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見習い管理官・連城光太郎とハーレム狙いの少女たち  作者: 阿井川シャワイエ
第3章 変態パラダイスマンション

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第69話 従妹の恋愛は拙速を貴ぶ

「ふわああ」


 眠気をこらえて机に向かっていたが、とうとう耐えきれずあくびが出てしまった。

 お風呂からあがった後も、しばらくの間は真面目に勉強に取り組んでいたが、疲れのせいか集中力が完全に切れてしまったようだ。

 

 まあ、仕方がない。今日はいろいろあったもんな。


 ドレッド・ハラスメントが目の前で釈放されてしまったうえに、宇佐先生が革命軍の人間かもしれないという信じがたい話を聞かされて。

 そのうえ家に帰ってようやく憩いの時間かと思いきや、お風呂にみなもが乱入してきて、裸でくっついてくるし。


 全部違う方向性の衝撃だったが、ある意味最後のが一番ヤバかった気もする。

 

 みなもにしてみればいつもの軽いノリでへばりついてきただけなのだろうが、ああいうのは本気で困る。

 今後のことを考えると、ああいう行動をしないようきちんと注意しておきたいが……でも伝え方が難しいよな。


 下手な表現だと変態的に聞こえてしまうし……。

 いや俺が変態なのは間違いないんだけど……。


 手に持っていたペンを机の上に転がし、どう伝えるべきか頭をひねっていると、コンコンとノックの音。

 そして静かに扉が開く。

 

 見ると、みなもがおずおずとドアの隙間から顔をのぞかせていた。

 

「お、お兄ちゃん……」


「来たか」


 実のところ、この展開は予想できていた。

 叔母さんの帰りが遅い日はひとりで眠るのが不安になるのか、いつもこうして俺の部屋にやってくるのだ。


 なんだかんだいってもみなもは中学生、まだまだ子供だもんな。


 ……まあそんな子どもにお風呂でくっつかれて動揺したのが俺なわけだが。


「怖くなったんだろ。一緒に寝るか?」


「うん……」


 珍しく素直な反応だ。

 普段なら「は? そんなわけないんですけど」と反発から始まるのに。


 まあでも一緒に寝るという結果は同じなので、手間が省けて助かる。


「なら、先に布団入ってろよ。俺はもう少し勉強してるから」


「うん」


 やはり素直だ。

 みなもはコクンと頷いたあと、自室から持ってきた水色の枕を手に、俺のベッドに潜り込んでいる。


 ……どうやら、お風呂場での俺の邪念については気づかれなかったようだ。

 

 それはそれで助かったが、しかしこいつはもう少し男という生き物に対する警戒心を持つべきだと思う。


 特にべたべたひっついてくるのは、わりと本気で困るんだ。

 親がいなくて寂しい気持ちは分かるだけに無碍にもできなくて、そういう意味でもいろいろと困る。


「すぅ……すぅ……」


 もやもやした気分のまま机に向かっていると、ベッドから健やかな寝息が聞こえてきた。

 

 良かった、さっさと寝てくれたか……。


 どうせ勉強には集中できていなかったし、俺も眠りにつくとしよう。

 

 トイレを済ませ、部屋の電気を消し、先客がいるベッドへ。


 そこで気付いたが……みなものヤツ、俺の枕を使ってんな。

 さっきまで抱えてた自分のはどうしたんだ。


 まあいい。腕枕で寝よう。


 自慢じゃないが、俺はどんな体勢からでも眠りにつけるからな。

 ……実際今だって、早くも睡魔が襲ってきて――。


「むにゃむにゃ!」

 

「ぐっ……!?」


 こいつ、むにゃむにゃ叫びながら俺の腹の上に思いっきり足を乗せてきやがった。

 相変わらず寝相が悪い。


「んう~」


 そしてもごもご言いながら、俺に身体を寄せてくる。

 

 ふわりと漂う女の子特有のいい匂い。

 

 そして背中に回される彼女の両手。

 目の前に迫る綺麗に整った顔立ち。


「…………」


 まじでこいつさあ。

 俺のことをぬいぐるみか何かと勘違いしてるんじゃないだろうな。


 寝ているとはいえ、恐ろしいほど密着してきやがって。


 ため息をつきながら彼女の身体を引きはがし、再び目を閉じる。


 と。


「ねえ、おにいちゃん」


「うおっ」


 ビビったぁ……。

 暗闇の中でいきなり聞こえてくる女の子の声って、マジでホラーだわ。

 

