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見習い管理官・連城光太郎とハーレム狙いの少女たち  作者: 阿井川シャワイエ
第3章 変態パラダイスマンション

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第80話 疑惑の先生(前編)

(どうしたもんかね……)


 放課後の校舎を歩きつつ、俺は内心頭を抱えていた。


 悩みのタネは宇佐先生だ。

 今日も彼女の行動におかしな点がないか探るつもりだったが、帰りのホームルームが終わった途端、一目散に職員室へ入ってしまった。


 こうなってしまうと様子を探るどころか、怪しまれずに近づくことさえ困難だ。

 

(とりあえず、ナギサ先輩の協力を扇ぐか。適当に用事をでっち上げて、職員室の中に入らせてもらおう)


 それは我ながら名案のように思えた。

 しかし問題はそこから。


 職員室に入ったあとは契約関係の書類を確認したいところだが、学生相手にそんなもの見せてくれるはずがない。

 そして見せてくれたとしても、その妥当性を判断することができない。

 

(証拠を集めるって言っても、あまりに漠然としてるんだよなあ……)


 今更ながらそんなことを思う。

 

 城鐘室長も、俺が即座に手詰まりになることくらい予想していただろうに、その打開方法はこちらに丸投げというのはさすがに無責任すぎないか?

 いつもなら二の手三の手まで用意するタイプなだけに、どうにも違和感があるんだよな。

 

 などとグチグチ考えつつ、第三会議室の扉をあけた。


「ああ、来たね」


 朗らかに声を掛けてきたのは、ナギサ先輩だ。

 いつもなら部屋中を動き回っているのに、今日は珍しくソファに悠然と腰掛けている。

 

 そしてそんな彼女の背後には、涼月委員長と明星先輩の姿も見えた。

 

 ふたりとも風紀委員の仕事に追われているらしく、明星先輩は部屋の隅でパソコンに向かっていて、委員長は中央の机で書き物をしている。

 

「お疲れ様です。なんか久々じゃないですか、風紀委員がこのタイミングで部屋に全員揃ってるなんて」


 それはなんの気なしに言った言葉だったが、明星先輩はディスプレイから目を離さずに苦笑していた。

 

「それはここ最近、おふたりが遅れてくることが多いからですよ。私もやよいちゃんも、この時間は皆勤賞なんですから」


「ああ……」

 

 言われてみればそうかもしれない。

 ここ一週間ほどは宇佐先生の様子を探っていたこともあり、会議室に顔を出す時間が遅れがちになっていたのだ。

 

「もっとも家で顔を合わせているから、特に久々という気もしないがな。むしろ会う頻度が高すぎてなんだか奇妙な感覚だ。むずがゆいというかなんというか」


 本当に痒くなってきたのか、机から顔を上げて自身の身体をさする委員長を見て、ナギサ先輩は愉快そうに笑みを浮かべる。

 

「たしかにね。ここで別れてもまた家で会うんだから、もはや家族といっても過言じゃないよ」


「あら嬉しいですね、ナギサちゃんと家族だなんて。ちょうど妹が欲しかったんです」


「同い年なのになぜ妹……そもそも生まれ月でいくと私の方が――」


 ――コンコン。

 

 先輩たちの会話を断ち切るように、会議室にノックの音が響いた。

 

 全員の視線が入口の扉に集まるなか、わずかに開いた隙間から顔をのぞかせるのは、どこかおどおどした態度の女性。


 宇佐先生だ。

 風紀担当教員とはいえ、ここに来るのは珍しい。

 

「あ、良かった。みんな揃ってるね」


「お疲れ様です、先生」


「うん、おつかれさまー」

 

 あどけない笑顔で部屋に入ってくるその様子は、人畜無害そのもの。


 やっぱり革命軍の一員とは思えないよな……。


 そんな彼女は部屋の奥にある窓の前に立ち、注目を集めるためだろう、パンと両手を打ち鳴らす。

 どこか子どもっぽい仕草だが、体格の良い彼女がやると、なかなかの迫力だ。

 

「えー突然ですが、本日は管理局より素敵なゲストの方に来ていただいてます」


 ゲスト?

 それも管理局から?


 ナギサ先輩をチラリと見たが、首を左右に振っている。

 彼女も聞いていないらしい。


 一方の宇佐先生は、戸惑いを隠せない俺たちを気にした様子もなく、入り口の扉に向けて叫ぶように言った。

 

「本日のスペシャルゲストは、特別対策室よりお越しの留岡管理官です! どうぞ!」


「え!?」


 留岡さんがゲストとして学園に来る?

