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魔法少女と家庭教師(あこがれver)

今日は書類作りに一日時間を掛けないといけない。仮契約とはいえ染谷さんの分を入れたら四人分になるからだ。普通に塾の先生なら同学年の生徒だけなので最大30名くらいは教えられる。ただ亜紀と美麗は学力差が大きいので同時に教えることが出来ない。そのため実質4学年分だ。それでも私に出来るのは毎夜頑張ってくれる彼女たちのサポートなので大変でも四人それぞれの学習サポートは続けなければならない。

今日最初に来たのは美麗だった。不登校と言いつつ自分で勉強をしてるのでそこそこ学力が高くやりやすい生徒だ。

「授業の前に進路指導やろうか美麗」と問いかけたのだが

「その前にやることあるだろう。亜紀と朝全然話してなかったろ。俺といろいろしてたことバレたんだよな。お前の正式な彼女だろ、優しくしてやれよ」美麗は言ったが罪悪感もありそうな口ぶりだ。

「正式といったら美麗も同じだ。自分を愛人みたいな言いかたするのはやめてくれ。美麗と亜紀に差を付けてることはないし、お前のことも同じだけ大事にしてるんだ」

「だけどよ、あいつ真っ先にいつもここに来てただろ。お前に早く会いたいからにきまってんじゃんか。それがまだ来ねえってことはよっぽど思い詰めてんだよ。俺が一発殴られて済むならそうするぞ」

「ダメだ。今回は俺と亜紀の問題だから。なにも悪いことしてないのに殴られるとか言わないでくれ。自分の彼女が殴られるなんて許せるはずないだろう」美麗は何も言い返さなかった。


昨夜のことはちゃんと覚えてる。正直当たり前のことを言っただけでもし彼女が怒っているとしたら筋違いだ。


「美麗ちゃんと何してたの。えっちなこと?」亜紀が聞いて来たのでそうだと答えた。

「美麗は自分が二番目って常に思ってたようだったんでそうじゃない亜紀と同じくらい愛してると伝えたかった。不安を取り去ってあげたかったんだ」

「違うんじゃないかなそれは。もう美麗ちゃんのことが一番大事なんだよね秀樹さんは」そういうと紫ちゃんが起きちゃうかもしれないと言って寝室に戻って行った。

美麗と亜紀を比べることはもうしていない。亜紀だけの彼氏だった頃は美麗の気持ちを知っていながら気が付いていない振りをしたり突き放したりしていた。でもそんな自分に嫌気が差してもいた。だから亜紀が二人とも恋人にするっていう荒唐無稽な社長の提案に賛同してくれた時は本当に嬉しかった。二人と一緒に居ていいんだと幸せに思った。だが亜紀が捨てられたくないと思って手を挙げたとしたなら、それに気が付かなかったのだとしたら私の責任だ。責任はあるが無駄に自分だけを責めるのはそれもおかしいと思う。亜紀の意志を受け取っただけなのだから。そうではなく亜紀と別れて美麗に乗り換えようとしている自分が居たなら全面的に私が悪い。亜紀と別れ美麗と正式に付き合うことにすれば良かったのだから。


「顔色すげえ悪いぞせんせ」美麗に言われてはっと我に帰った。昨夜のことで混乱が酷すぎた。まだ紫と染谷さんは来ていない。彼女たちはけっこう遠くから出勤するので遅くなるのだった。

「美麗、作戦立てるので付き合って欲しい。亜紀奪還作戦」なりふり構ってなんかいられないんだ。

「ということは亜紀は俺が一番で自分は大事にされてないと思って拗ねてんだな」昨夜の出来事を話したところ美麗がそう言った。

「たぶんそうだと思う。どうしたらそうじゃないと信じてもらえるのか」

「めんどくさいこと考えてないで今夜亜紀を抱いてやれ。最後までな。俺は拾われた身だから全然気にならねえし」美麗が嘘を付いている。その証拠に私と絶対に目を合わせようとしない。亜紀も今の自分が置かれた現状にまだ怯えているんだ。


「今夜から戦闘のコンビを変える。亜紀と紫、染谷さんとお前に」

そうこうしてるうちに紫と染谷さんがやって来た。

「こんにちわ元山先生と美麗先輩」紫が言うと染谷さんもぺこりと挨拶をした。

亜紀には問題集をやらせて紫と染谷さんの勉強を見ていると染谷さんが小声で聞いてきた。

「亜紀さんて先生の彼女さんですよね。今日はまだいらっしゃらないみたいだけど何か聞いてますか」

「今日は遅れると言ってたがなにか用事あるのか」と染谷さんに尋ねると彼女に会うかも知れない学習ドリルがあるから渡したかったのだそう。それなら私から渡すと言ってドリルを受け取って置いた。

「紫は先生に詳しく聞きたいことがあるのでちょっとだけ別室でいいですか」めずらしく一人称を自分の名前にした紫が居た。たぶん昨日のことを聞きたいのだろうから許可して別室に行くことにした。

「亜紀さん泣いてましたよね昨晩。隠しても無駄です。紫には全てお見通しなのです」

「うん泣かせちゃったんだ。美麗にも相談できることじゃなくて紫に相談しようと思ってたのでお礼を言うよ」うんうんと紫は誇らしげだった。非常にかわいい。

「それでですね。元山先生は二股ロリコン野郎なのでなにかあったら全ての責任はあなたが取らないといけません。ここテストに出るんで覚えておいてくださいね」紫に断罪されてしまった。

