表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/10

第4話:初めてのサービスエリアと、アツアツ「富士宮やきそば」 (Day 4)

<ココロの日記>

6月8日。昨日のこと、まだ信じられない。

私の写真が、誰かに見られて、すごいことになってる。

今日は、ユウタお兄ちゃんが車を止めた。

外は、人がたくさんいるみたい。

怖い。でも、あの匂い……。

あれは、何だろう。


---


**ココロ視点メイン**


車が、ゆっくりとスピードを落とした。


エンジンの音が、さっきまでと違う。


外から、たくさんの人の声が聞こえてくる。


ガヤガヤ、ザワザワ。


高速道路のサービスエリアに到着したんだ。


わかってる。


わかってるから、私はすぐにカーテンを閉め直した。


隙間なく、光を遮断する。


外には、たくさんの人がいる。


知らない人。


私を、きっと変な目で見る人たち。


嫌だ。


体が、また固まる。


「ココロ、ちょっと休憩しないか? サービスエリアに着いたぞ」


ユウタお兄ちゃんの声が聞こえた。


優しい声。


でも、私には、その声が、外に出ろって言ってるみたいで、怖かった。


「……無理」


か細く、そう答える。


無理だ。


また、人混みの中に、私の場所はない。


そう思ったら、息が苦しくなってきた。


「無理しなくていいぞ。でも、ちょっとだけ外の空気吸ってみないか?」


ユウタお兄ちゃんは、決して無理強いはしない。


それが、この数日間で分かった。


だから、少しだけ、迷った。


あの動画で見た、キラキラした外の世界。


昨日、私の写真がバズった時の、不思議な感覚。


カーテンの隙間から、わずかに外を覗く。


車の窓の外には、確かに、たくさんの車が止まっている。


人の影も見える。


やっぱり、怖い。


すると、車がゆっくりと動き出した。


「大丈夫だって。人通りの少ないとこ行くからさ」


ユウタお兄ちゃんは、私の気持ちを察してくれたみたいだった。


車は、駐車場の一番奥の方へ進んでいく。


少しずつ、人の気配が遠ざかっていくのが分かった。


そして、停車。


「よし、ここなら大丈夫だろ」


そう言って、ユウタお兄ちゃんが運転席のドアを開ける音がした。


風が、ふわりと車内に入ってくる。


そして、それと一緒に、色々な匂いが流れ込んできた。


潮の匂い?


それから、甘いような、香ばしいような匂い。


なんだろう、この匂い。


私が知っている焼きそばの匂いとは、全然違う。


もっと、力強くて、食欲をそそる匂い。


「アツアツのやつ食うか!」


ユウタお兄ちゃんが、楽しそうな声で言った。


見上げると、少し離れた場所に、屋台が並んでいるのが見えた。


湯気が上がっている。


そこから、あの香ばしい匂いが漂ってきているみたいだ。


ソースが焼ける、甘くて、少し焦げたような匂い。


お腹が、小さく鳴った。


人混みは、まだ怖い。


屋台の周りには、人がたくさんいるのが見える。


でも、この匂い。


**なんか、私の知らない、でも、とても美味しそうな匂い。**


ユウタお兄ちゃんは、私の手を引いて、ゆっくりと屋台の方へ歩き始めた。


私は、彼の背中に隠れるように、俯いたまま歩く。


屋台に近づくと、匂いはさらに強くなった。


「おっちゃん、富士宮やきそば、一つ!」


ユウタお兄ちゃんの声が聞こえた。


しばらくして、ユウタお兄ちゃんが戻ってきた。


白い紙の容器から、湯気がもうもうと上がっている。


「ほらよ、熱いから気をつけてな」


そう言って、ユウタお兄ちゃんがやきそばを差し出してきた。


黒っぽい麺に、キャベツと、それから……。


なんだろう、小さな茶色い粒が混ざってる。肉かす?


そして、青のりと紅ショウガ。


富士宮やきそばは初めてだ。


でも、匂いが、もう、たまらない。


言われるがままに、やきそばの容器を受け取る。


指先に、じんわりと熱が伝わってくる。


小さなフォークで、麺を少しだけすくい、口に運んだ。


熱い。


でも、それ以上に、美味しい。


口いっぱいに広がる、香ばしいソースの味。


そして、他の焼きそばとは違う、このモチモチした麺の食感。


噛むと、ぷつん、と弾力がある。


肉かすからは、不思議なコクと香ばしさが広がる。


今まで、こんな美味しいものを食べたことがあっただろうか?


部屋に閉じこもっていた頃は、いつも、おばあちゃんが作ってくれた、決まったものばかりだった。


外で食べる、この非日常感。


それが、この味を、一層特別なものにしている気がした。


「……美味しい」


思わず、そう呟いた。


「だろ? 富士宮やきそば、有名なんだぜ」


ユウタお兄ちゃんが、嬉しそうに笑っているのが見えた。


私は、やきそばを食べながら、ゆっくりと顔を上げた。


遠くには、緑の山並みが見える。


空は、青い。


人がいる。


でも、さっきほど、怖くなかった。


やきそばの美味しさが、私の心を、少しだけ、外に向けてくれたみたいだ。


たった一歩。


軽キャンピングカーの外に出ただけ。


でも、それは、私にとって、とても大きな一歩だった。


---


<ユウタのVlog再生画面のコメント欄>

* 「富士宮やきそば!いいなー!飯テロ!」

* 「ユウタくん、やきそば食ってる時も幸せそうw」

* 「なんか、後ろに女の子の影が…?気のせいかな?」

* 「旅ってやっぱ、ご当地グルメだよね!」


---


<ココロのSNS(X)タイムライン>

※第4話時点では、まだ投稿を再開していないため、コメントは表示されません。


---


<ココロの心情>

外の世界は、まだ怖い。でも、あの匂い、あの味は、私に新しい「好き」を教えてくれた。ユウタお兄ちゃんの、優しい笑顔。もしかしたら、この旅は、私の世界を少しだけ、広げてくれるのかもしれない。


<次回予告>

ユウタ「フェリーか。ココロ、船酔いしないか?」

ココロ「……船?」

ユウタ「ああ。北海道行くんだぜ! 北の大地、半端ねーぞ!」

ココロ「……北海道」


第5話:ひまわり号、北の大地へ!絶品「海鮮丼」の誘惑!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