 あの人、そういうのは絶対に嫌がるタイプだと思うけど……。

 

「どーも」


 でも軽く頭を下げながら会議室に入ってきたのは、確かに留岡さんだった。

 それもいつものアロハではなく、きっちりとしたスーツ姿。


 まるで軍人のようにキビキビした動作で入室した留岡さんは、入口の扉の脇に立ち、俺たちの顔を見回している。

 それはいかにも場慣れした、落ち着いた態度に見えた。

 

「えー、変態管理局・特別対策室所属、留岡です。本日はこちらの学園の理事長からの要請を受け、特別講師として伺いました。30分ほどのごく短時間の授業となりますが、実践的な変態捕縛法をお教えするつもりですので、よろしくお願いします」


 まあなんだかんだで常識的なところはあるし、流石に言葉遣いは丁寧だ。

 

 ただ――。


「これからの30分、俺と一緒に頑張りましょうね!」

 

 目が死んでる……。

 

 爽やかな挨拶とは裏腹に、瞳に輝きがまるで無い。

 貼り付けた笑顔の見本みたいだ。

 

 本当は嫌だったんだろうな、こういうの。


「そういえばヒャプル……いえ、華真知管理官が以前こちらに訪問した際、変態の捕縛方法について質問があったそうですね。体格のことを気にされていたとのことですが、捕縛に必要なのは勢いと技術です。腕力はさほど関係ありません」


 留岡さんの言葉を受けて、明星先輩は不思議そうに首をかしげる。

 

「そう……なんですか? 意外です」


「まあ言葉で説明されてもなかなか納得は難しいでしょうね。ということでさっそく実演の時間です」


「実演?」


「ええ。皆さんの中に潜む変態を、私が捕縛してみせましょう」


 変態を捕縛?

 それってまさか……。


 留岡さんは懐から素早く荒縄を取り出し、そして――。


「変態捕縛術、荒縄縛りっ!」


 鋭く叫びながら放った荒縄は、この場に潜む()()に向け一直線に進んでいき、見事に捕縛完了。

 

 あいかわらず見事な腕前だ。

 縛られた変態が俺でさえなければ、拍手を送ることができたのに。


「まあこんな感じです。捕縛に腕力は必要ないという意味は、分かっていただけたでしょうか」


「は、はい。たしかに軽く投げつけただけで、連城さんの身体に巻き付いたように見えました」


「ああ、こうもぐるぐる巻きにされれば、身動きをとることは難しそうだ」


「…………」

 

 先輩たちは素直に感心していて、俺が変態として縛られたことへのリアクションは特に無かった。


 なんだか寂しいが……でもまあそうだよな。

 重ね着女性にあんなに興奮したところを見られたんだ、変態扱いに違和感がなくて当然だよ。


「では皆さんにも、荒縄での捕縛に挑戦していただきましょう。頑丈な練習台を用意してますので、思い切りやってください。ちなみに慣れないうちは横薙ぎに振るのがおススメです。その際は、周囲に物がないかよく注意してくださいね」


 などと説明しつつ荒縄に縛られたままの俺に近づいてきた留岡さん。

 てっきり縄をほどいてくれるのかと思いきや、スッと俺の顔にゴーグルを掛けてきた。


「あの……これは?」


 尋ねると、留岡さんは小声で答える。

 

「これから不慣れなガキどもがお前に向けて縄を投げつけてくるんだ。目に当たると危ねえだろ」


「……もしかして、頑丈な練習台って俺のことですか?」


「意外だったか?」


「いえ、特には」


 実際、ここにいるメンバーの中で一番相応しいのは、どう考えても俺だ。


 留岡さんは、そんな俺を見てニッと笑う。

 話が分かるじゃねえかとでも言いたいのだろう。


「それでは、彼の心の準備もできたようですし、皆さん張り切ってどうぞ」


 留岡さんが合図を出すと、俺の前に明星先輩が進み出た。

 その手にはすでに荒縄が握られており、準備万端といった様子だ。


「で、ではいきますね」


 緊張気味な明星先輩は、軽く前傾姿勢になり、荒縄を持つ手に力を込める。

 そして――。

 

「エイヤっ! ……あ、うまくいきました!」

 

「うまいものじゃないか、瑠璃華。じゃあ次は私だ。……ほいさっ。おお、私も成功した」

 

「じゃあ最後は私だね。あまり自信は無いけど……たあっ! おっと、まさかの一発成功だ」


「わーみんなすごいすごい!」


 無邪気に喜ぶ宇佐先生だが……たしかにみんなすごいな。

 

 ハイテンポで俺の身体が荒縄でぐるぐる巻きになってしまった。

 というか、顔面がぼこぼこになる覚悟をしていただけに、誰ひとり失敗しないのは普通に予想外だ。


「チッ。皆さん筋が良いですね」


 留岡さんとしても全員が一発で成功するのは意外だったらしく、舌打ちが出ていた。


 いやでもそれはおかしくない?


「留岡さん、いま舌打ちしませんでした?」

 

「それがなにか?」


 まさか聞き返されるとは。

 猫を被っている今の留岡さんなら普通に謝罪してくるかと思っただけに、この返答は反応に困る。


 留岡さんは俺をしばらく眺めていたが、反論はこないと見切りをつけたらしく、先輩たちに向き直った。


「さて、一回うまくできただけで慢心してはいけません。何度も繰り返し練習しましょう。何度も何度も、腕が疲れて手元が狂うぐらいまでやらなければ本番でうまくいくはずがありませんからね」


 それっぽいことを言ってはいるが、これミスを待ってるだけでは?

 俺そんなに留岡さんの恨みを買うようなことしたか?


 ……まあ心当たりがないとは言わないけど。

 初対面の時とか、思いっきり挑発したし。


 なんにせよ留岡さんの言葉通り、俺を練習台にした特訓はその後も続いた。

 が、誰ひとり失敗することもなく、そのたびに留岡さんの顔がつまらなそうになっていく。


 ……この人あれだな。

 意外と指導者に向いてないな。

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