イノセント
一晩明けて皆が謝りに来たけど私は頷くだけで返事はしなかった。喋ったことと言えば何度も引っ越しさせるのは悪いのでここは使っていい。私はどこかに家借りるからと事務的に伝えただけだった。
学校に送る途中由紀子に謝罪された。軽はずみな発言で大変な事態を引き起こしてしまったことに。
「由紀子のせいじゃないよ。ただ寒いから一緒に寝ただけでなんにも悪くない」と言い続けた。
「私の突然の怒りは亜紀、美麗、紫のため我慢してソファで寝るって決めたのに途中から一緒に寝ただけでみんな一斉に非難してきたことかな。あれで全部醒めちゃった」
由紀子を学校まで送ってから会社に行って退職願いを出した。
「これは痛いなあ。考え直すことは出来ないのかね元山君」社長が渋い顔でそう言った。
「もう三人の顔見たくないんですよ。勉強も教えたくたくないし戦闘で指揮も取りたくなくなりました」
「一人欠けてるが染谷さんはいいんだね。彼女三人は顔を見るのも嫌だと」私は頷いた。社長はしばらく考えてから由紀子の面倒だけ見てやって欲しい。他の三人の担当を外しますと伝えて来た。
「話してくれないからわかりませんが亜紀が悪いのでしょうきっと。あなたが辞めることは全然ないですよ」社長が言い切った。彼の引き留めはまだ続いたのでしぶしぶ私は会社に残ることにした。
皆とは謎に切り離された部屋で私は由紀子を待っていた。進学校なのでもう既に高等部用の教材も揃えていた。最初のどこまでも続く螺旋階段といいここはびっくり仕掛けが多い。社長は魔女ではないが魔王なんじゃないかとかどうでもいいこと考えながらコーヒーを飲んでいた。由紀子が謎エレベータで降りて来たので授業を始めた。問題を解かせている間も宿題を作ったりと暇ではない。それを見た由紀子がお茶淹れて来ますねといい給湯室に向かった。
「ありがとう。これも私の仕事なんだけどね」苦笑しながら由紀子に言った。
今夜の出撃は二部隊に分かれた。池袋で亜紀たち三人、指揮は社長が執る。私と由紀子は五反田で迎え撃つ。今まで援護役に回っていた由紀子にとって自分で敵を殲滅しなきゃならない事態は初めてのはずだ。
ライフルを高々と両腕で持ち上げてから敵を狙うようなポーズ、両手を後ろに回し走り出すと全裸になり光が彼女を包んだ。両手両足を開くと白いくのいちに変身する。結界を張り彼女が出撃すると出来るだけ敵と距離を取るよう指示した。彼女のアサルトライフル攻撃は一番射程が長く敵の攻撃が届かないところから撃って行ける。単騎の敵ならこれだけで殲滅できるはずだが弾幕を張り距離を詰めるよう指示した。やはり火力の大きな戦車砲も使いたい。『バトルミサイル!!』由紀子が射程を詰めて放った一撃で勝負は付いた。敵は爆散した。
作戦成功の報告をするとこっちも問題なく三体を斃したと社長から聞いた。三人が辞めずきちんと仕事をしてることを聞き安堵した。秋葉原にある彼女の家に到着した。明日もよろしくと言って車に戻ろうとした時不意打ちでキスをされた。びっくりしたがこれをただの彼女の気の迷いということにしてまた車に戻ろうとすると右手を掴まれ全力で引き留められた。また家に泊まってくださいと。ホテル取ってあるしダメと言っても離してくれない。仕方なくまた泊まることにした。
紫は亜紀と美麗に由紀子先輩が元山先生を泊めることに成功したことを伝えた。由紀子は紫に頼まれていたのだった。キスのことは伏せて。
「もう先輩に一時先生を預けますよ。いいですね」亜紀と美麗は頷いた。
「由紀子先輩は共学校に居たら学園のアイドルに成れる程の容姿です。今心を閉ざしてしまってる先生でも大きく膨らまざるを得ないはずです」紫は自らの見解を述べた。
「それよりも由紀子ちゃんって秀樹さんのこと好きですよね」亜紀が冷静にそう言うと
「まじか。俺ら魔法少女全員あいつに惚れてたんだな」とため息を付きながら美麗は言った。
「わたしたちの言葉は当分届かないでしょうから由紀子先輩に全てを掛けますよいいですね。彼女への指示はわたしが出します」頼もしい策士紫を二人は頼もしく感じていた。
ビールを用意してくれてたので飲むことにした。どうやら初めから泊まらせるつもりだったようだ。
「由紀子、あんなこと気軽にやっちゃダメだ。その後泊まらせるなんて貞操の危機だぞ」諭すように私は言った。一番精神的に幼い彼女の身を真剣に案じていた。
「本気だとは信じてくれないんですね。紫はとっくに知ってましたよ」っつ、私は何故かずきっとした。
「そういうわけで好きな人を泊めただけですから気にしないでくださいね」由紀子は笑顔で言った。
