第24話:引きこもりの過去と、向き合う勇気!「わんこそば」の先にある希望!(前編) (Day 76-78)
<ココロの日記>
8月19日 (Day 76)。
東北の旅は、まだ続いている。
ユウタお兄ちゃんが、変なことを言い出した。
行きたくない場所。
もし、乗り越えたいなら、って。
わんこそば。あの場所。
ココロ視点メイン
軽キャンピングカー『ひまわり号』は、旅仲間たちとの別れを惜しみながら、東北地方のさらに奥へと進んでいた。
別れは、少しだけ寂しかったけど、たくさんの温かい「繋がり」を教えてもらった。
私の心は、あの旅の始まりの頃とは比べ物にならないくらい、強くなっている。
そう思っていた。
だけど。
「ココロ、なんか、旅の途中で行きたくない場所とかあるか?」
運転席のユウタお兄ちゃんが、突然、そう聞いてきた。
「……え?」
私は、思わず息を呑んだ。
行きたくない場所。
私の頭の中に、一つの場所が、瞬時に浮かんだ。
それは、私が部屋に閉じこもるきっかけになった場所。
この東北地方にある、**私が通っていた中学校**の近くの、公園だ。
そこは、私にとって、もう二度と足を踏み入れたくない、悪夢のような場所だった。
「もしあったら、無理にとは言わないけど、もし、乗り越えたいなら……」
ユウタお兄ちゃんは、ミラー越しに、私の顔をじっと見つめている。
彼の優しい眼差しに、私の心臓が、トクンと大きく鳴った。
この人は、私の全てを、見透かしているみたいだ。
私は、これまで、自分の引きこもりになった理由を、ユウタお兄ちゃんに話したことはなかった。
話したくなかった。
もう、思い出したくなかった。
それは、私にとって、あまりにも辛い、過去の記憶だったから。
SNSでの過剰な共感疲労。
私が撮った写真に、たくさんの「いいね」がつくのが怖くなった。
「ココロちゃんの写真、いつも感動してる!」
「わかる!わかる!」
そんな言葉の一つ一つが、私には重く感じられた。
期待に応えなきゃ。
もっと、もっと、たくさんの「いいね」をもらわなきゃ。
そんなプレッシャーに、私は押し潰されていった。
そして、中学校での人間関係のトラブル。
私の繊細すぎる感性は、些細な言葉一つで、深く傷ついた。
友達だと思っていた子たちの、心ない噂話。
「ココロって、なんか暗いよね」
「いつも、一人でいるし」
そんな言葉が、私の心を、容赦なく抉った。
誰も信じられない。
世界は、私にとって、もう、針のむしろだった。
その公園は、私が、いじめのターゲットになった場所だった。
楽しそうに笑い合うクラスメイトたちの輪の中に、私は入れなかった。
誰も、私を助けてくれなかった。
私にとって、そこは、絶望の場所だった。
だから、もう二度と、外に出たくなかった。
部屋のカーテンを閉め切って、自分の世界に閉じこもった。
それが、私にとって、唯一の「安全」だった。
「ココロ、行きたくないなら、行かなくていいんだぞ。」
ユウタお兄ちゃんが、再び優しい声で言った。
その言葉に、私は、少しだけ、迷った。
このまま、過去から逃げ続けるのか。
それとも、この旅で得た「強さ」を信じて、過去と向き合うのか。
私の心の中で、二つの感情が、激しくぶつかり合っていた。
「……わんこそば。」
私が、小さく、そう呟いた。
直接的に場所の名前を言うのは、まだ怖かった。
でも、わんこそばは、あの場所の近くにある、有名な食べ物だ。
ユウタお兄ちゃんなら、きっと、私が何を言いたいのか、分かってくれる。
ユウタお兄ちゃんが、ミラー越しに、私を見て、ゆっくりと頷いた。
「そうか。わんこそば、な。よし、分かった。」
彼の表情は、真剣だった。
私の言葉の裏に隠された、私の辛い過去を、彼は、きっと、理解してくれた。
そして、それを、無理強いせずに、受け止めてくれた。
その優しさに、私の心は、温かい涙で満たされた。
「……ありがとう。」
私は、涙を流しながら、ユウタお兄ちゃんの胸に、顔を埋めた。
彼の温かい体温が、私を包み込む。
その瞬間、彼の髪をそっと撫でた。
彼の柔らかい髪の感触と、彼から香る太陽の匂いが、私に、安堵と安心を与えてくれた。
沈黙が、私たちを包み込む。
言葉はなくても、互いの心が、深く繋がっているのを感じた。
この人となら、どんな困難も、乗り越えられる。
そう、強く思えた。
<ユウタのVlog再生画面のコメント欄>
「ココロちゃんの過去、なんか重そうだね…」
「ユウタくん、ココロちゃんのことちゃんと支えてあげて!」
「わんこそば、食いに行きたい!」
「二人の絆、まじで尊い。泣ける…」
<ココロのSNS(X)タイムライン>
※第24話時点では、まだ投稿を再開していないため、コメントは表示されません。
<ココロの心情>
過去の場所は、まだ怖い。でも、ユウタお兄ちゃんが、私の隣にいてくれるから、大丈夫。彼に、私の辛い過去を打ち明ける勇気をもらった。わんこそば。この場所で、私は、昔の自分と、お別れできるのかな。
<次回予告>
ユウタ:「ココロ、過去と向き合うのは、辛いことだよな。」
ココロ:「……うん。」
ユウタ:「でも、俺がついてるから、大丈夫だ。わんこそば、挑戦してみるか?」
ココロ:「……頑張る。」
第25話:引きこもりの過去と、向き合う勇気!「わんこそば」の先にある希望!(中編)