「す、すまん。起こしたか?」


「んーん」


 軽く首を振ったみなもは、再び俺にすり寄ってきた。


「……ねむる前に、ちょっとお話ししてもいい?」


「ああ、いいぞ」


 まだ寝ぼけているのか、妙に甘ったるいしゃべり方をする。

 こういうときのみなもは、本当に可愛い。

 

 いや、普段も可愛いんだけどな。

 

「あのね、おにいちゃん」


「なんだよ」


「私ね…………好きな人がいるの」


「……ほう」


 そういう方向性?

 

 もっとほんわかした話題になると思っていたのに、一瞬で目が冴えてしまった。

 

「それって、俺も知ってる相手か?」


「うん」


「……ほ、ほーう」


 マジでそうなんだ。

 とりあえずで聞いてみただけなんだが。


 しかし誰だ……?

 ショーゴたちとは面識がないはずだし、それ以外だと……いやちょっと思い浮かばないな。

 まさか特別対策室の面々でもないだろう。


 みなものクラスメイトを紹介された記憶も無いし……。

 うーん……?


 薄暗い部屋の中、みなもがつぶやく。

 

「ねえ、おにいちゃん。あたしの恋愛、応援してくれる?」


「…………」


 その言葉に、自分でも意外なくらい心がざわついた。

 どうやら俺は、応援なんてしたくないらしい。


 とはいえ彼女も必死の思いで話してくれたのだろうし、応援しないなんて返事はあまりにも狭量だ。


 いつも俺にべったりひっついてばかりのみなもに、好きな人ができる。

 これは絶対に良いことなのだ。

 

 他の誰が反対したって、俺だけは味方になってやらないと。

 

「そんなこと聞くまでも無いだろ。みなもが好きになった相手なんだ。もちろん俺だって応援するさ?」


「なんで最後疑問形なの?」


 嫉妬心のあらわれですかね。


「すまん、変な言い方になった。もちろん俺だって応援する。当然だ」

 

 言い直したが、みなもはベッドの上でもぞもぞと動き、不安そうに見てくる。

 

「でも……あたしの好きな人の名前を聞いたら、お兄ちゃんはもしかしたら反対するかも」


 え、そんな感じなの?

 俺が反対する相手……マジで誰だ?

 

 そもそも俺とみなもの共通の知り合いで、男っていうのが少ないんだよな。


 しかも反対するような相手って……。


 考え込む俺を見て、みなもの手が不安そうにシーツを握りしめていた。

 

「お兄ちゃんはさ、あたしのこと好き?」


「そりゃあ好きだけど」


「あたしもお兄ちゃんのことが好きだよ」


「お、おう。ありがとう」


 なんか怖い。

 こんなこと、普段であれば絶対に言わないのに。

 

 まじで誰だよ。

 ぜんぜん思い当たらねえよ。

 

「な、なあ。そんなにアレな相手なら、告白は当分のあいだ見送ったほうがいいんじゃないか? 淡い恋の思い出として、大切に心の奥に仕舞っておいても――」


「え? 告白ならもうしたよ」


「は!?」


 あれ、てっきりまだかと……。


「じゃあ今は、返事待ちってことか?」


「ううん、返事ももらった。その人もあたしのことが好きなんだって」


「はあ!? それなら普通に両想いじゃん!」


 『好きな人がいる』じゃなくて『恋人ができた』の間違いじゃん!

 俺の想像より数段先に進んでんじゃん!

 

「やっぱりそう思う?」


「な、なにがだよ」


「私が好きって言って、相手の人も好きって言ってくれたら、それって両想い?」


「それは……そうだろ」


「つまり恋人ってこと?」


 その言葉に頷くのは躊躇いがあったが、でもみなもの瞳は薄暗い部屋の中でもキラキラと輝いていて、曇らせる気にはなれなかった。

 

「まあ……そうなんじゃないか」


「やった!」


 みなもはベッドの上ではしゃいでいた。

 そして俺に抱きついてくる。

 

「じゃああたし、今日からおにいちゃんと恋人だね!」


「…………………………ん?」


 俺と恋人…………ん?