風呂から上がると由紀子はパジャマに着替えた。また見える場所で。薄いグリーンの上下だった。背は普通だがこの子の身体のラインは魅惑的だった。スリーサイズ予測をしていたら下半身がとんでもないことになって居たので先に布団に入って隠した。
「紫や亜紀ちゃん美麗ちゃんともえっちなことしてたんですよね。パジャマ脱いだ方がいいですね」さっき着たばかりのパジャマを脱いでしまった。ここで手をだしたら美麗が言うように本当に見境ない男になるので寝ることに集中しようとしたが昨夜と今夜の下着姿が頭から離れない。それが真後ろにあると想像しただけで余計に目が冴えて来る。
頑張って耐え抜いたら由紀子は寝てしまったのでそっと布団を出つつ外に出た。煙草をふかしながら空を見上げたが星は見えそうにない。秋葉は大都会だ。オタクの街だからここに出現するイービルは強そうだ。由紀子と戦ってるところを想像した。部屋に戻ろうとするとドアが開いた。下着にパジャマの上を掛けた由紀子が居た。っつ、慌ててドアを閉めパジャマを深く掛けさせ布団に寝かせし上布団も掛けた。
「由紀子無防備過ぎだぞ。誰かに見られたらどうするんだ」見せてるのはあなただけだから平気ですよと由紀子は思ったが心配されて嬉しかった。
それぞれのチームが成果を出し週末を迎えた。由紀子と一緒に暮らし始めて初めての週末で休みだ。
「夏だったら由紀子の水着姿見たかったけどもう秋だから紅葉が見ごろだね。一緒に行かないか」由紀子に尋ねると嬉しそうに行きますという返事が来た。まだ亜紀、美麗、紫と別れて一週間経ってないのに翌週には別の子と旅行に行こうとしている。自分の外道っぷりに吐き気がしたがいろいろどうでもよくなってる自分が居た。由紀子には告白されたが返事はしてない。そもそもあの三人と違い幼い彼女は恋人対象としてはなかなか見れなかった。キスは不意打ち以外してない。着替えの時はドアを閉めるように言ったのでもう下着姿ももう見ていない。一緒に寝てるがパジャマはきちんと着てもらった。
谷川岳はこの辺りでは一番スキーを早く楽しめる場所で10月でももうけっこう寒い。防寒対策して簡単なコースを登ることにした。靴はサイズを測って予め購入していた。天神尾根から山頂を目指す。初心者や体力の無いものには大変なので具合が悪かったらすぐ下山すると伝えた。華奢な由紀子が躓きそうになると支えてあげる。疲れたら手を引いてあげた。傍から見たら恋人同士に見えるだろうかと思った。
山頂に付き壮観な景色を眺めると来た道を引き返した。
宿は水上温泉郷に取った。疲れが見える彼女に温泉に入るよう勧めた。部屋専用の露天風呂なので落ち着いて疲れを癒せるはずだ。私も夕食を終えてから入った。都会と違い星が綺麗で冬の星座も昇って来ていてプレアデス星団もすぐに分かった。脱衣場に戻ろうとするとバスタオル一枚の由紀子が居た。
「紫たちとはお風呂一緒に入ってたんですよね。それ以上のことも。だからわたしも一緒にって」恥ずかしさで身体を捩る姿がかわいかった。今すぐバスタオルを取り去り抱きしめたかったが珍しく理性が勝り踏みとどまった。見境ねえのかという美麗の言葉が頭をよぎった。
携帯ゲームとかはしないのでトランプをした。ブラックジャックとか普通にできたので今度彼女の家でもやりたいと思った。
「知ってはいたけどお布団ひとつだね」枕が二つ並べて置いてあった。ここ数日毎日そうだったわけだけど遠出してこういうシチュエーションを用意されると余計に意識する。
「由紀子まだ起きてる」と聞くと背中を引っ掻いて返事をしてきた。
「もし君と付き合うことになったら君の裸も見たい。今はそれ以上に大切にしたい気持ちでいっぱいなので何もできなくてごめん」
勝鬨のマンションではまた元山奪還作戦会議が開かれていた。
「由紀子先輩によると元山先生は彼女の誘惑を全部跳ねつけたそうです。裸バスタオルで温泉に入ろうとしても阻止され服を着せられた模様」
「逆レイプしようとしたり本当は全部紫のせいなんじゃねえか」美麗の言葉を無視して紫が続けた。
「そして本当に付き合うようになったら裸を見たいと言ってきたそうです」
「秀樹さんにしては理性的すぎる行動かも。変ですね」亜紀は断言した。
「今の元山先生は女性不審に陥ってますね。一番純真な由紀子先輩にしか心を開けないような」紫はそう分析し早々の行動には打って出れないので引き続き由紀子先輩へのプラトニックな恋を応援しましょうと。
一週間ぶりの戦闘で由紀子が三人に合流することになったが私は同行しなかった。亜紀、美麗、紫が今元気でいるかは確かめたかったが会いたくはなかったからだ。