「そこで今夜のフォーメーションを元に戻してください。私が二人をリードします。染谷先輩はまだ怖がっているので口説かない程度で先生がフォローしてあげててくださいね」紫の中で私はやはり女好きクソ野郎のままみたいでした。


今夜秋葉に出るイービル退治の件については全て紫が仕切ってくれた。ぎりぎりに来た亜紀は事情が吞み込めずキョトンとしていた。

「大事なのはチームワークです。上手くできない人は容赦なく切り捨てますから覚悟しておいてください」紫は皆を鼓舞していた。魔法少女部隊では間違いなくスーパーエースだが年上の亜紀と美麗にこれほど遠慮なく言い切るのは初めてだった。

今回の敵ははっきり言って厄介だった。地上を這いつくばってなかなか攻撃の隙を与えてくれなかった。

美麗と亜紀が頑張って弱体化させるべく攻撃をしているのだが当てられる体積が少なく大きなダメージを与えられないで居た。

「何してるんですか先輩方。時間が経って不利になるのは魔法力に限界があるこっちなんですからね」紫が二人を叱った。

「亜紀てめえやる気あんのか。こいつを地上に起こさないとなんねえのにお前のハレーション不発だらけじゃねえか」それを聞いて亜紀も反撃した。

「美麗の電撃だって利いてないじゃない。こんなエイみたく大きな敵には何もできないんじゃない」

「斬鬼滅殺セグメンテーション!!」紫が吼える。数百の三日月の刃が地面に張り付いたイービルに切り掛かった。鉄壁の守備を誇っていたイービルも大きな悲鳴を上げ砕け霧散していった。紫が地上に戻ってこようとしたが力尽きて落ちてきた。私は全力で彼女を受け止め抱きしめた。

「なんであんな無茶な攻撃をした!一歩間違えたら命取りだぞ」俺は紫を叱った。

「いいですか元山先生。誰かを守りたいなら自分の命くらい捨ててやるという覚悟が要るのです」と言って紫は気を失った。後から降りてきた亜紀が結界を解いた。

「染谷さん、タクシーを呼ぶか拾ってくれ!」というと分かりましたと言って道に飛び出してタクシーを捕まえた。この子震えてた頃と違ってなんか逞しくなったな。


会社に戻って紫を医務室に連れて行った「魔力欠乏症」という診断名が出た。初耳だ。紫が使っている斬鬼は他二人の攻撃より遥かに強い。と同時に膨大な魔力を消費するので使用回数は控えなくてはならなかった。亜紀と美麗の攻撃が効かないと判断した彼女は、二回滅鬼斬殺を使ったあとでその数倍の魔力が必要なセグメンテーションを放った。全ての魔力を放出し落下したんだ。

「おいお前、紫はどうなったんだよ。生きてるよな」美麗が青ざめながら聞いてきた。

「わたしが何もできないから紫ちゃんがあんな目に」亜紀は泣いていた。

「取り敢えず親御さんに連絡して今夜はここに泊めて行くという連絡だけはした。何が起こったかをいずれ言わなきゃならない。最悪紫は魔法少女を辞めさせられるかもしれない」

医療部に後は任せ私は染谷さんを送り届けた。

「紫は強いっていうレベルではなく無敵なんです。生徒会の仕事でも一年生なのに全て一人でこなしてしまうんです」染谷さんが言った。放送部は掛け持ちで生徒会の役員だったらしい。

「震えてないであの子の手助け出来ていればこんなことにならなかったかも。わたしの臆病さに嫌になりますね」染谷さんは責任を感じていた。

彼女を送った帰り道ずっと考えていた。責任は私にあったと。亜紀と喧嘩して私が弱っていたので紫は全て引き受けたのだ。もっと言うと私の代わりに弱い亜紀と美麗を守る役目を引き受けた。


家に帰るとリビングのソファに美麗と亜紀は居た。泣いた跡があったので紫の件で相当参ってしまっているようだった。私は医療班から紫の意識が戻ったという連絡が入ったということを二人に伝えた。

「俺行ってくるな会社に。何もできないが少し紫の傍に居てあげたいんだ」というと二人も付いて行きたいとというので連れて行った。

紫は酸素マスクも外していたので回復は順調なのだろう。寝ている彼女に小声でありがとうと言った。

しばらくして紫は目を覚まし美麗、亜紀は泣きながら自分たちの不甲斐なさを詫びていた。そして私には退席するよう言ってきたので病室を出た。

「先輩方はいったい何をしていたのですか。あれほど弱っている元山先生を見たのは初めてですよ。二人で力を合わせてあの人を支えてあげなさい。お二人は彼女さんなんでしょう?もしそれができないならわたしが貰っちゃいますからね。忘れないで置いてください」二人は泣きながら何度も頷いた。


家に戻ると私はベランダで黄昏ていた。小さな体に大きな勇気を秘めた魔法少女に感動していた。亜紀と美麗も来て夜景を静かに眺めていた。今度は紫ではなく私がこの二人を必ず守ると誓った。



















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