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見習い管理官・連城光太郎とハーレム狙いの少女たち  作者: 阿井川シャワイエ
第3章 変態パラダイスマンション

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第87話 犯人探し

「ちなみに念のための確認だが……4人とも、自分で脱いだわけじゃなくて水着を解かれてしまったってことでいいんだよな? それなら水着を外した相手に心当たりがある奴だっているんじゃないか?」


 全員の顔を見まわしながら尋ねると、御城ケ崎がキラリと目を輝かせた。

 

「わたくしの水着は――右側にいた誰かに外されました……!」


 その隣でラビュも頷く。

 

「ラビュの水着は左側の誰かに外されたよ」


「うーん」

 

 まあ、このふたりに関してはそっち側にしか人が座っていなかったわけで、それはそうだろうとしか言いようが無い。


 せっかく証言してもらってなんだが、犯人探しに役立てるのは難しそうだ。


 俺は残るふたりに視線を向ける。

 すると、柚子島が気まずそうに目をそらした。


「ウイカは誰の水着も外してない……と思うけど、ただ誰かに必死にしがみついてた記憶はあって……もしかしたらその人の水着に手が触れて、いつの間にか外しちゃったかも……?」


 ……ふむ。

 事故で外したかもしれないというわけか。


 柚子島があえて他人の水着を脱がすとも思えないし、そのほうが俺としても納得はできる。


 でも結局その場合、柚子島自身の水着も脱げてしまったことの説明がつかないんだよな。


 頭を悩ませつつ、俺は最後のひとりに視線をむけた。

 倉橋は当時の状況を思い出すように、目を閉じたままゆっくりと口を開く。

 

「あたしはキャーキャー言いながら右側にいるラビュちゃんに抱きついてたら、いつのまにか自分の水着が脱げてたよ。でもたぶん、左側のだれかに抱きつかれた感じがあったから、その人に外されたんじゃないかな?」


「む、むう」


 なんか頭が混乱してきた。

 とはいえ証言を組み合わせることで、見えてきたものもある。

 

 並び順を考えると、柚子島が抱きついた相手は倉橋か御城ケ崎だったはず。

 そして、倉橋は抱きつかれた感触があったと証言している。


「つまり柚子島が抱きついた相手は倉橋で、その時に水着を脱がしたかもしれんと……。でももしそれが事実だったとしても、他の3人の水着が脱げた理由が分からんな」


「そもそもみんなが正直に答えてるとも限らないよね。ほら、クイズとかでこういうのってよくあるじゃん。4人くらいから話を聞くんだけど、ひとりだけ嘘つきがいるやつ」


「うーん」


 むしろこの場合、嘘つきがひとりとは限らないのが面倒だ。

 他の3人に悟られずに水着を解くのはさすがに神業としか言いようが無いし、犯人が複数人いたっておかしくない。

 

 日ごろの言動を考慮に入れると、怪しいのはやはりラビュか御城ケ崎だ。

 でも、倉橋はちょっとドジなところがあるから、ラビュに抱きついているうちに勢い余って脱がしてしまうというのもなくはない。


 そして柚子島も本人の証言通りなら、意図せず水着をほどいていた可能性はあるわけで……。

 

「ふむ」


 俺は様々な検討を脳内で重ねてから、大きく頷く。

 そして笑顔でみんなを見回した。

 

「これは迷宮入りだな」


「そんなこと爽やかに言わないでよ、おにいちゃん」


「そうは言うが、別に俺は探偵というわけでもないんだ。分からないものは分からない。当然だろ」


「でも変態管理官なんでしょ? 実際にこういう事件が起きたら、担当することになるんじゃないの?」


「む、むう」


 あくまでも見習いではあるが、それを言われると否定はできない。

 どさくさに紛れて水着を脱がされたというのは、真夏の海やプールでいかにもありそうな事件だ。


 そんなときに見習いだから分かりませんなんて返答が許されるかというと、それは難しいだろう。

 

「あの……多分だけど」


 あらためて考えをまとめていると、倉橋がおずおずと手をあげた。


「滑ってる途中、ウイカちゃんにぎゅってしがみつかれて。よくよく考えたらあたしの水着はあのとき外れちゃったんだと思う」


「え、ホント!? ご、ごめんね!?」


「ううん、全然平気だよ。わざとじゃないのは分かってるし」

 

 うーん、ぶっちゃけそこに関しては、まあそうだろうとは思ってたというか……。


 どちらかというと、他の3人の水着を外した犯人が分からないんだよな。


「うーん……」


「……あっ、それで思い出したんだけど……」


「ん?」


 倉橋と同じく、おずおずと手をあげる柚子島。


「もしかして誰かの水着を外しちゃったかもって思ったすぐあとに、ゆらちゃんの顔が見えた気がして」


「御城ケ崎の顔が?」


「うん。そのときは何とも思わなかったけど、ラビュちゃんの隣にいたからなんか変だなって……」

 

「……」


 御城ケ崎は柚子島の左側にいたはず。


 にもかかわらず、いつの間にかラビュの隣に移動していた?

