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見習い管理官・連城光太郎とハーレム狙いの少女たち  作者: 阿井川シャワイエ
第2章 ラビューニャ・ハラスメントとセクシュアルなお姉さんたち

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第66話 闇夜に輝く金色の光(前編)

 階段の踊り場で折り返すと、突き当たりに機械室の扉が見えた。

 かなり厚みのある、両開きの鉄扉だ。

 俺たちを招き入れるためか、片側が開かれている。


「…………」

  

 明かりは点いていた。

 けれど、この角度からでは内部の様子がよく見えない。

 いつもなら轟音を鳴り響かせている機械音も聞こえない。


 階段を下りながら、不安がジワジワと心を満たしていく。


 ……俺はこれまで、御城ケ崎になりすました人物が例のメッセージを送っているのではないかと疑っていた。

 しかし実際に本人が姿を現した以上、なりすまし疑惑は解消したと言っていい。


 ただ……俺が本当に疑うべきは、なりすましだったのだろうか。

 革命軍の襲撃を想定した場合、それ以上に警戒すべきことがあったのではないだろうか。


 だって俺は、その恐ろしさを身をもって知っているはずなのだから。


 脳裏をよぎるのは、ベッドに寝転んだ金髪美女の得意げな顔。

 そして彼女の特殊極まりない能力。

 

 ――催眠。

 変態革命軍には、催眠術の使い手がいる。

 

 シュアルさんだ。

 彼女の手に掛かれば、誰もが操り人形と化す。

 否応なくそうなる。

 

 だとすれば、本人が姿を現したことにどれほどの意味がある?

 催眠によって操られているのなら、それはなりすましと大差がないのに。

 

 ……と、御城ケ崎の姿が機械室の扉の中に消えていくのが見えた。

 

「……ラビュ」


「え?」


 機械室に足を踏み入れる寸前。

 俺の呼びかけにラビュが反応した。


「やっぱりどうも怪しい。一旦、旧校舎から出るぞ」

 

「……」


 彼女は一瞬、不思議そうに口を開けていたが。


「うん!」


 俺の判断を信用してくれたらしく、即座にその身を翻す。


 一段飛ばしで階段を駆け上がってくるラビュ。

 彼女が俺の胸に飛び込んでくる……その瞬間!

 

 機械室の内部から紐状の何かが勢いよく飛び出し、ラビュの体に巻き付いた。


「ラビュ!?」


「いたっ、な、なにこれ……!? ――きゃあ!」


 強烈な力に引っ張られ、ラビュの身体が勢いよく機械室へと吸い込まれていく。

 手を伸ばすが――間に合わない!


「くそっ!」

 

 滑るように階段を駆け下り、部屋の中へと飛び込んだ。


 機械室。

 無数に立てられた太い柱のせいで全体を見通すのは難しいが、恐らく旧校舎の地下が丸ごとひとつの部屋のようになっているのだろう。

 かなり広い空間だが、名前とは裏腹に『機械』と呼べそうなものは、かなり遠くに見える大型の製造機らしきものだけ。

 

 むき出しのコンクリートが目立つ殺風景な場所。

 

 そして入り口付近の柱の陰。

 そこに制服姿の黒髪少女がいた。


「御城ケ崎!」


 彼女は虚ろな表情を浮かべている。

 もはや俺相手に取り繕う必要はないということだろうか。


 そしてそんな彼女の隣には、全身をロープで拘束されたラビュの姿。

 怪我は無いようだが、顔を伏せているので表情が見えない。

 かなりぐったりとしているようで、自分の足で立ってはいるが意識朦朧といった様子だ。

 

 俺は御城ケ崎を睨みつける――フリをしつつ、実際は彼女の周囲に全神経を集中した。


 こんな露骨な罠に引っかかるつもりは無い。


 あえて御城ケ崎の姿を見せたのは、俺の注目を引くためだろう。

 その隙に奇襲を仕掛けるつもりなわけだ。


 ……そこを逆襲して、首謀者の姿を拝んでやる。

 

 と。

 

「――御苦労さま。もういいわよ」


「!?」

 

 どこからともなく聞こえてきた、女性の声。


 フッと糸が切れたように、御城ケ崎がその場に崩れ落ちる。


 そしてその背後からゆっくりと姿を現したのは、紺色のパンツスーツに身を包んだ金髪の女性。


「こんばんは、光太郎君。いい夜ね」


「ドレッドさん……?」

 

 変態詩人ドレッド・ハラスメント。


 まさか彼女が今回の首謀者だったのか?

