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見習い管理官・連城光太郎とハーレム狙いの少女たち  作者: 阿井川シャワイエ
第3章 変態パラダイスマンション

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第81話 疑惑の先生(後編)

 留岡さんの後ろ向きな期待とは裏腹に、その後も特にこれといった問題は起きず。

 急遽行われた特別授業は、つつがなく終わりの時を迎えることとなった。

 

「本日はありがとうございました」


「いえ、皆様のお役に立てたのならなによりです」


 夕日に照らされる留岡さんの横顔は、どこか晴れ晴れとして見えた。

 すこし意外ではあるが、きっとあと少しで愛想笑いを浮かべる必要が無くなるという開放感からだろう。

 

「ではお見送りいたしますね」


「ああ、それは大丈夫です。彼に案内してもらいますから」


「え?」


 突然名指しされて驚く俺だったが、留岡さんはこちらを見ることもなくスタスタと会議室を出ていく。


「連城君、ご指名だよ。お見送りはお願いね!」


「あ、はい!」

 

 宇佐先生の声に背中を押されるようにして、慌てて留岡さんの後を追う。

 しかし結果的には、急ぐ必要などなかった。

 

 彼は部屋を出てすぐの廊下、その中央で立ち止まっていたのだ。


「宇佐教師……ね」


 俺が後ろ手に閉めた会議室の扉を見つめ、低くつぶやいている。


 その意味深な言葉に、俺はハッとした。

 

 やけに急な訪問だと思ったが、宇佐先生のことを探るためだったのか。


「……どう思います?」


 俺が小声で尋ねると、彼はこちらに軽く視線を向けてから、ひと気のない廊下を歩き始めた。

 そしてネクタイを片手で緩めながらつぶやく。

 

「書類上じゃあ確かに怪しかったが……どうだろうな」


「留岡さん的にはグレーですか」


「いや、俺個人の判断を言うのならシロだ。あれは悪さができるツラじゃねえ」


「ツラって……」


 さすがにその判断基準はどうなんだ。

 たしかに人畜無害にしか見えないけども。


 留岡さんはそんな俺の反応が不服だったか、つまらなそうに首を振る。

 

「言っとくが、そもそも最初にシロと判断したのは室長だからな。俺はあくまでも最終確認として、様子を見に来ただけだ」


 最終確認?

 

 城鐘室長が問題なしと判断したのに、念のため確認に来たということか。

 

 ずいぶん心配性ではあるが……。


「その結果、留岡さんもシロと判断したわけですね」


「まあな。しかしそうなると他に内通者がいるはずだし、もう一度洗い直さねえと……」

 

 なにやらブツブツつぶやきながら廊下を進んでいく。

 もはや俺のことは眼中にも無いらしい。


 ……なんか急展開すぎていまいちピンとこないが、とにかく宇佐先生の疑惑は晴れたということでいいんだよな?

 

 もっとも留岡さんの言葉通り、革命軍との接点がある人物がこの学園に潜んでいるという疑惑は依然として残っているので、これで万事解決という訳でもない。


 とはいえ特別対策室も容疑者探しに積極的みたいだし、この分なら俺が心配するまでもなくすぐに確保してくれることだろう。

 

 無論、気にはなるが……とりあえず今は、宇佐先生が革命軍の人間じゃなかったということを素直に喜んでおこう。


 そんなことを考えつつ、無言で歩き続ける留岡さんを校門前まで見送り。

 再び第三会議室へ戻ってみると――。


「……誰もいないじゃん」


 意気揚々と戻ってきたのに、もぬけの殻になっていた。


 わずか数分の間にいったいなにが……あ、机の上に書き置きがある。

 どうやら宇佐先生が残したものらしい。


「なになに、えっと……『連城君へ。本日は解散です』」


 ……帰るか。



 とはいうものの自宅へまっすぐ帰る気分でも無かったので、駅前にある本屋に向かい登山系の雑誌を購入。


 やはり厚着ファッション好きとしては、この手の雑誌は外せない。

 少しでも売り上げに貢献して存続してもらわないといけないのだ。


 ……あと表紙の女の子の重ね着がセクシーだったし……。


 そんなこんなで満足感と共に家に戻ると――。

 

「あ、おかえり、連城くん。ご飯もうすぐできるから」


 なぜか宇佐先生がキッチンにいた。


 いやほんとなんで?