「なに不思議そうな顔してんの? おにいちゃんが言ったんじゃん。お互いに好きって言い合ったら、両想いで恋人だって。だからおにいちゃんとあたしも恋人でしょ?」


「……」


 何を言っているのか、まるで理解できなかったが。

 でも付き合いが長いせいだろうか、俺の頭にひらめくものがあった。

 

「……それはつまり、さっきのやつか? 家族の絆を確かめ合う感じで言い合った、さっきのやり取りのことを言ってるわけか?」


「あたし、おにいちゃんにきちんと『好き』って伝えたよね」


「……まあ、そうね」


「それでおにいちゃん、あたしのこと『好き』って言ってくれたよね?」


「……まあ、そう。それはそう」


「つまり両想いで、だから恋人だよね?」


 さらりと言ってくるみなもだが、俺はさすがに首を振った。


「そういうのとは違うだろ。さっきの『好き』は、あくまでも家族愛的な意味だ。みなもだって、分かってて言ってるだろ?」


「うん、分かってるよ。ちゃんと全部分かってる。おにいちゃんは、あたしのことが大好きなんだよね?」


「だからそれはあくまでも家族として――」


「でも裸のあたしにくっつかれて、おもっきしドキドキしてたじゃん」


「…………」


 ばれてた……。

 

「いや、それはあれだ。俺がどうこうじゃなく、みなもの教育上この状況はよろしくないと思って動揺してしまっただけで……」

 

「でもおにいちゃん、あのとき『うぉっふー! みなもの身体、やわらけーっ。でゅふふ、もう我慢できねぇー』ってなってたじゃん」


「なってない」


「じゃあ実際はどうなってたの?」


「………………」

 

 そんなこと言えるわけが無い。

 沈黙を選ぶ俺を見て、みなもは呆れたようにため息をつく。

 

「あのね、おにいちゃん。ここは警察とは違うの。恋愛において、黙秘は悪手だよ」


 それはたしかにそんな気がする。

 だがそれでも自白するよりよほどマシだ。


 説得に応じることなく、「沈黙は金」を実践する俺を見て、みなもは諭すように語り掛けてきた。


「っていうか、むしろなんでおにいちゃんはそんなにあたしの告白を拒否するわけ? あたしたち別に兄妹じゃないじゃん。ただ同居してるだけの従妹。つまり結婚したってなんの問題も無いわけ」


 そう。たしかに俺とみなもが結婚するという一点について考えればその通りではあるだろう。

 でも俺にはすでに愛を誓った相手がいるのだ。


 みなもとの結婚には、支障しかなかった。

 

「悪い、みなも。俺はラビュと付き合ってるんだ。だからお前の気持ちは嬉しいけど――」


「本当にその言い訳でいいの?」


「な、なにがだよ」


「連城村って、たくさんの人と結婚できるハーレム? 多重婚? みたいなのが認められてるんだよね?」


「…………」

 

 認められてます。

 というより、推奨されています。


「おにいちゃんだって、たくさんの人と結婚するのが悪い事だとは思ってないよね?」


 思ってません。

 むしろ、そうしない意味が分かりません。


「つまりおにいちゃんの気持ち的には、ラビュにゃんこ先生と結婚したうえであたしと結婚しても、なんの問題もないんじゃないの?」

 

 そう、だから結局はそういう結論になる。

 俺にとって、1対1の結婚制度こそ理解ができないのだ。


 ……ただ正確に表現すれば、それはあくまでも俺が村にいた頃の考えで。

 ラビュへの嫉妬心が芽生えた今の俺としては、かなり揺らいでいたりする。


 そしてさらに言うのなら、多重婚云々というのはあくまでもあの村の理屈でしかない。

 連城村で暮らしたことの無いラビュやみなもに、あの村のやり方を押し付ける気は無かった。

 

「……俺はラビュを幸せにすると決めたんだ。本人が入院してるっていうのに、他の女の子にふらふらしてる場合じゃないだろ」


「じゃあラビュにゃんこ先生が退院したら、ちゃんと考えてくれるってこと?」


「そういうわけじゃ……っていうかどうして俺なんだよ。男なんていくらでもいるだろうに」


 話を逸らすが、みなもはそんな俺をまっすぐ見つめてくる。


「男の人がこの世界に何人いても関係ないよ。あたしにとって特別なのはおにいちゃんだけ。ずっと一緒にいてくれたし、ずっとずっと好きだった」


「お前のそれは、家族愛と恋愛感情がごっちゃになってるだけだって」


「それってなにかダメなことなの? 恋人だっていずれは結婚して、家族になるよね。そしたら結局、恋愛感情と家族愛がごっちゃになるんじゃないの? その状況でうまくやってる人なんていくらでもいるし、別に否定するようなことじゃなくない?」


