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見習い管理官・連城光太郎とハーレム狙いの少女たち  作者: 阿井川シャワイエ
序章 新人風紀委員・連城光太郎と見目麗しき少女たち
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第6話 理想の身長差

 第三会議室での報告会を終えた俺は、1年生の教室がある4階に向かっていた。


 目的は昨日出会った例の金髪少女――ラビューニャ・ハラスメントと接触すること。


  彼女はこちらが圧倒されるほどの変態パワーの持ち主で、昨日もかなり振り回された感がある。

 ただ会話自体は成立していたし、決してコミュニケーションが取れない相手ではなかった。


 下着姿で旧校舎を探索するような子だし、変態パラダイス村を再建させるうえでこれ以上ない味方になってくれるはずだ。


 ひとまず彼女が教室に残っていないか確認して、姿が見えないようなら再び旧校舎へ――。


「いたいた~、コ~タロ~!」


「うおっ!?」


 4階に上がった途端、俺の名を呼ぶ大きな声が聞こえてきた。

 見ると廊下の奥に金髪少女が立っていて、こちらに向けぶんぶん両手を振っている。


「あ、ラビュちゃんだ、やっぱり可愛いな~」


「へ~、あの子がエスカレーター組の? たしかにすごいね。お人形さんみたい」


 廊下にいた女子生徒たちが口々に褒めたてるなか、金髪少女はこちらに駆け寄ってくると、俺の目の前でパンと両手を勢いよく合わせ、首を可愛らしく傾げる。


「あのね、今日もコータローにお願いがあるんだけど……」


「お、お願い?」


「うん! あのね、ラビュと一緒に旧校舎まで来て!」


 わざわざ人が少ないほうへ誘ってくるわけか。

 まあ俺としてもそのほうがありがたい。


「分かった」


「にひひっ、コータローは物わかりがいいから、好きっ!」


「そっか。ありがとう」


「あははっ、ありがとーだって! コータローおもしろーい!」


 普通にお礼を返しただけなのに、面白いと言われてしまった。


 やたらとテンションが高い彼女にぐいぐい手を引かれた俺は、あっというまに旧校舎へとたどり着く。


 銀色に輝く裏口の扉をあけ薄暗い廊下を肩を並べて進んでいると、彼女がふと思い出したようにつぶやいた。


「そーいえば、ありがとね」


「うん? なにがだ?」


「ラビュが下着姿になってたこと、みんなに黙っててくれたでしょ?」


「ああ、まあ」


 誰にも言わなかった一番の理由は「どうせ信じてもらえないから」だったりするが、とりあえず頷く。


 するとラビュは、にひひと笑った。


「てーがくとかになっちゃうと、さすがに困るもんね」


「てーがく。ああ、停学か。たしかに困るよな。ちなみに聞きたいんだけど――」


 俺は金髪少女の表情を横目でうかがいつつ、慎重に尋ねる。


「そもそもなんであんな格好でうろついてたんだ?」


 俺にとって、それが一番の疑問だった。

 もともと家では裸で過ごしてる、なんて答えを期待したいところだが……。

 

「うーん。まあ、いつのまにか脱いでたみたい」


「そっか」


 彼女の言葉は、或いは常人が聞けば、はぐらかされたと感じるのかもしれない。

 だが、全裸村出身の俺としては、まさに納得しかなかった。


 そう、洋服というのは、いつのまにか脱いでいるものなのだ。

 俺にも身に覚えがある。


「しかし、旧校舎って薄気味悪くないか? よくひとりで歩く気になるな」


「ん~、でもラビュは嫌いじゃないっていうか、むしろこの雰囲気は好きかも? お化け屋敷みたいだし」


「ふぅ~ん……」


 実際に恐怖を感じていないのだろう、気楽に階段を上がっていくラビュのあとについていこうとすると、彼女がくるりと振り返った。


「ふむふ~む。やっぱり、2段差かぁ~」


「な、なにがだ?」


 2段差。

 たしかに先行する彼女は俺より2段上に立っているが、それがどうしたというのだろう。

 

