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見習い管理官・連城光太郎とハーレム狙いの少女たち  作者: 阿井川シャワイエ
第2章 ラビューニャ・ハラスメントとセクシュアルなお姉さんたち

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第67話 闇夜に輝く金色の光(後編)

「変態捕縛術――荒縄縛(あらなわしば)りッ!」


 留岡管理官の手から勢いよく放たれた荒縄は、激しく波打ちながら標的であるラビュのもとへと猛スピードで突き進む。

 俺の直線的な『瞬着』とはレベルが違う、軌道を捉えづらい不可避の拘束技!


 が。


「あああッ!」


 咆哮と共に両手を振り下ろすラビュ。

 直後、荒縄が地面に突き刺さっていた。

 

 ……速すぎてよく見えなかったが、もしかして叩き落とした?


 凄まじい反射速度。

 思わず弱気になってしまうが……それでも今は、できることをやるしかない!


 気合を入れろ!

 全力で押し切る!


「痴漢封殺術・千手ッ!」


 全身全霊で放った無数の拳が、ラビュの身体に殺到する。

 うまく不意をつけたのか、彼女は無反応。

 

 このまま捕らえ――。

 

「があああああ!」


「ぐう!?」

 

 彼女が横薙ぎに軽く腕を振るっただけで、俺の身体ごと簡単にはじき返されてしまった。


 いやそれどころか……勢いが止まらない!?


 猛スピードで背後に吹き飛ばされた俺は、なすすべもなくコンクリートの壁に全身を叩きつけられる――その寸前。


「どっこいしょお!」


 木の幹のような太い腕が俺の背中に触れ、そして受け止めてくれた。


「っ! 助かりました!」


「なんのなんの」


 軽く首を振る獅子宮管理官は、まだまだ余裕たっぷりといった様子。

 しかしあの猛烈な勢いを右腕一本で抑え込んで見せるとは……本当に神業だ。


「ううむ」

 

 そんな獅子宮管理官は、荒縄を躱し続けるラビュを見て、難しい顔で顎を撫でている。


「捕縛術すら通用せんか。スピードとパワーを兼ね備えているというのは実に厄介だ」


「……ですね」

 

 苦いものを感じつつ、俺は頷いた。

 

 百戦錬磨の留岡管理官でさえ、ラビュの動きに翻弄されてしまっているのだ。

 実戦経験に乏しい俺では、力不足は明らか。

 

 そこには気合だけでは乗り越えられない大きな壁があって……。

 

 でも、こうやって距離を取って彼女の動きを観察することで、見えてきたこともある。

 ラビュはここまで、俺たちの動きに対して受け身の姿勢しか見せていない。


 あちらから積極的に攻撃を仕掛けてこないのなら、危険度はそこまで高くないだろう。


 距離を保ちつつ、『瞬着』で牽制。

 とにかく一対一の状況さえ避ければ、今の俺でも役に立てるはず。

 

 覚悟を決めた俺は、コンクリートの床を蹴り、その場から駆けだす。

 もちろん一直線に近づくような愚かな真似はしない。

 

 太い柱を目隠しにして距離を詰め、死角からラビュに向けて瞬着を放とうとした、その瞬間。

 

 留岡管理官が必死の形相でこちらを振り返るのが見えた。

 

「タメがでけえ! 大技が来るぞ!」


「……っ!」

 

 その場で横っ飛び。

 鳴り響く轟音に追い立てられるように地面を転がり、そして急いで顔を上げる。

 

 ……俺がつい先ほどまでいた場所。そこにラビュが立っていた。

 

 ――コンクリートの柱に、拳を突き立てた状態で。

 彼女は腕をゆっくりと引き抜き……その場に残される、球状のえぐれ。


 思わず戦慄する。

 その巨大な破壊痕は、まるで大きな鉄球をぶつけたかのよう。

 どう考えても素手で出せる威力ではない。


「ぼさっとすんな! 次が来るぞ!」


「!」


 いつの間にかラビュがこちらを向いていた。


 いや正確には俺のさらに背後。獅子宮管理官だ。

 先ほど俺を受け止めた場所から一歩も動かず、どっしりと構えた彼の姿をラビュは見ていた。

 

 そして……彼女の姿がかき消える。

 

「おっさん、避けろっ!」

 

「ふんっ、回避など笑止千万!」


 迎撃する気か!?


