突然の終わり
今日は皆のお許しをいただき由紀子の家に来ています。明日の豊洲決戦で使用したい対戦車魔法砲の完成に向けて。よく考えたら会社の練習部屋使うのが一番良かったのだがもう既にかなり習得していたので使用場面のシミュレーションを行うことにした。その前にお茶が出て来たのでまず雑談から。
「この部屋に引っ越してまだあまり時間経ってないけど独り暮らしは慣れた?」無難な話題をまずチョイス。「そうですね。ただ食事の用意とか今まで親に頼っていたものを自分でやるのは大変です」由紀子も普通に答えてくれた。私の場合大学進学と同時に独り暮らししたがコンビニ飯で掃除もあまりしないいい加減さだったので大変さは無かった。女性の場合は家事をしっかりするので大変だろう。
「あと最初は一人で寝るのも慣れなかったですね。寂しくて灯り付けて寝てました」ふむふむと頷きながらこれまで彼氏とかって居たのか聞いてみた。
「いなかったですね。もともと臆病なのでそういうの苦手というか」
「生徒会長だったのに?」普通に疑問に思ったので聞いてみた。すると生徒会長になったのは生徒会の中で立候補者が居なくて先代会長の推薦でなったのだと。
前振りが終わったので明日の戦闘シミュレーションについての話題へと移った。四人の立ち位置と敵の位置を紙に書いて亜紀、美麗たちの動き方と敵の分断方法、紫の位置と由紀子の距離感について。最初は砲を使わずスナイプで敵を追いやり紫の最大魔力を引き出してやること、追い詰めたら由紀子も自立型魔法砲を使い仕留めるイメージをしてもらった。
もう午前一時半を過ぎていた。寝不足で上手く動けないというのもダメなので休むことにした。
「すいません。お客様来ること想定してなかったので私のベッドで寝てください。わたしはソファで休みますから」と由紀子が言うのですぐさまそれ逆。私がソファそれでいいね。というと由紀子は渋々了承した。寒さでなかなか寝付けなかったが由紀子と同衾するわけにはいかないの耐えた。くしゃみをしてるのを由紀子が聞きつけやっぱり代わりますと言うので私はここで大丈夫と言った。由紀子は思案した上
「一緒に寝てください。ベッドわりと広いので大丈夫ですよ」と言った。
「あのね、私は三又男です。同衾しただけで何が起こるかわからないのでやめておきなさい」と諭した。
「その件ですが美麗さんの時も紫の時も亜紀さんが決めたらしいじゃないですか。元山先生がなんでそんなに自分を卑下なさるのかちょっとわかりません」事情はいろいろあるのと言ってそのままソファで寝ようとしたら毛布を剝がされた。
「わたしには元山先生が悪い人には見えないのでこっち来てください。わたしが決めたのですから過ち起こっても自分で責任取りますから」と言われまさかの由紀子と同衾することになった。
朝起きるともう七時で学校に遅刻しそうだったので朝食はコンビニで買ってすぐに出ることにした。由紀子が制服に着替えているのが見えた。下着が丸見えだったのですぐに後ろを向いた。ちなみにピンクだった。無防備過ぎるでしょう四人の中では一番年上なのに。
「見ましたよ今の」っつ、紫が玄関に立って居た。そうかここに来て学校まで送ってもらおうというんだな。いろいろあることないこと話すと言うのでなんでも言うこと聞くから許してくださいと言うので次のカラークイズに正解したら許してくれるそうだ。
「下着の色は」
「ピンク」正解なのでなんでもしてくれるを条件で他の二人には話さないということになった。
勝鬨に戻ったらもう九時を回っていた。敵を攻めるのが午後九時半に豊洲なので直行直帰になる。午後二時から学習指導に入るので午後十一時までバイト時間にすると9000円✕9時間で72,000円になる。この数字が大きいかどうかの判断を私はしない。ただTVの小窓に映るだけでこれよりずっと稼いでる人間もいるからだ。収入はその人間の実力の証しだとはとても思えない。結局のところは運だ。T大出ても転職を繰り返せば大企業への転職は難しくなる。自分で言ったことだがそもそも人間の実力っていう言葉が既に嘘くさい。私たちは襲来する敵を打ち倒す能力に長けているが人間力がどうかは分からない。誰にも分からないと思う。
「美麗は進路どうする」前から聞いてみたかったことを聞いた。不登校だが自分で勉強していたので平均より偏差値は高い。ここで体系的に勉強始めてさらに伸びてるので紫レベルは無理としても由紀子には追い付くくらいには学力を伸ばしている。そもそもなんで不登校なのかも聞いてみよう。
「周りと合わなかったつうか、自分が周りに合わせなかったら自然と孤立して行かなくなった」美麗をADHD認定しておいた。
「たぶん中学卒業くらいは社長がなんとか出来るだろうから高校行きたいか考えてみてくれ。行かないなら高卒認定試験受けて大学には行ける。中高と比べて圧倒的に自由なんで行くのも悪くないぞ」美麗は嬉しそうに頷いた。
夜九時、もう既に敵を確認できている。見逃していなければ六体だ。組み合わせは前と同じで亜紀&美麗、紫&由紀子だ。結界は今回は美麗が張る。まだ時間があるので車の中であれこれ考えた。何故こんか怪異が現れてそれを我々が退治するのか。行き場を失った男性のリビドーと言うことだが退治したらどう変わるのか。社長は意図的にこのことを話さない。運営資金はどこから出るのか。一体斃したら数百万とかあるのだろうか。その場合誰が資金を出してるのか。考えてたら出撃時刻が迫っていた。
亜紀が身体を大きく反りステッキを振ると白い光に包まれ紫の魔女帽子、薄いノースリーブの白いシャツ、青のタイトスカート紫のハイソックスと青い靴を履き右足を軽く上げステッキを前に向ける。亜紀の変身バンクだ。皆も変身を終えていた。今回は先ず私がソニックとミリオンスターで敵を半々に分ける。
『ソニック!』敵のど真ん中に行くのは緊張するが由紀子が既にスナイプというかマシンガンで弾幕を作っていた。『カッターオブミリオンスター!』百万のカッターに切り裂かれ逃げ惑うイービル。素早く私は撤退。皆出撃だ!
