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見習い管理官・連城光太郎とハーレム狙いの少女たち  作者: 阿井川シャワイエ
第3章 変態パラダイスマンション

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第89話 村のシステム

「コータロー、ラビュのことを幸せにするって言ってくれたよね」


「あ、ああ、そうだ。俺はラビュを幸せにすることに全力を尽くしたい。だから、みなものことは――」


「でもみなもんは、ラビュの読者だよ。読者の幸せは、ラビュの幸せなわけ。分かる?」


「分からん。全然分からん」


 本気で困っていると、ふっと背後に影がさした。


「ラビュが言いたいことは簡単さ。要は、『コータローならふたりとも幸せにできるよね』ってことだよ。信頼されていて、結構なことじゃないか」


「ナギサ先輩……?」


 いつのまにいたんだ。

 っていうか話に入ってくるのなら、ラビュの味方じゃなくて俺の味方をして欲しいんだけど。


「信頼というか過信ですよ。ふたり同時に幸せにするのはさすがに無茶でしょう」


「別に無茶なんてことはないよ」


 正論を伝えたつもりなのに、即座に否定されてしまった。

 ナギサ先輩は真面目な表情のまま言葉を続ける。


「新しい連城村を作ったら、君はその村の村長になるわけだ。だろう?」


「はあ、まあ」


「村長は当然、村人全員を幸せに導いてあげないといけない。だからラビュやみなもちゃんを村に誘った以上、ふたりを幸せに――いや村人全員を俺が幸せにしますと宣言するくらいの気概はもっていてくれないと」


「それは……たしかにそうかもしれませんけど……」


 なんかナギサ先輩から、俺を言いくるめようとする気配を感じる。


 確かに俺が村長になったら、村人のみんなには日々を楽しく過ごしてもらいたいとは思う。

 でも別にそれは、恋人である必要はないわけで。

 そんなことはナギサ先輩だって分かっているはずだ。


 けれど俺が反論を重ねるより先に、ナギサ先輩が言葉を続けた。

 

「君のお父さんだって、あの村では一夫多妻制を敷いてたじゃないか。それに比べれば、みなもちゃんとラビュだけなんだ。コウちゃんなら問題なく対応できるよ」


「はい?」


「ん?」


 俺が首を傾げると、ナギサ先輩も不思議そうな顔をした。


「あの……連城村は別に一夫多妻制ではないですけど」


「え?」

 

 訂正したが、さらに先輩の首の傾きが大きくなってしまった。

 どうも本気でそう思っていたらしい。

 

 たしかに似たような物ではあったし、週刊誌の報道はもっと露骨に「ハーレム」なんて言葉が使われていたから、外の人間がそう勘違いするのは分かる。

 

 分かるけど、でも実際に住んでいたナギサ先輩がなぜそんな理解になるんだ……。


「ああ……」

 

 でも考えてみれば、あの村の中でも駐在さんの家は例外だったな。

 さすがに警察を巻き込むのはまずいという判断だったのか、あの村のシステムにナギサ先輩の家は組み込まれていなかったのだ。


 それなら気付いていないのも頷ける。

 ましてあの頃の俺たちは小学生だったから、あまり関係も無かったしな。

 

「ナギサ先輩。連城村は、一夫多妻制じゃないです。あの村は、多夫多妻制です」


「多夫多妻制!? なにそれ聞いたことが無いよ!?」


「えっと……村人全員が恋人……みたいな感じですかね。全員が夫で全員が妻、みたいな。もちろん俺たちみたいな子どもは除いてですけど」

 

「村人全員が恋人!?」


 その単語は、ナギサ先輩だけでなく、ラビュにとっても驚きだったようだ。

 まあ、でもそうか。

 村の外では、あまり聞かないもんな。


「えっえっ、じゃあもしかして我が家の両親も……?」


 驚愕の表情を浮かべるナギサ先輩を安心させるため、俺は笑顔で言葉を紡ぐ。

 

「ナギサ先輩の家は例外です。やっぱり警察関係者は特殊だったんだと思います。でもそれ以外の村人たちはみんな恋人関係だったんです」


「……コータローのお母さんも?」


「俺の……? うんまあそうだった……と思う」


 いまいちピンとこなかったせいでぼんやりとした返答になってしまったが、あの村にいた以上は母さんだって当然そうだったはずだ。


「……シグマさんか。あの人の名前を出されると、たしかに納得感があるかもしれない」


 苦笑いを浮かべるナギサ先輩を見て、ラビュは不思議そうな顔をした。

 

「コータローのお母さんってどんな人なの?」


「うーん、シグマさんはとにかく気が強くて、あと力も強かったかな。全裸でアハハと豪快に笑いながら群がる男たちをちぎっては投げちぎっては投げ……みたいな」


「なんかすごい……」


「なんかすごいな」


「なんでコウちゃんまで驚いてるのさ」


 再び苦笑いを浮かべるナギサ先輩だが、その表情はすぐに曇る。

 

「ただ、村が崩壊する時に身体を壊してしまったみたいで、まだ若いのに亡くなってしまったよ。お父さんからその話を聞いたときは、あんな豪快な人でも病気に負けるのかと心底驚いたな」


「そっか……」


 ラビュはこちらに申し訳なさそうな視線を向けてきた。

 亡くなっているとは思わなかったのだろう。

 

 でも俺はあまり気にしていないというか……正直父さんと違って、母さんのことはあまり印象に残ってないんだよな。

 

「でもまあ、あれだ」


 ナギサ先輩はそんなしんみりした空気を打ち払うように軽く咳払い。

 そしてこちらに笑顔を向けてきた。


「あの村が多夫多妻制だったのならなおさら問題はないじゃないか。ラビュとみなもちゃん、ふたりの夫としてがんばりなよ」


「うーん……」


 それを言われるとなあ……。

 確かに俺は、あの村の復活を目指しているわけで。

 

 父さんみたいにうまくやれる自信はないが、でもだからといってやる前から弱音を吐くというのも……。


「ああそれと。あらためて忠告しておくけど、多夫多妻制のシステムも復活させるつもりならなおのこと、男の村人を増やすときは気をつけたほうがいいね」


「え!?」


 ナギサ先輩の言葉に、ラビュが驚愕していた。

 

「コータロー、男の人を入れるつもりなの!? ムリムリぜったいそんなのムリ! ヤダ!」


「い、いやいや別にそんな計画はないって! あくまでもそういうことを考えた時は事前に相談したほうがいいって、そうナギサ先輩に忠告してもらっただけだから」


 反発の激しさに慌てて否定すると、すぐにラビュの表情が和らいだ。


「そっか、良かったぁ~。あやうく、コータロー村の村人になるのを断るところだったよ」


「は、ははは……」


 我ながら情けなくなるほど乾いた笑いが出てきた。

 

 まじでそのレベルで嫌なのか……。


 確かにナギサ先輩の忠告どおり、男性村人の勧誘はしばらく凍結したほうが無難みたいだ。


 でもなあ……男が1人だけの村なんて、そんなのあるか……?


 うーん……。

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