 獅子宮管理官は腰を低く落とし、やや前傾姿勢。

 そして静かに目を閉じる。


「がああああああああ!」


 ラビュの突進は、先ほどとは比べ物にならないほどの猛烈な勢い!

 コンクリートの床をえぐって進むその威力はまさに災害級!


 一方、獅子宮管理官は動かない。

 

 だが視界の端。留岡さんが動くのが見えた。


「変態捕縛術――荒縄縛りッ!」


「露出封殺術――瞬着!」

 

 合わせたのは咄嗟の判断。

 目の前を通り過ぎるラビュの脚には狙い通り下着が絡まり、両腕にはロープがまとわりつき――それでも彼女の勢いは衰えない。


 脳裏をよぎるのは、コンクリートの柱すらもえぐる凶悪なパワー。

 あんなの食らったら、ひとたまりもない……!


「獅子宮管理官っ……!」


「ぬうん!」

 

 俺の呼びかけに応えるようにカッと目を見開いた獅子宮管理官は、向かい来るラビュの拳に対し両手を突き出す。

 

 そして軽く身体を引き、タイミングを合わせ――気合一閃!

 

「どすこおおおおおおいっ!」


「があああ!?」

 

 正面からぶつかった!?


 部屋全体が揺れるほどの衝撃に、足がもつれる。

 そして部屋中に舞い上がる砂ぼこり。


 ……あの勢いで衝突したのだ、どちらも無事では済みそうに無い。

 

 視界が悪くそのうえ足元もおぼつかないが、それでも状況を見極めようと懸命に気配を探った。


「…………っ」


 衝突地点のあたりで……なにかが動いている。


 ラビュ? それとも獅子宮管理官?

 

 状況は不明瞭。

 でもだからこそ、手をこまねいている場合じゃない!


 足元に落ちていた荒縄を拾いあげた俺は、ふたりがいるはずの場所を見据える。

 それは知らないはずの技。けれど身体は自然に動いた。

 

「変態捕縛術――荒縄縛り!」

 

 手ごたえは……あり!


 やがて風が流れ、部屋を舞っていた砂ぼこりが地面へと落ちていく。

 視界がクリアになり、姿をあらわしたのは――。


「むう。なぜ我輩が……」


 獅子宮管理官だ。

 激しい破壊跡の中心で、なぜか正座をして荒縄で拘束されている。

 

 そしてそのすぐ横に、ラビュがいた。

 意識を失った様子の彼女は、コンクリートの上に身体を横たえ、荒縄でぐるぐる巻きになっている。


 ……良かった。


 ホッと息をつきながら、ふたりに近づく。

 

「すみません。気配がよく分からなかったので、とりあえず強い気配を出していたふたりとも縛りました。どっちかは『当たり』なので」


「なんと乱暴な……」

 

「ひひひ」


 留岡管理官は上機嫌らしく、奇妙な笑い声を上げながら歩み寄ると、縛られた獅子宮管理官の背後にしゃがみ込む。

 

「なに言ってんだ、いい判断じゃねーか。どっちが本命か分からねえから、とりあえず両方確保しておく。『分からないから動きませんでした』より、よほど上出来だ。――ほら、解けたぞ」


「ぬうん。せっかく正座をして無罪アピールをしていたというのに……」


 ぼやく獅子宮管理官。

 彼の身体には、俺が放った荒縄のみが巻かれていた。


 そしてラビュ。

 彼女のほうは現在も荒縄が2重に巻かれている。


 俺の分と、そして……。

 

「……留岡さんもやってたんですね。荒縄縛り」

 

「そりゃまあやるわな。お前さんと違って、どっちがカンリシャなのかは分かってたしよ」


 やれやれと立ち上がる彼は、俺を見てニヤリと笑う。


「だが、お前さんの荒縄が無駄だったってわけでもねえ。相手が相手なだけに、2重に巻くくらいしとかねえと、安心できねえからな。良くやったよ、お前さんは」


 それは彼らしくも無い無理やりなフォローにも思えたが……今はその言葉をありがたく受け取っておこう。

 この反省は、次に活かせばいいしな。

 