紫が敵と距離を測りながら自分の立ち位置を決める間、由紀子がアサルトライフル弾をイービルに打ち込んで援護する。紫が攻撃態勢を整えると由紀子も敵との距離を詰め100mくらいになると対戦車砲を打ち込む。もちろん全て魔力で。紫と美麗の弱点は持久力だ。その点亜紀と由紀子はかなりの持久力がある。
『斬鬼滅殺!』紫がかなり近距離で打てたので一撃で一体斃した。他の二体は重ならないよう気を付けながら移動していた。どうやら紫の一撃力に警戒してる様子で距離を取り始めた。紫が警戒されて近づけないならと由紀子は敵にアタックをする。『バトルミサイル!!』自走式で放たれた魔力砲が胴体を突き抜けイービルは唸り声をあげ消滅した。その間に三体目の接近に成功した紫が叫ぶ『W斬鬼滅殺!!』至近距離から放たれた一撃は敵を三つに切り刻み唸り声すら上げさせず霧となった。
ライトニングアタックマックスパワー!!』二体潰すつもりが一体には逃げられた。結界からウェディングアイルのコンビネーションで亜紀も一体斃すが一体は逃走している。三体倒した紫、由紀子コンビが援護に来てそれに襲い掛かる。『斬鬼滅殺セグメンテーション!!』『バトミサイル!!』身体を切り刻まれた上に胴体に穴を開けられた最後のイービルが爆発霧散した。
皆お疲れ様。特に四体倒した由紀子、紫コンビは特に頑張ったありがとう。戦闘時間も10分と優秀だった。うちここから近いしお風呂入っていきなよ由紀子も。下心もなにもない労いなので誰もからかわなかった。
「四人入れちゃうなんて凄いお風呂ですね」由紀子が感嘆した。
「元山先生は愛人のためにはすごくがんばるんですよ」
「紫は先生を手錠にかけたりいじめ過ぎだと思うんだけど好きじゃないの」ストレートな言葉が紫に刺さった。紫はごめんなさいと謝った。
「男の人ってあったかいのね。一緒に寝て分かったわ」由紀子は天然と言うより幼かった。
場に緊張が走った。
彼女たちがお風呂から上がると尋問が待っていた。
「いくらなんでも初めてお泊りで同衾はないと思いますよ秀樹さん」
「お前ほんと見境ねえのかよ」
「ハーレム完成までもう少しですね先生!」
何も答える気はなかった。明らかに私は悪くない。仕事のための打ち合わせだったし、同衾も彼女から誘ってきたものでお陰で風邪を引かずに済んだ。
何も言わず私は自室に入ってベッドで寝た。
「なんなんです今のやり取り。ソファじゃ風邪を引いてしまいそうに感じたのでわたしがお布団で寝るよう誘ったんですよ。最初はあなた方がいるからと渋っていたのを半ば強引に。先生なにも悪くないじゃない」由紀子の一言に皆我に帰った。優しさに甘えて言いたい放題だったと。由紀子は私の部屋に来て皆を叱っておいたから大丈夫ですよと伝えに来た。
怒りのあまりベッドから起きてリビングに行き皆に言い放った。
「申し訳ないけど俺は女には不自由しないの。今週中に誰か引っ掛けて来いって言ったらできるよ。そういうことだから今週中に出て行って皆」そう言うとまた自室のベッドに籠った。
「やっべえあんなに切れたあいつ見たの初めてだわ」美麗の顔が青ざめてた。
亜紀は責任感で泣きだした。紫もせっかく一緒に暮らせるようになったのに追い出されることに悲しくて泣いていた。
「好きってなんだ?ぼろくそに言われるために優しくしてたんじゃないんだが」
「好きだったって過去形になっちまった全部」
「俺は悪くないって態度は好きじゃない。三又だって絶対にダメだ。だけど望んだのはあっちじゃん」
「終わりって簡単なんだな。さっぱりしたよ」
もう戻せないと思うくらい醒めていたすべてに。ついでに会社やめちまおう。すっきりするだろう。




