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見習い管理官・連城光太郎とハーレム狙いの少女たち  作者: 阿井川シャワイエ
第2章 ラビューニャ・ハラスメントとセクシュアルなお姉さんたち

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幕間 面会(後編)

「……その可能性は低いんじゃないかな」


 特別対策室の椅子に身体を沈み込ませながら、窓ガラスの外のビル群を眺め、城鐘室長がつぶやく。

 それは、革命軍が検察の上層部を完全に掌握しているのではないかという、俺の考えに対する返答だ。


 地下から13階に上がってきてすぐに城鐘室長に会えたのは運が良かったが……しかし、この答えは予想していなかった。


「俺としてはこのタイミングでドレッド・ハラスメントが解放される理由なんて、それくらいしか思いつかなかったんですけど……」

 

「ふむ、そうだね」


 室長はくるりと椅子を回転させると、物憂げな表情をこちらに向けた。


「私としてもドレッド・ハラスメントの解放命令が出たと聞いたときは正直驚いたが、それでもその理由については察しが付く。証拠が見つからなかったのだ」


「証拠……ですか?」


「ああ。この一週間、我々は警察・検察と協力して捜査を進めていたわけだが、ドレッド・ハラスメントが今回の件にかかわったという証拠が出なかった。そして今後も出る見込みがない。起訴の可能性が消えた以上、勾留しても無駄だと彼らが考えるのは、やむを得ないところだろう」

 

 これ以上余計な時間を使いたくなかった検察からの提案に、管理局が応じたというわけか。

 要は不起訴処分のようなもので、それなら即時の解放も頷ける。

 

 頷けるけれども、そもそも検察が出した結論については、納得しがたいものがあった。

 

「証拠が無いって……ラビュを拘束する際に使用したロープを押収したはずでは?」


 尋ねると、室長は軽くため息をついていた。

 

「確かにあれは怪しい代物ではあったが、結果的には何の変哲もない普通の縄だった。現場で彼女に実施した身体検査でもシロ。個人的にはこちらのほうが手痛かった。ラビュ君をカンリシャに変貌させるための何らかの道具――例えば薬剤に浸した仕掛け針などの所持を見込んでいたからね」


「……」


「当然、その場で廃棄した可能性も考慮して機械室もくまなく捜索したが何も発見できず、自宅の捜索でも違法な物品はなにひとつ見つからなかった。まあ、自宅の捜索に関しては本人からの提案でやった以上、特に意味のある話でもないが。なんにせよ彼女の拘束を継続する糸口すら見つからなかったんだ。これでは解放せざるを得ない」

 

「……機械室には監視カメラがあったはずです。彼女がやったことは、映像として残っているのでは? あれは糸口になりませんか?」


 絞り出した答えにも、城鐘室長は無感情に首を振る。

 

「むろん、録画内容については我々も確認している。だが映像に残っていたのは、御城ケ崎君がラビュ君を手早く拘束する姿と、そのラビュ君が拘束から解放された途端に常軌を逸した暴力性を発揮する姿だけ。ドレッド・ハラスメントはそのふたりに触れてすらいないし、催眠を使った様子もない。それは、『たまたまそこに居合わせただけ』と主張する彼女の言葉を裏付けるものだ。無論、関与を疑わせる発言があったという君の証言は信用するに値するが、残念なことに録音がない。そうなると、我々はともかく裁判官を納得させることは難しい。というより状況だけみれば、学園の設備を破壊したラビュ君こそがその責任を追及されかねない」


「それはラビュの意思じゃなくて……」


「気持ちは分かるがね」


 つぶやきつつ、気の毒そうな視線を向けてくる室長。

 どうも彼にとってはすでに終わった話のようで、まるで熱意を感じない。


 彼は陶磁器のカップにコーヒーを注ぐと、俺の前に差し出した。


「ドレッド・ハラスメントを起訴するために、監視カメラを証拠として差し出しても、そういう話にしかならないということさ。結局のところ、彼女が関与したという証拠がない以上、罰することはできないんだ。それは理解できるね?」


 理解はできる。

 だが納得はできない。


 だって、彼女は間違いなく今回の事件にかかわっているのに。


 それに、ドレッド・ハラスメントを再び拘束してもらいたい理由は他にもあった。

 

 ……父さんの監禁場所を聞けていない。

 もちろん素直に答えてくれるとは限らないし、そもそも知らない可能性があることだって分かってる。


 それでも聞くことさえできなかったのは、さすがに……。


「……不法侵入ならどうです?」


「ふむ」

 

