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見習い管理官・連城光太郎とハーレム狙いの少女たち  作者: 阿井川シャワイエ
第3章 変態パラダイスマンション

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第72話 同居の少女が増えました(後編)

「藤井さんには、一人暮らしをしてる学園生の子たちにご飯を作ってもらってたの。だから藤井さんが入院しちゃうと、この子たちも困っちゃうのよ」


「ん? そう……だったのか?」


 見回すと全員が頷いていた。

 

 藤井さんは意外と手広くやっていたらしい。

 

 でもまあそれも当然か。

 安定して家計を賄おうと思えば、不定期にウチに来てもらうだけじゃまるで足りないよな。


「あ、でもあたしはちょっと理由が違うかも」


 そんななか、ピッと手を上げる倉橋。


「違うってどういう意味だよ?」

 

「あたしね、もともと藤井さんからお料理を教わってて。だから入院するって聞いて、この機会に恩返しができたらなって思ったの。それで理事長先生に話してみたら、みんなと一緒に住んで食事作りの担当をしないかって」

 

「ほー、偉いな倉橋は」


 料理人志望というのは知っていたが、まさか皆に料理を振る舞うためにここに来ていたとは。

 

 実際、俺の雑な手料理で、この人数の食事を賄うのは明らかに不可能だ。

 かといって、各々で食事を準備するというのもさすがに味気ない。

 

 というか、こういう不本意な状況だからこそ、コミュニケーションは積極的に取るべきなのだ。

 一緒に食卓を囲み、親交を深めたほうが結局は居心地の良さにつながると思う。


 倉橋の料理の腕前は知っているし、これは心強い味方かもしれないな。


「ひかりちゃん、お料理が作れるの? すっごーい!」


 知っている顔だからだろうか、みなもも打ち解けた様子を見せている。


「そうかな? えへへ」

 

「実はあたしも、きちんとお料理覚えたいなって思ってて」


「あ、そうなんだ。もし良かったら、教えてあげよっか?」


「いいの? わーい」


 甘えるような声をあげたみなもは、再び叔母さんに向き直る。


「急に同居人が増えるなんて、私そんなの認めないから! 全員出て行かせてよ!」


「お前いまの流れでよくそれが言えたな。鬼か?」


「鬼なのはお母さんのほうじゃん! あたしだって本当は、みんなの前でこんなこと言いたくないし!」


「それはまあ……」


 (たしな)めてはみたものの、今回ばかりはみなもに同情してしまう。

 全員と顔見知りの俺ですら面倒だと思ってしまうのに、よく知らない連中と急に同居なんて、悪夢としか思えないだろう。


 しかも叔母さんは事前に説明することなく、すでに決まったこととして押し通そうとしているのだ。

 

 そのあまりの不誠実さに、カッとなって暴言を吐くのも仕方が無いとは思う。

 

「うーむ、思いのほか我々は歓迎されてないみたいだな」


 困惑気味につぶやいているのは風紀委員長の涼月先輩だ。

 おそらく事前に話が通っていると考えていたのだろう。


 というかそれが当然だし。


 明星先輩も委員長の隣で苦笑気味に頷いている。


「仕方が無いですよ、やよいちゃん。プライベート空間にズカズカ足を踏み入れたのは私たちのほうですから」


「まあそういうことだな」


 荷物が入っているであろう大きなバックを持ったまま所在なさげにしているふたりを見て、みなもは慌てていた。


「ああいえ、先輩たちは悪くないですから気にしないでください。悪いのはきちんと説明してくれなかった、うちの母なんで」


「いやしかし、そうは言うが……」


「おふたりが着てる制服って、学園のですよね? あたしも来年は通いたいなって思ってて、もし合格できたら先輩さんじゃないですか。いろいろ教えてくださいよ」


「ほう、そうなのか。君みたいにしっかりした後輩なら、無論大歓迎だ。我々でよければ、なんでも聞いてくれ」


「本当ですか? わーい」


 そう無邪気に喜んだみなもは、叔母さんに向き直る。


「急に5人も同居人を増やすとか、どうかしてるんじゃない!? もう少しあたしたちのことも考えてよ!」


「おまえ情緒不安定すぎるだろ……」


「この状況で情緒が安定する方がおかしくない!?」


 まあ、それはそう。

 俺が否定できないでいると、みなもはさらにいきり立つ。

 

「みんなが出て行かないんだったら、あたしが出ていくから!」


「まあ待て、まあ待て」


 本当に部屋を飛び出そうとするみなもの腕をサッとつかみ、背後から抱き寄せる。


「気持ちは分かるが、一旦落ち着け。みんなもびっくりしてるだろ」


「…………」


 ん?