「…………」

 

 言い返そうと思ったが、たしかにそうだなあと思ってしまった。

 

 みなもは本当に口が上手い。

 というか俺を説得するのが上手い。


 俺は諦め半分に呟いた。

 

「……お前さ」


「うん?」


「なんで急にそんなグイグイくるんだ? 今までそんな感じじゃなかっただろ」


「おにいちゃんが、あたしのこと女の子として見てるって気付いたから?」


「……」


 つまり、あれか。

 お風呂場で俺が邪な気持ちを抱いたことに気付いて、勝機アリと見たわけか。


 それなら徹頭徹尾俺が悪いんじゃん。

 あの状況で俺が心頭滅却できていれば、いつもと変わらぬ平和な日々が続いてたんじゃん。

 

「っていうか、さっきから話をそらしてばっかりだけど、おにいちゃんはどう思ってるの、あたしのこと」


「それは……」


「それは……?」


 ごくりと唾をのみ、緊張の面持ちでこちらを見てくるみなも。

 どうも本気の答えを期待しているらしい。

 

 ……この状況で嘘はつけそうにない。


「みなもはさ――甘えん坊で寂しがり屋で意地っ張りで、でも実は優しくて気遣い屋で、なにより俺に懐いてくれる、世界一可愛い女の子だと思ってるよ」


「べた褒めじゃん……」


 なんか引かれてる。

 

 いやでも実際そうだろ。

 そもそも俺に懐いてくれるという一点だけでも、世界一可愛いとしか言いようが無いし。

 

「むしろなんでそのレベルであたしのことが好きなのに、いつも誰かに言われるたびに、『こいつは妹じゃない』って主張してたの」


「……俺の妹っていうと、お前まで連城村の出身と思われるかもしれないだろ。あの村が世間的に嫌われてるのは知ってる。お前まで巻き込みたくなかったんだよ」


「………………」


 みなもはしばらく沈黙してから、ぽつりとつぶやく。


「でもあたしは別に、連城村の出身って思われてもいいよ。だっておにいちゃん、あの変態村を復活させたいんでしょ」


「……っ!? なんで……」


「なんで分かったんだって聞きたいのかもしれないけどさ、そんなの見てれば分かるって」


「……そっか」


 前にも似たようなことを言われた気がする。

 俺ってよっぽど考えてることが分かりやすいタイプなんだろうな。


 そんなことを思っていると、みなもが俺の手をギュッと握りながら真剣なまなざしを向けてきた。


「とりあえず、恋人の件は保留で良いよ。ラビュにゃんこ先生の許可がいるのは、そりゃそうだよねって感じだし。ただ、村の復活の件は、あたしにも協力させて。絶対に役に立つよ。ね?」


 みなもの瞳を見つめながら咄嗟に思い浮かぶのは、否定の言葉。

 

 ただ冷静に考えると、彼女が連城村復活に協力してくれるというのは、かなり魅力的な提案ではある。

 

 みなもは裸になった俺と出くわしてもギャーギャー騒いだりしないし、村人の先輩であるナギサ先輩やラビュともきちんとコミュニケーションがとれている。

 ここからさらに村人が増えたとしても、みなもならうまくやってくれることだろう。

 

 ……変に意地を張っている場合ではないよな。


「協力してくれるのなら、マジで助かる。でも、本当にそれでいいのか? 俺はみなもと恋人になるつもりはないんだぞ?」


「それを聞いちゃうのがおにいちゃんの良い所であり、悪い所でもあるよね」


 みなもは呆れたようにため息をついている。


「でもまあ別に平気だって。ラビュにゃんこ先生が拒否したら、あたしも素直に諦めるよ。早いもの順だっていうのなら、納得もできるし」


「……そっか」


 彼女の言葉をそのまま受け止めていいものかは分からない。

 でも連城村復活に向けて、心強い仲間が増えたのは確かなようだ。


 ……ひとまずナギサ先輩には状況を伝えておこう。


 話が終わったことで安心したのか、うとうとし始めるみなもを見ながら、俺はそんなことを考えるのだった。

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