 てっきりシュアルさんかと思ったが……。


 とはいえドレッド・ハラスメントは革命軍のトップ、そしてラビュの母親でもある。


 彼女が関係しているのは、むしろ当然か……?

 

 うつ向いたままふらふらと揺れているラビュのもとに、ドレッド・ハラスメントはゆったりと歩み寄る。

 その姿は妙に演技がかって見えた。

 

「月はいつだって明るく輝いているのに、雲によって覆い隠されていて、地上の人間からはその姿が見えない。そして人々は言うの。今夜は月が出ていなくて残念だって。……真実が見えていない人たちはいつもこの調子で、本当に可哀想。貴方もそうは思わない?」


 彼女が言っていることは、まるで理解できないが。

 ただひとつ分かることもある。

 

 彼女をラビュに近づけてはいけない!


「(――瞬着!)」


 まだ互いの距離は離れていたが、右袖に仕込んでいた下着を勢いよく射出。


 ドレッド・ハラスメントは笑みを浮かべつつ、軽くかわす。

 女性ものの下着が、彼女の背後に突き刺さった。

 

「アハハッ、面白い技ね。でも残念。奇襲がお望みなら、そんなに変態パワーを高めちゃだめよ。思わず避けちゃうもの。それともうひとつ――」


 彼女は口をゆがめた。俺を嘲るように。


「実のところ、もうラビュへの仕込みは終わってるの。ごめんなさいね」


 その言葉が引き金になったかのように、ラビュの縄がほどけ落ちていく。

 そして彼女の身体がビクンと跳ね――。


「ああああああああっ」


 白目をむき、獣のように咆哮するラビュ。 

 その叫びに呼応するかのように……爆発的に彼女の変態パワーが高まってる!?


 こちらを圧迫してくるビリビリとした強烈な波動に、思わず顔を歪めてしまう。

 これは……まずい……!


「ついに目覚めたようね。この世界の、新たなるカンリシャが」


「新たなる……カンリシャ……?」

 

 先ほど同様ドレッド・ハラスメントの言うことは、なにひとつ理解できない。


 だが、これも先ほど同様。

 ――するべきことだけは分かっていた。


 まずは、ドレッド・ハラスメントの身柄を押さえる!

 

「(――瞬着!)」


 右側の袖口をグッと引くと、備え付けられた内部機構によって勢いよく巻き取られていく特殊な(スレッド)

 それはマジックなどで使われる、半透明の『見えない糸』だ。


 そしてその糸がつながっているのは、先ほど射出した下着。

 

 そう、俺だって初撃が避けられることは織り込み済み。

 本命は――この第二撃!


 床に突き刺さっていた下着が、巻き取られる糸に勢いよく引っ張られ、背後からドレッド・ハラスメントに襲いかかる……!


 が。


「アハハッ! 本当に面白い技!」


「……くっ!」


 あっさり避けられた……!

 背中に目でもついてるみたいだ……。


「今のは悪くなかったし、引っかかってあげてもいいかなって思ったけど……でもさすがに優先順位ってものがあるでしょう?」


 そう言って、彼女はラビュに視線を向ける。


 咆哮を終え、奇妙なほどの前傾姿勢を取っているラビュ。


 ……その静けさが、なんだか恐ろしい。


「今のラビュは見境が無いわよ。理性を無くした状態で、カンリシャとしての力を振るえばどれほどの被害が出ることやら。もしこの子のことを可哀想に思うのなら、地上に出る前に食い止めてあげたらどうかしら?」


 そう無責任に告げた彼女は、現実味を感じさせない軽さで出口までふわりと飛び。


「機会があればまた会いましょう、光太郎君」


 呆然と立ち尽くす俺を尻目に、鉄扉へと消えていった。


 直後。


「――遠慮すんなや」


「……!」


 鉄扉へと吸い込まれたはずの彼女が、勢いよく戻ってきた。

 その身体には荒縄が巻きついていて、完全に拘束されている。


 そして、落ち着いた足取りで入口から姿をあらわしたのは、アロハ姿の男性。


「『機会があれば』なんて言わずに、今すぐ会わせてやるさ。そら、あそこで突っ立ってる間抜け面が光太郎だ。手くらい振ってやったらどうだ?」


「留岡さん!」


 ナギサ先輩に連絡してから約10分。

 宣言通り、応援に来てくれたようだ。

 

 ナギサ先輩が操られている可能性もあるので、彼らのことはあまり考えないようにしていたが……どうやら最悪の事態は避けられたらしい。

 

「おう、光太郎。よくやった。てめえが変態パワーを全開にしてくれたおかげで余計な回り道をせずに済んだぜ。逃げ回る革命軍のトップと夜の市街地で追いかけっこは御免だからな」


「留岡さん……」

 

 その軽口にホッとしたのもつかの間のこと。

 すぐに状況を思い出す。


 最悪の事態は避けられた?