 矛先を変えると、彼の表情も変わった。

 勝算を感じた俺は、前のめりでさらに言葉を続ける。


「あの時ドレッド・ハラスメントがいた場所は、学園の敷地内です。生徒の親だからといって、あんな時間に勝手に出入りしていいはずがない。旧校舎の、それも機械室ですよ? 用事があったとは考えにくいですし、彼女がそこにいたということ自体が不法侵入という犯罪の構成要件になるのでは?」


「着眼点は悪くないが、問題がある。それも致命的なものがね」

 

「致命的な……?」


 室長はふうとため息をついた。

 

「彼女は学園の正式な許可を得て、あの場にいたんだ」


「……は? それはどういう……」


 意味が分からないまま聞き返すと、室長は薄い冊子を机の上に放った。


 重機が並べられたカラフルな表紙には、ドレッド建設の文字が躍っている。


 ……これってまさか。

 

「彼女が代表を務める法人がある。地域に根付いた小さな建設会社だが……学園の消火設備に関する更新工事を請け負っていてね。あの日の深夜、機械室に点検に入ることもあらかじめ予定に入っていたそうだ」


「予定に入っていた……?」

 

 ドレッド・ハラスメントの動きは、当然管理局は把握していたはず。

 当然、法人の動きだって追っていたはずで……それなのに事件を防げなかったのか?


「君の言いたいことは分かる。そして実のところ、これらは全て後日判明した内容に過ぎない。事前におこなった我々の調査の網には、まったく掛かっていなかった。つまり……事件後に状況の辻褄を合わせた人物がいるはずだ。ドレッド・ハラスメントを庇うために、学園側の記録を改ざんした人物がね」


「それは……」


 寒気がした。

 彼の主張が成立するためには、学園関係者の協力は必要不可欠。

 それも、かなり上の立場の人間でなければ、記録の改ざんなんてできるはずがない。


 そうなると最も有力な候補は、学園の理事長でもある俺の叔母さん――。


「――宇佐(うさ)ひとみ」

 

「は?」 

 

 城鐘室長は、驚く俺の瞳をまっすぐ見つめた。

 

「知っているね?」


「……俺の担任です。たしかに知ってはいますけど……」

 

「あくまでも疑惑の段階だが、彼女は変態革命軍に所属している可能性がある」


「……」


 話の流れで、彼がそう言うことは予想できた。

 けれど、飲み込めるかというと別問題だ。


 先生が革命軍の人間?

 あのおどおどした、気の弱い先生が?


「機械室の更新工事については、彼女が窓口になっていたようだ。キミも機械室に入った時、違和感があったんじゃないか?」


「違和感……ですか?」


 ぼんやり答える俺を見て、城鐘室長は苦笑いを浮かべていた。

 

「いや、無理もない。考えてみれば、そんな状況では無かったか」


 そう言うと、彼は1枚の写真を懐から取り出し、机の上にのせる。

 

 そこには機械室が写っていた。広い部屋の奥にぽつんと機械が見える、そんな写真だ。

 

「あそこは常時、耳障りな機械音が鳴り響いていたという。しかし実際はご覧の通り、部屋の奥に小規模な消火設備が置かれているだけ。鉄扉を越えて轟音を響かせるなんて、到底できそうもない」

 

 ……確かにそうだ。

 見回りの際に近づいたことは幾度もあるが、階段の踊り場まで来た時点でごうんごうんと耳を塞ぎたくなるような轟音が鳴り響いていた。


 けれどそれは、ここに写っている機械に出せる音量とは思えない。

 となると……。


「地下には本来、もっと大きな機械が置かれていた?」


「我々は、革命軍の大規模な製薬施設がそこにあったと見ている。カンリシャへの目覚めを促進させる、なんらかの薬物を製造していたのではないかとね。あらためて調査したところ、2週間前の深夜、学園の校庭に大型の搬出トラックが数台止まっていたという目撃情報が出てきた。これもやはり設備更新工事の名目で許可が取られていたわけだが、その学園側の契約担当者だったのも宇佐教師だ」


「……」


 ドレッド・ハラスメントの会社と契約を交わした、学園側の担当者。

 たしかに胡散臭く思える。

 

 でもこの学園は理事長の権限がかなり強いはずで、宇佐先生が単独で契約できたとは考えにくい。

 

 そうなると、先生はただ上司の指示に従っただけということもありえる。

 