 

 私服姿の彼女は、エプロンをつけて倉橋と一緒に料理を作っているようだ。

 まじでなんでなんで?


 意味が分からない。


 ……まさか先生までここで暮らすとか言い出さないよな?


「どうして先生がここに……?」


 恐る恐る尋ねると、宇佐先生は不思議そうに首を傾げていた。


「あれ? 理事長から聞いてない?」


「…………」


 なんなのあの人。

 まじでなんなの。

 

 ……いや待て、いったん落ち着こう。

 さすがに今の言葉だけで叔母さんに怒りをぶつけるのは気が早すぎる。


 先生は別に、このマンションで暮らすことになったなんて言ってないんだ。

 

 叔母さんに頼まれて、今日だけご飯を作りに来たんじゃない?


 うん、きっとそうだ。

 それならむしろ叔母さんに感謝しないといけないくらいだよな。


「わざわざご飯を作りに来てくれたんですか?」

 

「うん、そうだよー。たくさん人がいるって聞いたから、倉橋さんだけじゃ大変でしょ?」

 

「ですね。ちなみにですけど、ご飯を作った後はご自宅にお帰りになるんですよね? まさかこの家で寝泊まりするなんて言いませんよね」


「あー、ごめんね。今日から2週間くらい、ここで寝泊まりさせてもらうから」


 なんなのまじで。

 あの人なんなの。


 せめて電話一本、いやメール一通でもいいから事前に伝えてくれればいいのに、それすら無し。


 ほんとなんなの?


「なんかここ最近、変態活動家の人が私のおウチのまわりをうろついてるみたいでね。理事長から言われたの。危ないから、しばらくの間ここのマンションに住みなさいって」


「そうですか……」


 うんまあ、事情は分かったけど……。


 叔母さんは本当に何を考えてるんだろ。

 普通にホテルでも紹介すればいいのに、なぜわざわざここに呼び込む?

 

 自分がいないあいだ、このマンションにどれだけ住人を詰め込んだら満足するんだ?

 

 と。


「連城君。ちょっと」


 背後から小声で呼びかけられ振り返ると、廊下からわずかに顔を出し手招きしているナギサ先輩の姿が見えた。


 なにか話があるらしい。

 それも内密なものが。


 まあタイミングを考えると先生のことだろうと予測をつけつつ、彼女が寝泊まりしている廊下の奥にある部屋へ。


「もしかしてナギサ先輩は知ってました? 宇佐先生が今日からここに泊まるって」


 ドアをきっちり閉めてから尋ねると、彼女は苦笑いしていた。

 

「私もついさっき聞いたよ。ちなみに宇佐先生にこのマンションに泊まるよう連絡したのは理事長だけど、実際は城鐘室長の判断だったようだね」


 室長が?

 

「……理由は聞いてます?」


「うん。革命軍から狙われる可能性があるから、だってさ」


「革命軍に? ……まああり得るかもですけど」


 そもそも宇佐先生が疑われた理由は、革命軍にとって有益な行動がとれる立場だったから。

 革命軍がそのことに気付けば、味方につけようと考えてもおかしくない。

 

 だから保護しようという発想も理解はできるんだけど……。


「表情が冴えないね。なにか懸念事項でもあるのかい?」


 先輩に顔色を読まれてしまったようだ。

 別に懸念事項があるわけではないが、不満があることは否定できない。


 変に勘繰られる前に、ここは素直に白状しておこう。


「いえ、そういうわけではないんです。ただいくらなんでも室長たちの手のひら返しが露骨すぎて、それがモヤモヤするというか。宇佐先生のことを革命軍の一員かもと疑ってたのに、今度はいきなり保護しようとしてるわけでしょう? まあ、結果的に革命軍とは無関係と分かってくれたのなら、別にいいんですけど……」


