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出撃前夜

今夜のイービルは怪獣型だった。恐竜みたいに手足が短く口がやたらと大きく迫力があった。亜紀と美麗の二人は交互に、時には呼吸を合わせ同時に攻撃していた。

「動きがやたらと格好いいな」美麗は最初から格好良かったが亜紀は最初杖を鈍器代わりに使っててお世辞にも優雅には見えなかった。これはきっと美麗の発案だなと気が付いた。

「ライトニングアタック!」美麗の必殺技で追い詰めたところで亜紀はバレリーナみたいな動きをして

「フラワーハレーション!」と叫んだ。まるで夜に咲く闇の花が彼女を包み込み杖1点に集中してから怪獣に向かって放たれた。その花は怪獣を包み込みそして消し去った。


「お疲れ様。亜紀、美麗。とても素晴らしい攻撃で感動したよ」素直に彼女たちを称賛した。最近よく勉強をさぼり謎ルームに向かっていたのはこれのことだったんだな。アイドル事務所のレッスンで見掛けるような大きな姿見があったのでおおよその見当は付いていたが。動きや技が決まることによって攻撃力が飛躍的に上がっていた。アニメとかのヒロインが大袈裟なポーズをした後攻撃するアレって有効だったんだな。


「社長、彼女たちアイドルとして売り出しませんか。可憐で正ヒロイン的な亜紀とやんちゃだけど小悪魔的魅力がある美麗だったら成功しますよ。私がマネージャーやるので。実際にここ3日も勉強教えてないし他に出来そうなこともありませんから」新しく事務の女性を雇い会社としての実態が整ってきたのでオーナーと呼んでいたのを社長という普通の会社風に切り替えたのだった。

「元山君、うちの仕事はイービルから世界を救う魔法使いをサポートすることであって決して芸能事務所じゃないのだよ。残念ながら」社長は申し訳なさそうに言った。

「二人には授業に出るようちゃんと言っておくから。それと週一で芸能事務所のレッスンにも参加させることになったから安心して欲しい」芸能界と接点あるんじゃないかこの社長。

「アイドルうんぬんは置いといても彼女たちは魅力的です。どうにか社会に発信できないですかね。この魔法少女活動を。いやもうぶっちゃけ世間にありのままを見せてもいいんじゃないですかね。隠ぺいする理由もあまりなさそうなので。その場合亜紀にはペチコート履いてもらいますよ」


二人の勉強を見て私は早々に退社した。二人の魔法少女が成長して嬉しい反面自分が居ても居なくてもいいような気がしてたからだ。社員募集だって社長が自分の孫のために結婚相手を探すためのオーディションだったように思えてきた。だったらもっと安定した企業に入った方が良いし今ならまだ間に合う気がしたからだ。

「いかんな。完全に情緒がやられている。心療内科に通う必要あるかもだ」銀座線に揺られていたら手をぐいと引っ張られた一瞬誰だと思ったが亜紀だった。

「ごめんなさい。付いてきちゃいました。最近様子が変で気になったから…」そういえばLINEの返事もわりとそっけなかったりしてたかも知れない。完全に彼氏失格だ。

「行きつけとまでは利用してないが知ってる寿司屋に連れて行ってあげたいんだけどどうだろう」亜紀は嬉しそうに頷いた。

「秀樹さんお久しぶりです。いらっしゃいませ」私も丁寧に挨拶を返した。

学生時代もよく通っていたお店だ。なんでかっていうと単純に親父にツケておけばただで食えるからだ。そちらの女性はと聞かれたので今カノとはっきり答えた。亜紀を安心させたい気持ちが強かった。「スズキを俺と彼女にお願いします」ここに来るとどうも一人称が学生時代に戻ってしまう。

「失礼なこと承知で伺いますけど彼女さんおいくつですか」普段親父以外の個人的なことは言及しないここの店主にしては珍しいことだった。14才で中学二年生だけど彼女の祖父公認ですと回答した。聞いても驚くでもなく優しく頷いてくれた。

「亜紀ごめんな心配掛けて。はっきり言って最近スランプだった。自分にはなにも出来ることないってちょっと自虐気味だったよ」率直に彼女に言った。

「秀樹さんは優秀ですからわたしたちみたいな子供が頑張るところを見て複雑な気持ちだったんじゃないかな。でも美麗ちゃんとわたしは秀樹さんに喜んで欲しいと思って頑張ってたんですよ」亜紀と美麗二人に好かれてると感じほっとしてる自分がいた。きっと美麗には嫌いになってもらうくらいじゃないと亜紀のためにならないと分かってるけど見捨てられてなかったと感じて安堵する自分が居た。

「二人の時美麗とはどんな話してるんだ」好奇心で質問してみた。

「普通ですよ。好きな芸能人とか学校の話しとか好きな人の話しとかで。ちなみに好きな人は同じでした」亜紀は正直に言ってくれたが知っていた。美麗は簡単に諦めるタイプじゃないから。