「じゃあ後は、ヒャプルさんたちが来るまで待っていればいい感じですかね」


「そうな。ただぼんやりもしてられねーぜ。変態革命軍のトップが単独で動くか怪しいもんだし、周囲への警戒は――」


「ああああああああっ!」

 

「……っ!」

 

 足元での叫びに、ハッとした。

 

 咆哮したラビュは目を見開くと、一瞬で荒縄を引きちぎる。

 

 そして身体をひねり身軽に跳躍、俺たちから距離を取って再び前傾姿勢。


「ちっ。2重に巻いても脱出できんのかよ。しかも、まだまだ元気が有り余ってるじゃねえか。これだからカンリシャって奴はよお」


「どうしたものであろうな。なんとか動きを止めたいところだが……」


 全身に付いたホコリを払いつつ起き上がる、獅子宮管理官のつぶやき。

 

 それを聞きながら俺は……逡巡した。

 

 ラビュの動きを止める方法なら、とっくに思いついてた。

 ただ、その技の使用には前提条件がある。


 露出。

 それも全裸になることが絶対に必要なのだ。

 

 管理官の前で全裸になれば、即逮捕だろう。

 そうなれば、城鐘室長が俺の支援をしてくれるという話も無くなってしまうかもしれない。


 そういう意味では極力使いたくはなかった。

 

 ……でも。

 ラビュと交わした会話を思い出す。

 俺は、彼女を幸せにすると誓ったんだ。

 

 ここで躊躇してどうする。

 

「……俺に策があります。ラビュの動きを止られる秘策が」

 

「秘策?」


「使うのは、連城村の秘伝の技――全裸(ぜんら)ボタル。俺は強力な電気ショックを起こすことが出来るんです」


「強力な電気ショックを……自力で生み出せるって言ってんのか?」


「いえ、それはさすがに無理ですよ」


 俺は自身の胸ポケットをポンと叩いてみせた。


「懐中電灯を持って来てます。これを使うんです」

 

「……あ~、よく分からんが……即席のスタンガンを作れる、みたいなもんか?」


「まあ、そんな感じです。ただ、ひとつ問題があって……強力な電気を生み出したところで、今の俺ではそもそも彼女に近づくことさえできません。かといって彼女に攻撃されたタイミングだと、うまく電気ショックを当てられそうにない」


「ふむ。つまり我輩たちで彼女の動きを止め、貴殿が即席スタンガンを当てる、そういう策なわけだ。――良いのではないだろうか?」


「まあなあ」


 ラビュを視線で牽制しつつ、頷く留岡管理官。


「このまま荒縄を無駄にぶっ放すよりは、可能性がありそうだ。んで、準備にどれくらいかかる」


「あ、もう準備はできてます。いま話してるあいだにやっちゃいました」


「……ずいぶん早いな。……信用できんのかよ」


「信じてください。俺はラビュを助けるために必死です」


「……」


 信じたいけど、うさんくせえ。

 そんな表情を露骨に出す留岡さんに、獅子宮管理官が鋭く叫ぶ。


「彼女が戦闘態勢に入った! もはや猶予はないぞ!」


「ちっ、やるしかねえか」


 留岡管理官は荒縄を放ちつつ、部屋の奥へと飛び退る。


「いいか、やることはさっきと同じだ! おっさんに攻撃を集めたら、隙を見て俺が捕縛、光太郎が即席スタンガンを叩き込む! ……さっきので分かってるだろうが、捕縛はそう長くはもたねえ。パパッと決めろ」


「はい!」

 

「よし、こおおおい!」


 大声で叫び注意を引く獅子宮管理だが、何か引き寄せる物でもあるのか、そもそもラビュは彼だけを見ていた。


 彼女は右腕を大きく振りかぶると思いっきり身をかがめ。

 極端な前傾姿勢のまま獅子宮管理官に突撃を開始した――その直後!


