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見習い管理官・連城光太郎とハーレム狙いの少女たち  作者: 阿井川シャワイエ
第3章 変態パラダイスマンション

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第77話 異常が通常(後編)

「洗い物でしたら私もお手伝いしますよ」


「いえ、先輩たちはくつろいでてください。何人も並べるほど、広い流し台じゃないんで」


「そうですか……。ではせめて、お近くで洗い物をする姿を見学させていただいてもよろしいでしょうか?」


「え?」


 食器洗いを見学?

 料理を作るのならともかく、そんなのわざわざ見るようなこととも思えないが……。


 もしかして明星先輩って食器を洗う方法すら知らないような、とんでもないお嬢様だったり?

 

 まさかと言いたいが、あの学園の生徒だしあり得る。

 

「別に構わないですけど。でも、そんなに特別なやり方はしませんよ」


「はい、それで構いません。他のご家庭の洗い方って、意外と見る機会がないじゃないですか」


 そう言って流し台までついて来た彼女は、洗い物を始めた俺の真横に立ち、やけに真剣な表情でこちらを見てくる。


 ……なんかあれだ。

 洗い方を見たいと言っていたわりには、俺の手元というより全身に視線を感じるような気がするんだけど。


「……この角度?」


「んーどうせならこっちのほうが……」


 あとなんで柚子島とみなもまで見学してるんだ。

 ふたりでぶつぶつ言い合いながら俺の周囲をウロウロしていて、ぶっちゃけ邪魔だ。

 

 かなり気が散りながらも、俺は食器を洗い続けた。


 そして――。


「えっと……とりあえずこれで終了ですね」


「あっ、はい」


 明星先輩の反応は鈍い。

 短時間で終わったこともあり、大して参考にはならなかったのだろう。


 ……いやでもどうだろ。

 よく見ると、なんだか彼女の顔が上気しているような……。


 もしかして風邪か?

 風邪でぼんやりしちゃってる?


「明星先輩、大丈夫ですか?」


「な、なにがでしょう」


「顔が赤い気がするんですけど、熱でもあるんじゃないですか」


「……っ!? そ、それは……その……」


 奇妙なほど動揺する明星先輩。

 体調不良の自覚でもあったのだろうか?


 彼女に一歩近づこうとすると――。

 

「おにいちゃん!」

 

 みなもが割り込むように身体を入れてきた。

 そして俺の腕をぐいっと引っ張る。

 

「ちょっと部屋でひと眠りしよっか!」


「いやなんでだよ。明星先輩が体調不良かもしれないんだぞ」


「先輩さんは大丈夫だって。ですよね?」


「あ、はい。特に体調に問題はありませんので……」


「ほら、本人もこう言ってるし。だから今はみなものお昼寝に付き合ってよ」


「なにわけの分からないことを――いやまてお前、これマジの奴じゃん。全力で引っ張ってるじゃん」


「だから本気でお昼寝したいんだって。ほらほら行くよ」

 

 やけに強引だ。

 なぜ、先輩の体調を心配してるタイミングでこんなワガママを……。

 

 いくらみなもでも、ここまで傍若無人な振舞いをするのはさすがにおかしい

 ……もしかして、俺になにか伝えたいことがあるのか?

 

 このタイミングで話があるというのなら、当然明星先輩の体調に関することだろう。

 

「先輩! 体調が悪いのなら、無理はしないでくださいね!」


「は、はい」

 

 念のため声は掛けつつ、みなもに引きずられるようにして自室に戻ることとなった。

 


「……それでどうしたんだよ。なにか話があるんだろ?」


 俺のベッドをボフボフ叩いて乱暴に整えているみなもに声を掛けると、彼女は不思議そうな顔でこちらを振り向く。


「え、ないよ?」


「は?」


「いやそんな不思議そうな顔されても……あたしそんなこと言って無くない? お昼寝したいって伝えなかった?」


「たしかに言ってたが……まじでそれだけかよ……」


 などと呆れたように言ってはみたものの、やはり違和感があった。

 みなもはなんだかんだで優しい子だし、病気の可能性がある相手を放置して、自分のわがままに付き合わせるとは思えない。


 となると、明星先輩が体調不良ではないという確信を持っていたということになるが……でもそんな確信、持てるようなものか?


「ほらほらおにいちゃん。早く来て」


「…………」


 なんかいろいろと考えてはみたものの、よく分からなくなってきたな。


 っていうかぶっちゃけ、かなり眠い。


 先ほどから度々睡魔に襲われてはいたが、どうやら限界が近いらしく、頭がぜんぜん回らないのだ。

 当然のように、まぶたも落ちてくる。


「すまん……ちょっと寝かせてくれ……」

 

 そうつぶやいた俺は、みなもの返事も聞かず、ベッドに倒れ込んだ。



 

「ん……」


 目が覚めると時刻は13時。

 我ながら驚くほどぐっすり眠ってしまった。


「うぉー……」


 身体を伸ばしつつ周囲を見回すが、今朝と同じくみなもの姿は消えていた。


 せめて部屋を出るときに起こしてくれればいいのに、なぜあいつはいつも無言で立ち去るんだ。


 寝すぎたせいか多少ふらつきながらベッドを抜け出す。

 と、鏡に映る自分の姿に違和感。

 

 俺……こんな派手なズボン履いてたっけ?

 Tシャツも、昨日風呂上がりに着たのとは別物のような……。


 ……ん?

 っていうかそもそも俺、どんな服を着てたっけか?

 

 なんか今朝起きてからというもの、不気味なくらい洋服に関する記憶がないんだが。


 しばしその場で考え込み――ゾッとした。

 イヤなことに思い当たったのだ。

 

 まさか俺……全裸でうろうろしてたんじゃない!?

 例によって例のごとく、寝ている間に服を脱ぎ散らかし、それに気づかないまま部屋を出たんじゃ……!?

 

 だとしたらマズい!

 だって今回はいつもと違って、先輩たちがいるんだ!


 全裸で先輩たちに……ん?


 いや待て……落ち着くんだ俺よ。

 

 全裸で先輩たちと会った?

 大丈夫。さすがにそれはない。

 

 だって部屋を出た直後にみなもと会ってるじゃないか。

 

 もし俺が全裸だったら、あの時に注意してくれたはず。

 それにリビングで遭遇した明星先輩や柚子島が、なにも言わないわけがない。

 

 全裸男がいきなり登場したら、悲鳴を上げるくらいのリアクションはあって当然。

 それが無かった以上、俺はなんらかの服を着ていたというわけだ。

 

 まあ、もしかしたら適当に身に着けた、生地ぺらっぺらの残念私服だったかもしれないが……とにかく全裸でさえなければ構いはしない。


 まったく、無意味にハラハラしてしまった。


 落ち着きを取り戻した俺は、きちんと洋服を着ていることをあらためて確認してから、不思議なほど爽やかな気持ちで部屋を出るのだった。

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