 単なる愚痴に過ぎないという自覚はあったので、俺の声はだんだん小さくなっていく。

 

 実際、「一度疑ったからには一生疑い続ける」なんて言われても困るからな。

 君子豹変すというし、このくらい素早く間違いを認められないと、特別対策室の室長なんてやってられないのかもしれない。


「ふむ……」

 

 けれどナギサ先輩の表情は露骨に曇っていて、その反応に逆に焦ってしまう。


「あ、もちろん室長の判断に文句があるとかじゃないですから。宇佐先生が泊まることになった以上、きちんと歓迎もしますし」


「いやそうじゃなくて」


 ナギサ先輩は首を振る。

 そして考え込むような態度を見せた。


「君の言うとおり、たしかに今回の室長たちの動きは奇妙だ。いまいち腑に落ちない」


「はあ、まあ。たしかに不自然だなとは思いますけど」


「そう、まさしく不自然だよ。そもそもの話として、なぜ君に宇佐先生の調査を依頼したんだろう? 革命軍の可能性があるのなら、いくらなんでも危険すぎる。いつもの室長なら君に調査を依頼したりせず、むしろ先生から距離を取るよう指示を出したはずだ」


 それは……そうかもしれない。

 

 そもそも室長が俺に調査を依頼してきた理由は、自分たちでは学園内での先生の動きを追えないからというものだった。

 逆に言えば、学園内で俺の身に危険が迫っていても、室長は気づくことができないということで。


 さすがに学生相手に、そこまでの無茶をさせる人ではないと思う。

 

「でも実際、先生の調査を依頼してきたんですよね……」


 そうなると、思い浮かぶ理由はひとつだけ。


「室長は、宇佐先生が危険人物じゃないと分かっていて……だから俺に調査を任せることにした……?」

 

「あり得るね。学園と管理局は提携関係にある。当然、事前に革命軍との関連がないかの調査は行ってるし……学園の教師だって素行調査の対象だったと思う。まして、宇佐先生は、風紀担当だからね」


「念には念を入れて調査しているはずと……。でもそれなら、なんで俺に依頼なんて……」


「――別の目的があったのかも」


「別の目的……?」


「例えばだけど、宇佐先生を調査して欲しいという室長からの依頼がなかったら、君はどうしてた?」


「それは……」

 

 想像する。

 あれはたしか、ドレッド・ハラスメントが解放された直後だった。


 だとすれば当然……。


「ドレッド・ハラスメントの行方を追ったと思います。あの時は、彼女のことで頭がいっぱいだったので」


「ふむ。……ドレッドさんは今も姿をくらましているが……つまり室長としては、彼女を探して欲しくなかったのかな? そして、だからこそ君に偽の目標を与えた……?」


「俺がドレッド・ハラスメントの潜伏場所を見つけないように? でもなんでそんなことを……」


 ふたりで考え込む。


 答えが出ないまま、しばらくそうしていたが……先輩の顔が不意に緩んだ。


「まああくまでも仮の話だし、あまり考えてもね。それより君に朗報があったんだ」


「朗報?」


 たしかに先輩は明るい表情を浮かべていた。

 もしかすると俺を手招きしていたのも、朗報を伝えるためだったのかもしれない。


「ようやくラビュとゆら君の退院が決まったんだ」


「本当ですか!?」


 それは確かに朗報だ。

 やけに入院が長引いていたから、催眠の後遺症が深刻なのかと心配してたが、杞憂だったらしい。


「彼女たちとは明日にでも会えるよ」


「おお、それは早い……ん、明日? でも明日って休みですよね?」


「ふふふ……そうだね。学校はお休みだね」


 ナギサ先輩はそう言って、意味ありげに微笑むのだった。

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