 いや……彼は間に合わなかったのだ。


 前傾姿勢で凶悪な変態パワーを放ち続けるラビュに目を向ける。

 

「あの……ラビュがカンリシャに……」 


「みたいだな」

 

 彼は事も無げに頷く。

 そして口の端を歪ませた。


「一応言っとくが、俺たちはカンリシャってだけで捕まえたりはしねえからな。犯罪を犯したカンリシャだから捕まえる、ただそれだけだ。その違いはもちろん分かるな?」


「分かり……ますけど……」

 

 そう、頭では理解できる。

 ラビュは罪を犯したわけじゃない。カンリシャになったのだって本人の意志ではないのだから、責められる理由はなにもない。

 

 ――だがそれでも。

 今の彼女と向き合うとよく分かる。

 あれは異常だ。

 

 以前留岡さんから聞いた、何十人がかりで取り押さえられなかったというカンリシャの話も、今なら納得できる。

 

 ラビュというカンリシャがもし破壊の意志をもって動いたとしたら、どれほどの被害をこの街に、いや、この国に与えてしまうのか分かったものではない。


 すべては俺の油断のせいだ。

 俺がわずかな違和感を見落としたせいで、彼女は今までとはまったく違う存在になってしまった。


「おいこら、なに俯いてやがる!」


 バシン、と背中を勢いよく叩かれた。


「留岡さん……」


「よかったじゃねえか。あのガキはカンリシャに目覚めたばかり、まだなにもしちゃいねえ。そしてこの場には俺たちがいる。止めるチャンスがまだいくらでもあるってことさ。こんな幸運、滅多にねえぜ」

 

「……」


 そう。たしかにそうだ。


 あくまでもラビュは、カンリシャになっただけ。


 留岡さんも以前言っていた。

 カンリシャはより強い変態に従う習性があるのだとか。

 はっきり言って信じがたいが、今はその希望の糸に縋るしかない。


 ここでうつ向くわけにはいかないのだ。


「すまない、待たせた!」


「おせえ! ……と、言いたいが、さすがはおっさん。ドンピシャのタイミングだぜ」


 部屋に飛び込んできたのは、スキンヘッドにはちきれんばかりのスーツ姿。


「獅子宮管理官!」


「うむ」


 彼は俺に軽く頷いたあと、留岡管理官に視線を向ける。

 

「状況は?」


「見ての通りドレッドは捕まえた。んで、あのカンリシャになった金髪のガキを、今から取り押さえるところだ」


「ふむ、ラビューニャ・ハラスメントか。ハラスメント家の一員だけあって、どうやらかなりの難敵のようだ。だが――心得た」


 百戦錬磨なだけあって、話が早い。

 今のやりとりだけで、必要なことがすべて伝わったようだ。

 

 身構えるふたり。そして俺。

 

 感じるものでもあったのだろうか、フッとラビュが顔を上げる。


 いつもとは違う彼女の野生動物じみた凶暴な瞳を見つめていると、隣から留岡さんの声。


「いいか、光太郎。これは最大にして最後のチャンスだ。今からどれほどあのガキが暴れまわろうと、一般人にさえ見られなけりゃあ、管理局で内密に『保護』できる。ただし、人目に触れりゃあ一発アウト。刑務所行きは避けられねえだろうぜ」


「分かってます」

 

「ならいいさ。ま、あんまり気負う必要もねえ。幸い、室長とヒャプルもこっちに向かってるからな」


「!」 


 そうか……特別対策室にはヒャプルさんがいた……!

 彼女の催眠なら、うまくいけばラビュの理性を取り戻すことができるんじゃないか……?


「最悪俺らは、ふたりが到着するまでの時間稼ぎをすればいいってわけだ」

 

 そうつぶやく留岡さんの顔を見た俺は……こんな時なのに思わず笑いそうになってしまった。

 

 彼の瞳はギラギラと輝いていて、まるで獲物を前にした肉食獣。

 とてもじゃないが時間稼ぎの顔じゃない。


 けれど俺だって同感だ。

 

 ラビュはこの場で取り押さえる!

 そして理性を取り戻した彼女と一緒に、地上に出るのだ!


「悪いが策はねえ。――全力で突っ込むぞ!」


「はい!」

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