「いいんですよもう美麗ちゃんが秀樹さんのこと好きでいても。秀樹さんに愛されてると実感してますから。もし美麗ちゃんに秀樹さんを盗られてしまってもわたしが馬鹿だから愛想つかされちゃったのかなって納得できるし」亜紀は明らかに矛盾したことを言ってる。わたしに愛されてる実感あるのに美麗に盗られても仕方がないなんて。わたしは会計を済ませて。タクシーで勝鬨の家に美麗を連れ帰ることにした。


「ここでは一週間ぶりかな。亜紀たちはほんとうに頑張ってたからゆっくりしていっていいよ」飲み物とお菓子を用意しながら私は亜紀に言った。ジュースや紅茶を切らせていたので珈琲でいいかと尋ねたら彼女は頷いた。

用意が出来リビングのソファーに持って行くと彼女は変身していた。私を喜ばせようとしてるのは明らかだったので何も言わなかったが彼女を追い詰めてしまったことに胸が痛んだ。

「似合ってるしかわいいよ」そう言いながら亜紀にキスをした。これも一週間ぶりだった。

部屋はいくつかあり寝室、勉強書斎室、音楽室、空き部屋に分かれていた。亜紀を音楽室と呼んでるオーディオルームに案内し私が好きな音楽を聞かせた。Nirvana、Green Dayとか。彼女はほぼ知らないだろうが自分のことをもっと知ってもらいたい気持ちだった。いや全部知らせることはきっと良くないことは分かっている。人間なんてたぶん醜いから。例えば亜紀じゃなくて美麗が社長の孫だったら彼女を選んでいた可能性も十分あったことを知っていた。嫌なものは見たくないじゃダメだ。自分の腐った部分に向き合って発狂した方がまだましだ。愚かだから誠実であろうと努力したりもすることもありえるしそれが人間だと思う。隣に座ってる亜紀が何を考えているのかは本人じゃないから分からない。変身したままでいるのは私を喜ばせるため。戦闘に同行した時や撮影した時の態度で私のリビドーを感じていたに違いない。

「亜紀愛してる」私はソファの上に彼女を寝かしつけ両手を押さえつけながらキスをした。この言葉も嘘かもな。私は亜紀の身体に興奮していただけで愛してはいないかもしれないんだ。どこまでも邪悪な考えが浮かんでくる。一度風俗に行ってすっきりした方がいいかも知れない。なんてことを考えていたら亜紀が引っ張るように私を抱きしめた。よしよしと私の頭を撫でながら。

「いいよ」と言う彼女は覚悟が決まっていたようだ。私は地獄から這い出て今度は彼女の頭を撫でた。

「今は気持ちだけでいいんだ。もちろん本心じゃない。欲しいよ亜紀が」正直に気持ちを伝えた。

「魔法少女として頑張る君を応援したい。今私に必要なのはそれだけなんだ。不安に見えても甘やかさないで欲しい。どうしようもなくなったら君に抱き着くから、それがサインだ」時計の針が午前2時を回っていたのでシャワーは明日にして寝ることにした。一緒のベッドで寝ることだけは継続させた。


翌日実は出張だった。私は亜紀を連れて東京駅まで向かった。そこで美麗と落ち合うことになっている。出張先は名古屋なのだがイービルが数日暴れているらしかった。イービルは夜も明るい都市に顕現する。夜都心の灯りを眺める私に似ているのかもしれない。孤独と暗闇が怖いんだ。

「おて手繋いで出勤とはまいったな。こっちは他所でみっともねえこと出来ないって昨日から気合が入ってるって言うのによ」美麗の罵声が心地よかった。もっと蔑んでくれよ。

「じゃあ聞くがなんでお前はまだ俺が好きなんだ?みっともない姿はこの一週間で散々見たろ」美麗は亜紀をちらっと見つめたが、私には何も答えないでグリーン車の指定席を探し始めた。


名古屋に着くとなんというか小さい街だなと感じた。私のマンションからは新宿高層ビルも見えるしともかく東京が広大だからだと思う。まずうちの会社の名古屋支部に向かった。同時期に作られた会社だった。多少距離があるのでタクシー乗り場に行き名古屋城方面に向かった。亜紀と美麗は本当に仲良くなったようで新幹線車中から笑いながら話をしていた。

「風情ある場所ですね。名古屋城が目の前に見えるなんて」おみやげの人形焼きを渡しながら現地の責任者と話をした。亜紀と美麗のこれまでの実績を伝えると驚いて凄いですねとお褒めいただいた。

「そういえばこちらにも魔法少女は居るのでしょう?今夜は出ないんですか」と尋ねるとこちらの子はまだ実戦に出したことがないと言う。危険だからと。うちの社長あんな飄々としていながら相当スパルタだったんだな。思い返せば彼女たちの時給が9000円と異常に高いのはそのためだったのかと納得した。

夜になるまでガイドブックを見ながら観光していた。するとあり得ない数値を観測しイービルが午後2時だというのに街中に堂々と出現した。











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