「があああああ!」

 

 咆哮と共にラビュが急転換!

 背後を振り向く。

 その先にいるのは――俺だ!

 

「やべえ!」


「なんと!」

 

 恐ろしい猛スピードで、弾丸のようにこちらに突っ込んでくるラビュを見ながら。

 ――気は焦るが、やるべきことは変わらない。


瞬脱(しゅんだつ)!」

 

 一瞬で一糸まとわぬ姿となった俺は、あらかじめ手にしていた乾電池を右拳で握りしめる。


 これこそがエネルギー源。

 不可能を可能にする、連城村の秘伝の技。


 抑えきれないほどの激烈な電気パワーを右手に貯めつつ、顔を上げた俺の視線の先で。


 ――ラビュが笑うのが見えた。


 これは……間に合わない!?


「荒縄縛り!」


 留岡さんの鋭い叫び。

 背後から飛来する荒縄に腕を取られたラビュは体勢を崩し、地面に右足をつく――そのタイミングで。

 

「ぬううううん!」


 獅子宮管理官の追撃。

 全体重を掛け、コンクリートの床を思いきり踏み抜く!

 生じたひび割れは一瞬でラビュの足元にまで達し、右足の着地を妨害!


 勿論すぐさま体勢を立て直していたが、俺にはこの一瞬で十分!


「闇夜を照らせ……!」

 

 その叫びと同時、右手に集まる強烈なエネルギー!

 この世界のすべてを集めたかのような、狂気じみたパワー!


 それを一気に……解き放つ!


「全裸ボタルゥゥゥゥゥ!」

 

 右手を包む光は、想像をはるかに超えて輝いていた。

 それはまるで夜空に浮かぶ満月のような、神々しい金色の光。

 あまりの明るさに、それ以外の全てが闇に包まれたような錯覚すら覚えるほどだ。


 これなら……いける!

 

「目を覚ませっ! ラビュ!」

 

 体中にみなぎるパワーと共に俺は、目の前の彼女を全力で抱きしめた!

 強烈な電気がラビュの全身をつらぬく!

 

「あんっ……!」


 甘い声音と共にラビュの身体は脱力。

 そして彼女を抱き留める俺の全身を駆け巡るのは……激しい痛み!?

 

「ぎゃああああああああ!」

 

 あっつい、あっつい!

 いったい、いったい!


 なにこれ、やっべえええええ!


 我慢できないタイプの痛みなんですけど!

 燃やされながら切り刻まれる感じというか……とにかく最悪なんですけど!


 感じたことの無い複合的な痛みに地面をごろごろ転がっていると、頭上から声が降り注ぐ。


「お、おい、光太郎! 大丈夫か!」

 

「む、むう。明らかに大丈夫ではなさそうであるが、これはもうなにがなにやら……」


「ひぃ~、ひぃ~」


 叫びながらのたうち回っているうちに、だいぶ痛みが落ち着いてきた。

 

 慌てて顔を上げ、周囲を見回す。

 

「ラ、ラビュは!?」


 その姿は、ない。

 どこにもいない。

 

「……」


 呆然と見上げる。

 すると頭上のふたりは、無言で俺を指さしていた。

 

 いや、俺というか……。

 俺の目の前。

 

 たしかにそこに、ラビュがいた。

 というか、俺が抱きしめていた。

 

 どうやら転げまわっている間も、彼女と一緒だったらしい。

 意識はないようだが、寝息が聞こえるので無事ではあるようだ。

 

「どうもそいつは、カンリシャとしての力も失ったみたいだな。電撃の効果か?」


「え?」

 

 ……力を失った?

