第4話:初めてのサービスエリアと、アツアツ「富士宮やきそば」 (Day 4)
<ココロの日記>
6月8日。昨日のこと、まだ信じられない。
私の写真が、誰かに見られて、すごいことになってる。
今日は、ユウタお兄ちゃんが車を止めた。
外は、人がたくさんいるみたい。
怖い。でも、あの匂い……。
あれは、何だろう。
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**ココロ視点メイン**
車が、ゆっくりとスピードを落とした。
エンジンの音が、さっきまでと違う。
外から、たくさんの人の声が聞こえてくる。
ガヤガヤ、ザワザワ。
高速道路のサービスエリアに到着したんだ。
わかってる。
わかってるから、私はすぐにカーテンを閉め直した。
隙間なく、光を遮断する。
外には、たくさんの人がいる。
知らない人。
私を、きっと変な目で見る人たち。
嫌だ。
体が、また固まる。
「ココロ、ちょっと休憩しないか? サービスエリアに着いたぞ」
ユウタお兄ちゃんの声が聞こえた。
優しい声。
でも、私には、その声が、外に出ろって言ってるみたいで、怖かった。
「……無理」
か細く、そう答える。
無理だ。
また、人混みの中に、私の場所はない。
そう思ったら、息が苦しくなってきた。
「無理しなくていいぞ。でも、ちょっとだけ外の空気吸ってみないか?」
ユウタお兄ちゃんは、決して無理強いはしない。
それが、この数日間で分かった。
だから、少しだけ、迷った。
あの動画で見た、キラキラした外の世界。
昨日、私の写真がバズった時の、不思議な感覚。
カーテンの隙間から、わずかに外を覗く。
車の窓の外には、確かに、たくさんの車が止まっている。
人の影も見える。
やっぱり、怖い。
すると、車がゆっくりと動き出した。
「大丈夫だって。人通りの少ないとこ行くからさ」
ユウタお兄ちゃんは、私の気持ちを察してくれたみたいだった。
車は、駐車場の一番奥の方へ進んでいく。
少しずつ、人の気配が遠ざかっていくのが分かった。
そして、停車。
「よし、ここなら大丈夫だろ」
そう言って、ユウタお兄ちゃんが運転席のドアを開ける音がした。
風が、ふわりと車内に入ってくる。
そして、それと一緒に、色々な匂いが流れ込んできた。
潮の匂い?
それから、甘いような、香ばしいような匂い。
なんだろう、この匂い。
私が知っている焼きそばの匂いとは、全然違う。
もっと、力強くて、食欲をそそる匂い。
「アツアツのやつ食うか!」
ユウタお兄ちゃんが、楽しそうな声で言った。
見上げると、少し離れた場所に、屋台が並んでいるのが見えた。
湯気が上がっている。
そこから、あの香ばしい匂いが漂ってきているみたいだ。
ソースが焼ける、甘くて、少し焦げたような匂い。
お腹が、小さく鳴った。
人混みは、まだ怖い。
屋台の周りには、人がたくさんいるのが見える。
でも、この匂い。
**なんか、私の知らない、でも、とても美味しそうな匂い。**
ユウタお兄ちゃんは、私の手を引いて、ゆっくりと屋台の方へ歩き始めた。
私は、彼の背中に隠れるように、俯いたまま歩く。
屋台に近づくと、匂いはさらに強くなった。
「おっちゃん、富士宮やきそば、一つ!」
ユウタお兄ちゃんの声が聞こえた。
しばらくして、ユウタお兄ちゃんが戻ってきた。
白い紙の容器から、湯気がもうもうと上がっている。
「ほらよ、熱いから気をつけてな」
そう言って、ユウタお兄ちゃんがやきそばを差し出してきた。
黒っぽい麺に、キャベツと、それから……。
なんだろう、小さな茶色い粒が混ざってる。肉かす?
そして、青のりと紅ショウガ。
富士宮やきそばは初めてだ。
でも、匂いが、もう、たまらない。
言われるがままに、やきそばの容器を受け取る。
指先に、じんわりと熱が伝わってくる。
小さなフォークで、麺を少しだけすくい、口に運んだ。
熱い。
でも、それ以上に、美味しい。
口いっぱいに広がる、香ばしいソースの味。
そして、他の焼きそばとは違う、このモチモチした麺の食感。
噛むと、ぷつん、と弾力がある。
肉かすからは、不思議なコクと香ばしさが広がる。
今まで、こんな美味しいものを食べたことがあっただろうか?
部屋に閉じこもっていた頃は、いつも、おばあちゃんが作ってくれた、決まったものばかりだった。
外で食べる、この非日常感。
それが、この味を、一層特別なものにしている気がした。
「……美味しい」
思わず、そう呟いた。
「だろ? 富士宮やきそば、有名なんだぜ」
ユウタお兄ちゃんが、嬉しそうに笑っているのが見えた。
私は、やきそばを食べながら、ゆっくりと顔を上げた。
遠くには、緑の山並みが見える。
空は、青い。
人がいる。
でも、さっきほど、怖くなかった。
やきそばの美味しさが、私の心を、少しだけ、外に向けてくれたみたいだ。
たった一歩。
軽キャンピングカーの外に出ただけ。
でも、それは、私にとって、とても大きな一歩だった。
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<ユウタのVlog再生画面のコメント欄>
* 「富士宮やきそば!いいなー!飯テロ!」
* 「ユウタくん、やきそば食ってる時も幸せそうw」
* 「なんか、後ろに女の子の影が…?気のせいかな?」
* 「旅ってやっぱ、ご当地グルメだよね!」
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<ココロのSNS(X)タイムライン>
※第4話時点では、まだ投稿を再開していないため、コメントは表示されません。
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<ココロの心情>
外の世界は、まだ怖い。でも、あの匂い、あの味は、私に新しい「好き」を教えてくれた。ユウタお兄ちゃんの、優しい笑顔。もしかしたら、この旅は、私の世界を少しだけ、広げてくれるのかもしれない。
<次回予告>
ユウタ「フェリーか。ココロ、船酔いしないか?」
ココロ「……船?」
ユウタ「ああ。北海道行くんだぜ! 北の大地、半端ねーぞ!」
ココロ「……北海道」
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