓の外を見て、小さく息を呑んだ。
その表情は、まだ不安と警戒心で揺れていたが、その奥に、微かな感動のようなものが宿っているように見えた。
よし、ここからが本番だ。
北の大地で、ココロの心を、もっと開いてやる。
<ユウタのVlog再生画面のコメント欄>
「北海道へフェリー移動!いよいよ旅も本格化だね!」
「船内泊ってどんな感じなんだろ?ユウタくん、さすがチャレンジャー!」
「ココロちゃん、Vlog見てくれてるのかな?少しずつ外に慣れてくれるといいな」
「北海道の海鮮丼、楽しみにしてる!」
<ココロのSNS(X)タイムライン>
※第5話時点では、まだ投稿を再開していないため、コメントは表示されません。
<ココロの心情>
船の中は、揺れた。でも、ユウタお兄ちゃんのVlogを見ていたら、少しだけ、外の世界が、綺麗に見えた。知らない匂い。大きな景色。ここは、どこだろう。北海道。なんだか、少しだけ、怖くないような気がした。
<次回予告>
ユウタ「札幌だぜ! まずは時計台、見に行くか!」
ココロ「……がっかり」
ユウタ「は!? 何がだよ!?」
ココロ「……ネットに、書いてた」
第6話:ガッカリ観光地?札幌時計台と意外な「味噌バターコーンラーメン」!