 でもたしかに、彼女が纏っていた恐ろしいほどに強大な気配が、いまや完全に消えていた。

 

 まあ眠っているからカンリシャのエネルギーを感じないだけ、ということもありえるだろうが……。


「念のため捕縛はしとくか。ただまあ、この穏やかな顔を見れば、うまくいった感じだな」


「……ですね」


 良かった……。

 いろんな意味でマジで本当に良かった……。

 

 なんか、練習でやった時と比べ物にならないくらい威力が出たから、危うく俺の手でラビュを天国に送り出してしまったかと思った……。


 どうやら電撃の威力の大半は、相手ではなく俺自身に向けられていたらしい。


 そういう意味では良くも無いのだが……でも全部のエネルギーがラビュにいくよりよほどマシだ。


「しかしお前……今の技……」

 

 指摘にハッとした。

 そうだ、安心している場合ではない。

 

「すみません」

 

 頭上のふたりに、頭を下げる。

 彼らが言いたいことは、当然分かっているのだ。

 

「俺……全裸になってしまいました」


「いやそれはマジでどうでもいい。マジでマジで」


「……そう……ですか?」

 

 露出は犯罪というのがこの人たちの立場だろうし、どうでもいいとは思えないが……でもたしかに彼の視線は、俺の拳にのみ注がれている。


「乾電池だと……?」


「あ、はい。この幹電池から電気エネルギーを借りて電気ショックを放ったんです」


「普通は借りれねえんだそんなもん。というかお前、気づいてたか? あの時、部屋全体が暗くなってたぞ。それはもう、お前……」


「はい……?」


「いや……なんでもねえ」


 なんでもずけずけと物を言うこの人が、言葉を濁すとは珍しい。


 そんなことを思っていると、部屋の入り口に気配がした。

 強大ではあっても危険は感じない、そんな穏やかな気配が。


「あら、もしかして解決済みですの? それは残念。お三方に恩を売るチャンスでしたのに」


 明るい声を響かせたのは、ヒャプルさんだ。


 良かった……彼女の催眠があれば、ラビュの問題は解決したも同然。


 これなら縄で縛られることもなく、ふたりで一緒に地上に出ることができるだろう。


 救いの女神は、手に持つ扇子で自身の頬をフニフニとつつきながら、笑顔でこちらに近づいてくる。


「ほらほら光太郎さんも、いつまでも女の子に抱きついてないで……ぜ、全裸!?」


 ……………………。

 

 ……まあ、あれだ。

 ラビュには縄は不要だろうが、俺に関しては両手を縛られた状態で地上に出ることになりそう。


 なにせ全裸だし。

 

「あー、悪いがヒャプル、俺らはくたくたでもう動けねえ。光太郎の服と、この金髪のガキのことは頼む。カンリシャ級だから油断はするな。それとドレッド・ハラスメントを捕らえた。至急管理局に連絡して、護送の手配をしてくれ」


「ドレッド……どこにいますの?」


「は?」


 言ってる意味が分からず、ぼんやり周囲を見回すが……たしかに入り口付近にいたはずの彼女の姿が見えない。

  

「しまった!」


 首謀者に逃げられた……!


 と。

 

「――嘆く必要は無いわよ」


「ん?」


 声は、入口のすぐわきにある太い柱の陰から聞こえてきた。

 そこに、ドレッド・ハラスメントが芋虫のように転がっている。

 

「あんな化物同士の戦いに巻き込まれたら困るでしょう? 悪いけれど、場所を移動させてもらったわ。それとすっかり忘れてるみたいだけど、御城ケ崎家のお嬢さんもこっちにいるわよ」


「ちっ、驚かせやがって」


 ぼやく留岡管理官はゆっくり立ち上がると、ドレッド・ハラスメントを小脇に抱えて戻ってきた。


「そろそろ室長も来てんだろ。とりあえずこいつは俺が持って上がってく」

 

 まるで荷物の搬送のような物言いだが、どうやら先行して地上に上がるらしい。

 フォローに向かいたいところだが……さすがに疲れた。

 一歩も動けそうもない。


 あとのことは皆に任せよう。


「…………」

 

 すれ違いざま。

 抱きかかえられたドレッド・ハラスメントは、意識の無い自身の娘に視線を向ける。


 それは俺以外誰も気にしないような、何気ない動きに過ぎなかったが。

 

 ……なぜだろう。

 彼女の企みは無残にも崩壊したはずなのに、その瞳は不思議と穏やかで。

 

「……良かったわね、ラビュ」


 そのつぶやきには、娘に対するたしかな愛情が含まれているように、俺には思えたのだった。

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