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第34話:炎上騒動と、「名古屋コーチン」のように固まる絆(中編) (Day 109-111)

<ココロの日記>

9月21日 (Day 109)。

また、見えない声が聞こえてくる。

怖くて、ご飯も喉を通らない。

ユウタお兄ちゃんが、ずっと隣にいてくれる。

大丈夫って、言ってくれる。

だけど、心が、また、壊れそうになる。


ココロ視点メイン


軽キャンピングカー『ひまわり号』の簡易ベッドに、私は体を丸めていた。

東京を出て、中部地方へ向かう道中。

車窓から見える景色は、もう、私の目には映らない。

SNSでの、心ない批判の声。

「引きこもりを利用している」「やらせだろ、どうせ」

「あんな露出度の高い服を着せて、ユウタが金儲けしてるだけ」

「ココロちゃんのプライベートを探る」

ユウタお兄ちゃんは、私に見せないようにしていたけど、その言葉は、私の耳に、容赦なく突き刺さってきた。

あの時の、苦しい記憶が、津波のように押し寄せてくる。

体が、震える。

息が、苦しい。

私は、再び、自分の殻に閉じこもっていた。


ユウタお兄ちゃんは、ずっと、私の隣にいてくれた。

簡易ベッドのカーテンを閉め切っていても、彼の気配は、すぐ近くにあった。

「ココロ、大丈夫だから。俺がちゃんと対応するから。お前は、気にしなくていい。」

彼の優しい声が、耳に響く。

だけど、私の心は、なかなか晴れない。

私のせいで、ユウタお兄ちゃんのVlogまで、悪く言われている。

私は、また、一人で、殻に閉じこもるしかないのかな。


そんな時、ユウタお兄ちゃんが、そっと私の頬に触れてきた。

ひんやりとして、でも、優しい感触。

「ココロ、顔色が悪いぞ。ちゃんと飯、食わなきゃ。」

彼の言葉に、私は、小さく首を横に振った。

喉が、キュッと締め付けられて、何も喉を通らない。

ユウタお兄ちゃんが、私の髪を優しく撫でてくれる。

その温かい手の感触に、私は、不安から、彼の服の袖をぎゅっと掴んで離さなかった。

この温かさが、私を、少しだけ、安心させてくれる。


ユウタ視点


ココロは、完全に心を閉ざしてしまった。

俺のVlogのコメント欄は、依然として荒れ放題だ。

心ない批判の声が、ココロを深く傷つけている。

俺の責任だ。

俺が、もっと、彼女を守ってやらなければならなかったのに。

そんな自責の念が、俺の心の中で渦巻いていた。

旅の途中で、ココロが精神的に弱った際に、俺は無意識に彼女の肩を抱いたり、頭を撫でたりした。

ココロがその温かさに安堵し、俺の体に寄り添ってくる。

その華奢な体が、俺には、たまらなく愛おしかった。

この子を、何としてでも守り抜かなければならない。

しかし、同時に、「もう、これ以上は……」と、俺の理性の限界が、すぐそこまで来ているのを感じていた。


サービスエリアの駐車場にひまわり号を停め、俺はスマホを開いた。

批判の声に混じって、温かい応援のコメントも増えていた。

「ココロちゃん、大丈夫?無理しないでね!」

「変なコメントは無視して!ココロちゃんの写真、大好きだから!」

「ユウタくん、ココロちゃんのこと、ちゃんと守ってあげてね!」

そして、驚いたことに、ミキやケンさんとマリさんといった、旅仲間たちからも応援のメッセージが届いていた。

「ユウタくん、ココロちゃんを頼むよ!」「何かあったら、すぐに連絡してくれ!」

彼らの温かい言葉に、俺は胸が熱くなった。

俺は一人じゃない。

ココロも、一人じゃない。


その日の昼食は、名古屋コーチンを使った親子丼にした。

ふんわりとした卵に、濃厚なコーチンの旨みが広がる。

温かくて、優しい味が、俺の心に染み渡っていく。

「ココロ、これ、美味いぞ。少しだけでも食ってみろよ。」

俺は、ココロに親子丼を差し出した。

ココロは、恐る恐る顔を上げ、小さく首を横に振る。

まだ、食欲がないのだろう。

「無理はさせないが、一口だけでもいいから……」

俺がそう言うと、ココロは迷ったように、ゆっくりと箸を伸ばした。

そして、小さなスプーンで、親子丼を一口だけ、口に運ぶ。

その瞬間、ココロの瞳から、ポロポロと涙が溢れ出した。

「……っ、美味しい……っ。」

か細い声が、震えている。

温かくて、優しい味が、彼女の凍てついた心を、少しだけ溶かしたのだろう。

食べ終えた後、彼女は、まるで固まり始めた意志が、名古屋コーチンの親子丼の温かさに重なったかのように、静かに、だけど、強く頷いた。


その日の夜、俺は、批判のコメントに対する反論動画をアップロードした。

Vlogの初期からココロの成長を追ってきたファンからの温かいコメントを多数紹介し、決して「やらせ」ではないこと、ココロの純粋な才能と努力の賜物であることを、俺自身の言葉で伝えた。

動画の最後には、ココロがK-1 IIを構える真剣な横顔の写真を添えた。

翌朝、コメント欄を見ると、ファンからの応援の声が、炎上の火種を鎮火させていくかのように、溢れていた。

「ユウタくんの誠実さに感動!」「ココロちゃん、元気出して!」「二人に花火見せてあげたかったなあ」

SNS上の「逆転劇」が、今、始まっていた。


<ユウタのVlog再生画面のコメント欄>


「ユウタくん、動画ありがとう!これで心ない批判に負けないで!」

「ココロちゃんの写真展、本当に行ったよ!感動したもん!」

「ユウタくんの誠実さに感動!これからも応援します!」

「名古屋コーチン美味しそう!ココロちゃんも元気出してね!」

「二人に花火見せてあげたかったなあ、いつか行こうね!」


<ココロのSNS(X)タイムライン>

**ココロの投稿:**

(※この期間、ココロの投稿はありません)

**コメント:**

「ココロちゃん、大丈夫?無理しないでね!」

「変なコメントは無視して!ココロちゃんの写真、大好きだから!」

「ユウタくん、ココロちゃんのこと、ちゃんと守ってあげてね!」

「ココロちゃん、心配してるよ!元気出して!」

「ココロちゃん、いつかまた、一緒に旅の写真見せてね!」


<ココロの心情>

また、怖い声が聞こえてくる。ユウタお兄ちゃんは、大丈夫って言ってくれるけど、やっぱり、怖い。私のせいで、ユウタお兄ちゃんのVlogまで、悪く言われてる。私は、また、一人で、殻に閉じこもるしかないのかな。

でも、ユウタお兄ちゃんの声だけは、まだ、ちゃんと聞こえる。


<次回予告>

ユウタ:「ココロ、批判の声に、負けるな!」

ココロ:「……でも。」

ユウタ:「俺たちが、間違ってないってこと、証明してやろうぜ!」

ココロ:「……どうやって?」


第35話:炎上騒動と、「名古屋コーチン」のように固まる絆(後編)

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