 だとするとその目的は……。

 

 俺は御城ケ崎にじっとりとした視線を向けた。


「犯人が見つかったようだな」


「ええ、ばれてしまっては仕方がありません。そう、犯人は――ラビュさんなのです」


「いや、そんな話は……」


 ――していない。そう言おうとしたが、その言葉は途中で止まる。


 ラビュがその場で項垂れてしまったのだ。


「はい……ラビュがやりました……」


「なんで……」


 なんで急に自白したんだ……?

 別にそんな流れじゃなかっただろ……。


 けれど御城ケ崎はそんなラビュを見て微笑むと、ポンと手を打ち鳴らす。


「さて、茶番はこのくらいにして、そろそろ結果発表の時間とまいりましょう」


「結果発表? っていうか茶番って……」


「よっ、待ってました!」


 展開について行けない俺とは違い、ラビュたちのテンションは普通に上がっていた。


 それこそ俺にしてみれば茶番が継続しているとしか思えないが……。


 御城ケ崎は困惑する俺に笑顔を見せてから、胸を張った。


「まずは内訳から発表いたします。わたくし、御城ケ崎ゆらが『1ビキニ』」


 1ビキニ?

 なにその単位。

 聞いたことが無いぞ。


「ウイカも『1ビキニ』だよ。頑張ったんだけど……」


 でもみんなも普通に使いこなしてんな。

 俺が流行りに乗り遅れてるだけ……?


「ええ、なかなかの手腕でございました。そして優勝候補とも目されていたひかり様は、まさかの『0ビキニ』という結果」


「うー、ざんねんっ。でもやっぱり、ウォータースライダーに乗りながらは難しいよね」


「でもそんな難しい状況でもラビュは栄光の『2ビキニ』ゲット。単独トップだから、ラビュの優勝ってことでいいんだよね」


「ええ、異論はございません。激しく揺れるビニールボート上にもかかわらず、身体を伸ばして一瞬で水着を剥ぎ取るとは……天才的な腕前でございました」


「すごかったよね、ラビュちゃん。ほれぼれしちゃった」


「うんうんウイカも凄いなーって思ったよ。よっ、水着脱がしのプロ!」

 

 なにやら意味不明なことを言い合いつつ、和気あいあいとした雰囲気を醸し出している4人。


 その言葉の端々から、なんとなく察するものがあった。

 さすがにこれ以上見守る気にもなれず、俺はおずおずと声をあげる。


「なあもしかして……」


「うん? どしたのコータロー」


「4人で事前に話をしてたのか? ウォータースライダーを滑る前に、変なイベントでも開催しようとかそんな感じのことを」


「別に変なイベントってことはないけど……ウォータースライダーをただ滑り落ちるだけなのは退屈だし、もう少しエンタメ性が欲しいでしょ? だからラビュ発案で、水着脱がしゲームを同時開催することにしたの」


 やっぱ変なイベントじゃん……。


「一番下に到着するまでの間に、他の人の水着を一番多く脱がせた人の勝ちというのが今回のルールです。ちょうど皆様ビキニでしたから脱がせやすかったので。ちなみに優勝賞品もラビュ様発案で、『みんなからいっぱい褒めてもらえる、一日褒め褒め券』となっております」


「……脱がせた人数の勝負……? じゃあさっきの犯人が分からないみたいなやり取りはなんなんだよ。あのわけのわからん茶番は」


 別に怒りは無いが、ただただ意味不明だった。

 けれどラビュは当然のように頷いている。


「ナギーは参加を辞退したから別にいいんだけど、コータローたちの参加意思は確認できてなかったでしょ? だから一応、誰が誰の水着を脱がしたか当てられたら、ふたりにも優勝賞品の贈呈を考えてたの。まっ、これ全員分を当てるのは無理だなってすぐわかったから、適当に切り上げたけど……。でももしかして事前にルール説明してた方が良かった? そしたら、もっと本気で犯人探しが出来てた感じ?」


「いや大差なかったと思う。……なんかごめんな、期待に添えず……」


「そんなこといいから。ほらコータローも、優勝したラビュのこと褒めて褒めて!」


「お、おお」


 別に褒めるのはいいが、いきなりそんなこと言われてもいあだに展開に頭が追い付いていない。

 

 けれど目の前には期待した様子のラビュの顔があった。


 いつまでも無言のままというわけにはいかないだろう。


「……さすがラビュ! 日本一の水着脱がせ師!」


「えへへえ」

 

 あ、こんなんでいいのね。

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