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第86話 ハレンチ製造装置?

「ぷはっ! はぁ……はぁ……」

 

 ゴール地点がスロープ状になっていて、ゆるやかに止まっていく……そんな終わり方を想定していたが、実際は出口を抜けるとボートごと着水するというド派手な終焉を迎えることとなった。


 くそー御城ケ崎め、これを黙っているとはなかなかやるじゃないか。

 心臓が止まるかと思ったぞ。


 とはいえさすがに水深は浅めか。


 その場で立ち上がった俺は、横転したボートを引っ張りつつ、みなもを探す。


「おっ、いた」


 彼女はかなり手前で振り落とされていたようだ。


 細い足で水をかきわけつつ、こちらに向かってずんずんやって来る。

 

「いやー大迫力だったな。これならみなもも満足できただろ」


「うー! うー!」


 うんうん、どうやら大喜びのようだ。

 俺も楽しめたし、付き合って正解だったな。


「おにいちゃん、私を壁にした! 水がたくさん顔に掛かって大変だった!」


 違った、文句を言っていたらしい。


「壁にしたも何も、お前が前に座ったんだろ。それに体格差があるから別に壁にもなってないし」


「うー! うー!」


「悪かった悪かった。オレが壁にしたな、うんうん」


 反論しても無駄なようなので、適当に頷いてご機嫌を取っていると――。

 

『ふたりとも出口から離れてねー』


「うお!」


 突如背後から聞こえてきた声に驚き、振り返る。

 そこにはウォータースライダーの出口があるだけ。


 ……いや、そのすぐ隣にスピーカーらしきものが見えるな。

 どうやらここからナギサ先輩の声が出ているらしい。


『4人乗りボートの出口はそこから離れてるから大丈夫だとは思うけど、一応近づかないように気をつけておいて』


「分かりましたー!」


 聞こえていないとは思いつつ、大声で叫び返す。

 そしてプールサイドへと移動を開始。

 

「ナギサちゃんが係員なんだ?」


「みたいだな。4人乗りのボートって言ってたし、もしかしたら御城ケ崎も降りてくるのかもしれん」


 などと話しながらプールサイドへあがり、しばらく待機。

 ぼんやりと出口のあたりを眺める。


「きゃあああああああああああ……!」


 やがて、上方から悲鳴が響いてきた。

 ラビュたちが降りてきているのだろうが……。


「……なんか悲鳴が凄いね」


「まあ4人もいればそんなもんじゃないか?」


 軽く答えつつ、たしかに意外ではあった。

 

 御城ケ崎は、2人乗りのビニールボートで降りるのが一番迫力が凄いようなことを言っていたはず。

 それだけに4人乗りはもう少しのんびりした感じを想像していたが……。

 

 やむことのない悲鳴に違和感はありつつも、特に何ができるわけもなく大人しく待っていると、4人を乗せた円形のボートが出口から勢いよく飛び出してきた。

 

 そのボートはバッシャーンと激しく水しぶきをあげながら水上を進み――そのまま転覆。


 4人も乗っていたせいか、俺たちの時より着水の仕方が激しいな。


「おーい、大丈夫かー」

 

「ぷはっ」


 プールサイドから声を掛けると、4人が次々と水面に顔を出す。


 どうも転覆はあらかじめ想定されているらしく、出口付近は水深が深くなっているようだ。


 そして、やはり降りてきたのはナギサ先輩をのぞいた4人だった。

 ラビュに御城ケ崎に倉橋に柚子島。

 

 ……しかし妙だな。

 4人ともなぜか、その場から動こうとしない。


 胸元を手で隠すようにしたまま、全員が顔を見合わせている。

 なんだ……?


「あ……あたしちょっと行ってくるね?」


「ん? ああ……」


 みなもの行動で、ようやく状況を理解することができた。


 彼女が近づいていくその先に、御城ケ崎が身に着けていたはずのオレンジ色のビキニが浮かんでいたのだ。


 水着が外れたせいで身動きが取れなくなったわけか。


 まあこういうアトラクションだと、そういうこともあるよな。


 うんうん、あるあ……。

 いやでもちょっと待て。動けなくなってるのは、4人全員だぞ?


 さすがにそんなことはありえなくないか?


 念のため着水したあたりを眺めてみたが……やはり全員分の水着が水面に浮かんでいるようだ。


 うーん、4人ともかあ……。

 それはちょっと、アトラクションとしてどうなんだろうなあ……。


 ナギサ先輩は否定していたが、結局このウォータースライダーは、ハレンチ製造装置としか言いようが無い気がする。

 施設がオープンしても、ウォータースライダーは封印されてるかもな。


「お待たせ、おにいちゃん」


 プールに背を向けて待っていると、無事に作業が完了したらしく、みなもが4人を引き連れこちらに戻ってきた。

 なんともいえない表情を浮かべる彼女たちに、俺は優しく言葉を掛ける。


「4人乗りのほうも、勢いが凄かったみたいだな」


「いえ……そういうことではなく……」


「ん?」

 

「道中で、どなたかがわたくしの水着の紐をほどいたようで…………」

 

「は? 勝手にほどけたわけじゃなくてか?」


 だとしたら話がかなり変わってくる。

 このウォータースライダーがハレンチ製造装置だったわけではなく、ハレンチ製造人間が潜んでいた……?


「一緒に乗った他の3人のうちの誰かがやったわけだな。……犯人の顔は見てないのか」


「はい、特には……」


「うーん」


 御城ケ崎の水着を脱がせた犯人か。


 一緒に乗っていたのは、倉橋か柚子島かラビュ。

 この三択なら、言うまでもなく怪しいのはラビュだ。

 だってラビュだし。

 

 でも彼女自身、水着の紐がほどけてるんだよな。

 もちろんラビュの自作自演という可能性はあるが、それを言い出すとそもそも御城ケ崎だって怪しくなるし……。


「ちなみにどういう座り順だった?」


「ラビュが右端で、ユーラが左端、ヒカリンとウイウイが真ん中だったよ」


「……真ん中? 円形のボートの真ん中に座ってたってことか?」


 理解できずに尋ねると、ラビュも困ったような表情になった。


「説明が難しいんだけど……そうじゃなくて元々片側に寄って座ってたの。ほら、丸いボートだと、誰かが後ろを向いた状態で滑り落ちないといけなくなるけど、それってすっごく怖いでしょ? だから全員で前を向くことにして」

 

「ああ……」


 その気持ちは分からんでもない。

 さっき俺とみなもが使ったふたり乗りのボートだって、前方に進んでいくからあのスピードでも耐えられたが、あれがもし背後に進んでいったとしたらとてもじゃないが耐えられなかっただろう。

 

「じゃあラビュと御城ケ崎が普通に座って、倉橋と柚子島はそのあいだにむりやり挟まった感じか」


「そーそー、持ち手が足りないから、横に座ってる人の腰に手を回したり工夫してね。だから振り落とされそうで、すっごい迫力だったよ!」


 悲鳴が上がっていたのはそのせいか。

 たしかに掴む場所が無いと、身体を固定できないから絶叫マシーン度はかなり上がりそうだ。

 

 ……そして腰のあたりに手を回していたとなると、ちょっと手の位置をずらすだけで、水着をほどくこともできたというわけで。


 そうなると怪しいのは、端にいたラビュと御城ケ崎ではなく、むしろその間に挟まっていた倉橋と柚子島……?


 あまりそういうことをするイメージはないし、だとしたらこれは事故だったのだろうか……。

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