「昨日も思ったけど、ちょっとコータローは背が高すぎない? 2段差だと距離が離れちゃう~。もっと縮んで!」


「いや、縮めって言われても」


 そもそも俺は高校生男子の平均身長。

 つまり――。


「俺の背が高いんじゃなくて、キミが小さいだけじゃないか?」


「ぷう」


 彼女は頬を膨らませてそっぽを向いていた。

 どうも背が低いのはコンプレックスだったらしい。


「わ、わるい」


「べっつにぃ~、ぜ~んぜん気にしてないですけどぉ~。あとね、『キミ』じゃなくて、『ラビュ』って呼んで」


「ラビュ?」


「そう。ラビュ。『さん』も『ちゃん』も『(くん)』もいらないから」


「分かった。……ラビュ」


「うん」


 にっこりと笑顔で頷くラビュは、俺が立っている一番下の段まで下りてきた。

 そうして俺の隣に立ち、こちらを嬉しそうに見上げる。


「じゃあコータロー。もうちょっと縮こまって! ラビュと目の高さが同じになるまで」


「……こ、こうか?」


 とりあえずその場で中腰になって、ラビュの様子をうかがうと――。


「……ぷう。子ども扱いはキライ!」


 不評だ。大不評だ。

 今度は顔だけでなく、身体ごとそっぽを向かれてしまった。


「いや、でも要望通りやっただろ」


「そうだけどぉ~。でもそんなかがむ必要はなくない? ラビュはそこまでちびっこじゃないもん」


「……」


 結構ちびっこだと思う。

 俺が中腰になって、ようやく目線が同じ高さになるくらいだし。

 まあ、さすがにそれを伝える度胸は無いが。


 ラビュは再び2段上がって、俺と目線を合わせた。

 身体を大きく見せたいのか腕を組んでふんぞり返るその姿は、まるでちびっ子番長のようだ。


「あのね、コータロー。男女の理想の身長差は12cmなんだって。それなのに、ラビュとコータローの身長差はだいたい25cmくらいあるわけ。つまり階段の段差二つ分。それはさすがにちょっとどうかにゃーって思わない?」


「理想の身長差?」


 そんなの聞いたことが無い。

 そもそも理想って、なんの理想だ?

 会話がしやすいとかそういうことだろうか。


「うん。だいたい12cmくらいが、キスがしやすい身長差なんだって」


「き、きす?」


「いえす、キッス。いくらラブコメを知らないコータローでも、背の高い男の子が軽く身をかがめて、背の低い女の子にキスする良さは分かるでしょ?」


「……」


 ちょっと考えてみたが、分からない。

 なんか間抜けな体勢になるだけじゃないだろうか。


 それこそさっきの俺みたいに、相手をバカにしたような中腰姿勢にならざるを得ない気がする。


 だからそういうときは――。


「……逆のほうがいいんじゃないか?」


 そんな言葉が口をついて出た。

 

「逆?」


 不思議そうな表情を浮かべるラビュを見ながら、俺は記憶をたどっていた。


 誰かと昔、これと似たような話をした記憶がある。

 たしかあれは……連城村(れんじょうむら)だ。

 

 『洋服のお姉ちゃん』が言っていたはず。

 身長差がある恋人の場合、キスの王道パターンがふたつあると。


 なぜそんな話になったか忘れたが、たしかに彼女はそう言っていたのだ。


 ひとつはラビュの言うとおり、背の高い側が軽く身をかがめて行うキス。

 そしてもう一つはその逆で――。


「……身長差があるんだったら」


「フムン?」


 視線だけでこちらの言葉を促すラビュに、俺は昔聞いた言葉を思い出しながら伝えた。


「背の低い女の子が一生懸命に背伸びしてキスする方が可愛い気がする」


「ンムム……?」


 首を傾げる彼女。

 だがすぐに目を閉じ、自分の世界に沈み込んでいった。


「……たしかに、異性が積極的に迫ってくる夢のような展開こそ、ラブコメの王道。つまり少年向けラブコメで女の子側が積極的になるのはむしろ当然なわけで、そうなると男性向けを開拓したい今のラビュに必要なのは、そっちの展開……? フムン」


 なにやら納得したように頷いたラビュは、階段をひょいと飛び降りると、俺に抱きついてきた。


「え!?」


 予想外の展開に思わず驚愕するが、彼女が離れる気配はない。


 ふたりのあいだには、わずかな隙間も存在しない、まさに密着状態。

 ボリューム感のある彼女の胸が、俺のお腹に押し付けられていた。


 戸惑う俺を見上げ、ラビュは楽しそうに笑いかけてくる。


「せーんぱいっ!」


「せ、せんぱい?」


「そういう設定だから」


「なるほど?」


 理解できないままに頷く。


 すると彼女は口もとにいやらしい笑みを浮かべ、スーッと背伸びを始めた。


 近づいてくる、彼女の潤んだ瞳とつややかな唇。


 ――まずい。


 俺はたしかに全裸村の出身だが、だからといってこういう状況に慣れているというわけではない。

 むしろ、女性との肉体的な接触にはすこぶる弱かったりする。


 だというのにラビュの顔がