第3話:爆走!東名高速と、衝撃の「静岡おでん」 (Day 3)
<ココロの日記>
6月7日。今日は、東名高速を走ってるらしい。
ユウタお兄ちゃんの声が、さっきより近い気がする。
なんだか、外が騒がしい。
窓を開けたい、と一瞬思った。
でも、やっぱり怖い。
スマホの画面、見ちゃった。
あれは、どうしよう。
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**ユウタ視点メイン、ココロの心情描写あり**
「くっそー、やっぱ東名高速は混んでるな!」
ハンドルを握りながら、俺は思わず舌打ちした。
今日は3日目。東京を抜けて、静岡方面へ向かっている。
軽キャンパー『ひまわり号』は、順調に……とは言えないが、なんとか東京を脱出したところだ。
昨日、ココロは東京バナナを食って、少しだけ声を出した。
ほんのちょっとの変化だけど、俺にとっては大きな一歩だ。
助手席のノートPCをいじりながら、今日のVlogの構成を考えていた。東京の街を走る軽キャンパーからの景色は、それなりに「映える」だろう。
今日の動画のサムネイル、どうしよっかな。
なんて考えてたら、助手席の背後から、ガタッと音がした。
「おい、ココロ? どうした? 気分悪いのか?」
ミラー越しに後部座席を見ると、ココロがスマホを手に、固まっているのが見えた。どうやら、静岡おでんを食べている最中に、何かが起こったらしい。
フードの奥から覗く顔は、真っ赤だ。
どうしたんだ? 熱でもあるのか?
「なにやってんの? そんなにスマホいじってると酔うぞ?」
俺が声をかけると、ココロはビクッと体を震わせた。
そして、信じられないことに、持っていたスマホを、俺に向かって差し出してきた。
差し出してきた、というより、手のひらから転がり落ちるように、俺の腕にスマホが当たった。
「ひゃっ!?」
慌てて受け取ったスマホを見て、俺は一瞬「あれ?」と思った。
俺のスマホだ。
機種は俺のと同じiPhoneだけど、ケースが違う。
ココロのスマホは、確か白っぽいシンプルなケースだったはず。
これは、俺が普段使ってる、ちょっと派手な赤のケースだ。
なんでココロが俺のスマホ持ってんだ?
なんて考えてる間に、そのスマホの画面を見て、俺は思わず固まった。
俺のSNSアカウント。
そこに、一枚の写真がアップされている。
どこかの景色を写したものだ。
見慣れない構図。
だけど、一瞬で「これはバズる」と直感するような、強烈なインパクトがあった。
青い空と、一面に広がる緑。
その中に、ポツンと立つ一本の木。
シンプルなのに、なぜか心を揺さぶられるような、そんな写真だった。
そして、その写真には、すでに大量の「いいね」とコメントがついていた。
「なにこれ!? 誰が撮ったの!?」
「天才じゃん! こんな写真初めて見た!」
「ユウタくんのVlog、写真のセンスもヤバいとか最強かよ!」
コメント欄は、驚きと興奮で埋め尽くされている。
俺のVlogにはない、圧倒的な「感性」。
こんな写真、俺には撮れない。
「ココロ……これ、お前が撮ったのか!?」
俺が聞くと、ココロはブンブンと首を横に振った。
「ち、違う!その!間違って……!」
顔は真っ赤で、半開きの唇から微かに息が漏れる。
パーカーのフードがずれ落ちて、汗ばんだ額や、華奢な首筋のラインが露わになった。
無防備で、動揺したココロの姿。
先ほどの写真の「生き生きとした表現」とは違う、どこか「可愛くいやらしく」て、見ちゃいけないものを見たような気にさせる。
俺は思わず目を逸らしそうになった。
「間違ってって、どういうことだよ!?」
「……指が、滑って……」
ココロは、蚊の鳴くような声でそう言った。
その言葉を聞いて、俺は再度、スマホの画面に目を落とす。
信じられない。「いいね」の数字が、さらに伸びている。
ココロは、その画面を、呆然と見つめていた。
まるで、時間が止まったみたいに。
その瞳の奥には、驚きと、そして微かな期待のようなものが、混じり合っているように見えた。
まさか、こんなハプニングで、ココロが外の世界に触れるきっかけができるとは。
俺の心臓は、ドクドクと大きく脈打っていた。
これは、チャンスだ。
ココロの秘めたる「写真の感性」。
俺の「旅Vlog編集センス」とは全く異なる、純粋な才能。
これが、この旅の、そして俺のVlogの、新たな武器になるかもしれない。
「すげーよ、ココロ! お前、こんな写真撮れたのか!?」
俺は興奮して、ココロにスマホを返した。
ココロは、スマホを受け取ると、戸惑ったように画面を見つめている。
その目は、まだ不安と警戒心で揺れていたが、その奥に、ほんの少しだけ、外の世界への興味が芽生え始めているのが分かった。
「……これ、私……?」
まるで、自分の撮った写真だということを信じられない、といった様子だった。
「ああ、そうだ。お前が撮ったんだ。すげーよ。マジで」
ココロの顔は、真っ赤なままだ。
だが、その瞳の奥には、確かに「光」が宿っていた。
こんなハプニングから、ココロの小さな世界が、少しずつ動き出すなんて。
俺は、アクセルを踏み込んだ。
東名高速を爆走するひまわり号。
窓の外を流れる景色は、カーテンの向こうに隠れたままだが、ココロの心の中では、何かが変わり始めている。
今日の晩飯は、静岡おでんだ。ココロは、どんな反応をするだろうか。
少しだけ、楽しみになってきた。
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<ユウタのVlog再生画面のコメント欄>
* 「え、この写真ヤバすぎない!?天才か!?」
* 「え、これユウタくんが撮ったの!?Vlogも写真も神すぎ!」
* 「この独特な空気感、なんか惹かれる……誰が撮ったんだろ?」
* 「まさかユウタくんの彼女!?気になる!」
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<ココロのSNS(X)タイムライン>
※第3話時点では、まだ投稿を再開していないため、コメントは表示されません。
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<ココロの心情>
私の写真が、誰かの目に触れて、こんなにもたくさんの「いいね」をもらうなんて。混乱と戸惑いで、心臓がドキドキする。外の世界は、もしかしたら、私が思っていたよりも、優しいのかもしれない。
<次回予告>
ユウタ「ココロ、初めてのサービスエリアだぜ! 記念に何か食うか?」
ココロ「……人、多い」
ユウタ「大丈夫だって! 人通りの少ないとこ行くからさ。ほら、アツアツのやつ食うか!」
ココロ「……アツアツ?」
第4話:初めてのサービスエリアと、アツアツ「富士宮やきそば」!