 もっと暴れるかと思いきや、なんか急に動きが止まったな。

 俺の腕の中でじっと縮こまっている。

 

 ありがたいんだけど、なんだか不気味だ。


「光太郎、ありがとね」


「いやまあ、別に」


 気まずそうな叔母さんに、あいまいに頷く。

 みなもはそんな俺を不思議そうに見上げていた。

 

 なるほど。

 みなもとしては、味方のはずの俺が叔母さんに反発しないことに違和感があったのだろう。


 実際、心情的な話をすれば、俺はみなもの味方だ。

 にもかかわらず叔母さんを責める気になれなかったのは、経緯がなんとなく読めてきたから。


 今回のあまりにも急で、どう考えても無茶すぎる同居話。

 その発端は管理局が叔母さんに持ちかけた出張だった。

 

 となると、ある疑惑が思い浮かぶ。

 

 ――これこそが城鐘室長が言っていたご褒美なのでは?


 おそらく叔母さんに管理局から出張話が来たのは、実際はもっと前だったのだろう。

 

 そう考えれば、柚子島や先輩たちの準備がやたらと万端なことも理解できる。

 

 今朝叔母さんから連絡が来たとして即お泊まりの準備なんてできるもんじゃないし、事前にそういう話があったと考えるのが当然というわけだ。


 そうなると問題は、城鐘室長はどういうつもりでこの同居生活をセッティングしたのかということだが……。

 あの人のことなので、「美少女たちとの同居自体がご褒美だ」などという、子どもじみた発想ではあるまい。


 おそらくこの機会に、連城村復活に協力してくれる仲間を増やせと言いたいのだろう。

 

 そしてそういう視点で考えると、今回集まったのはどこか納得感のある人選といえる。


 そもそも協力者であるナギサ先輩は言うまでもないが、常に薄着でノリの良いギャルである柚子島は、うまく説得できれば全裸村の村人になってくれそうな気配を感じる。

 

 そして押しに滅法弱く、すぐ腰砕けになる委員長や、封殺術のセンスが光る倉橋あたりは、時間を掛けてきちんと村のことを説明すれば変態を管理する側として勧誘できそうだ。

 もともと管理側の人材は、管理局からの引き抜きを考えていたが、気心の知れた同年代の人間を説得した方がいろいろと楽だしな。

 

 ただ……明星先輩はさすがにどうだろう。

 かなりまともな印象の人だし、勧誘は難しい気がする。

 でもまあ、このメンツに入っているんだ。

 もしかすると一流の管理官の視点だと、変態として見込みがあったりするのかもしれないな。


 ――そうやって俺が皮算用していると、叔母さんがみなもに申し訳なさそうな顔を向けていた。

 

「無理を言ってるのは私だって分かってるわよ。だからちゃんとみなもへのご褒美も考えてるから」


「……ご褒美?」


「そうよ」


 財布からペラペラの紙を取り出した叔母さんは、機嫌をうかがうように軽く微笑みながら、みなもにその紙を差し出す。

 

「はい、これ。『なんでも言うことを聞く券』」


「なんでも言うことを聞く券……!?」


 なんて古風な。

 っていうかそれ、幼い子供が親に渡すタイプのやつじゃん。

 親が子どもに渡すパターンとかあるんだな。


「なんでもって……本当になんでも?」


 でも効果は抜群だ。

 みなもは明らかに食いついている。

 

 考えてみれば、大人がなんでも言うことを聞くって結構えぐい。

 

「大抵のことは聞くつもりだけど、『同居の話を無しにして』とかはダメよ。それ以外でお願いね」


「えー……」


 それを言うつもりだったのか、みなもは不満げな表情。


 とはいえごねるつもりもないらしく、そのまま無言で考え込んでしまった。

 お願いを吟味している様子のみなもを見て、叔母さんは満足げに頷く。


「じゃあ、納得してもらえたみたいだし、私は早速出かけるわね。あとのことはよろしく頼むわよ、光太郎」


「え!? よろしくって言われても――」


 慌てて呼び止めようとするが、俺が言い終わるより早く、叔母さんは玄関の外へと消えていた。

 

 ……ぶっちゃけあの人もどうかしてるよな。

 いくら管理局から依頼があったとはいえ、女子の集団に男子高校生をひとり放置して、よく呑気に出掛けられるものだ。

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