 というか、そう考えるのがむしろ妥当だろう。

 

「叔母さん……いえ、桜川理事長は……?」


「無論、調査対象ではある」


 彼はあっさりと頷いた。

 そして、先ほどよりさらに分厚い書類を放ってくる。


 視線で確認を取ってから、『報告書』と書かれた書類をペラペラとめくるが……軽く目を通しただけでも、不審な行動は確認できずという記載ばかりが目についた。

 

「彼女についてはかなり以前からマークしていてね。それこそ、君のお父上が逮捕されたころから、かなり高いレベルでの調査が続いていた。にも関わらず、不審な動きは一切確認できていない。ほぼシロ。それが我々の共通認識だ。まあ、万が一ということはあるから、現在も調査対象ではあるがね」


「……そうですか」


 ホッとはしたが、でも結局のところ問題は解決していない。

 叔母さんが無関係なら、宇佐先生が革命軍の人間という可能性が高まるからだ。

 

 もちろん先生の性格を考えれば、そんなことあり得ないと一笑に付したいところだが……。


「宇佐教師について我々が把握しているのは、あくまで状況証拠だけ。つまり、()()()以上の話ではない。――現時点ではね」


 そんなあやふやな話を俺にしてきた理由。

 さすがにその程度は、俺にも察しが付いた。

 

「……犯人である確固たる証拠を掴めということですか?」


「あるいは、彼女の疑惑を晴らせる確固たる証拠でも構わないが。学園内での動きを調査しようにも、我々では限界がある。可能な限りでいい。彼女の行動を気にしておいてもらいたい」


「……やるのは構いませんよ。先生の疑いを晴らしたいですし。ただ、疑惑を晴らせる証拠なんて出てきますか? それって悪魔の証明のような……」


「かもしれないね。ただ私は、光太郎君に期待してるんだ。君とドレッドハラスメントの面会を推したのは私だが、君は黙秘を続ける難攻不落のドレッドハラスメントから重大な証言をいくつも引き出してくれた。その情報は事態の把握に大いに役立つだろう」


「……重大な証言?」


「カンリシャについてだ」


「ああ……」


 言われてみれば、先ほどドレッドハラスメントとの会話内容を報告したとき、室長が一番興味を示していたのは、カンリシャが暴走する仕組みについての話だったな。

 かつての城守としての見解は是非とも聞いておきたいところだ。


「あれって本当なんですか? カンリシャは元々凄まじいパワーを秘めていて、精神に負荷がかかると理性を失って暴走するという……」

 

「初耳だね。ただ現実と符合する箇所が幾つもあるのはたしかだ」


「じゃあ彼女の言葉は真実?」


「……とも限らない。現実に起きた事例を、彼女なりに解釈した結果かもしれないだろう? その場合は辻褄が合うのは当然と言える」


 辻褄が合っているのではなく、辻褄を合わせただけ、ということか。

 その違いは微妙だが、やっぱり彼女の言葉を鵜呑みにするのはマズい気がする。


「まあなんにせよ、革命軍のトップの考えが分かっただけでも収穫だ。私などでは会話すらしてもらえなかったのだから、大手柄と言っていい。そんな君であれば、宇佐教師の疑惑についても素晴らしい成果を出してくれるだろうと、私は大いに期待しているんだ」

 

 城鐘室長はそう言って話をまとめにかかっていたが……なんかやけに大げさだな。

 俺が内心首を傾げていると、室長は陶磁器のカップを手に持ち優雅に微笑む。


「さて新たな依頼の話が出たところで、まずは前回の報酬について話すのが筋というものだろうね」


「報酬……ですか?」


 なんの話だ?

 見習い管理官は一応バイト代が出てるけど……たぶんそういうことでは無いよな?


 城鐘室長は、ハテナを頭に浮かべる俺を見て笑っていた。


「君は、ラビュ君を味方につけるという私からの依頼を見事に達成してくれただろう?」


「ああ……」


 そういえばそんな話もあったか。

 ラビュの勧誘は個人的な目的とも合致してたから、いつの間にか室長の依頼という認識が消えてしまっていたようだ。

 

「あんな出来事があった以上、今後ラビュ君が革命軍の側につく可能性はゼロと言っていいだろう。これは是非とも報いなければいけない。まあ詳細を伝えることができるのは後日になってしまうが……私からの報酬を楽しみにしていてくれたまえ」


 そう言って優雅に微笑みながらカップに口をつける城鐘室長だった。

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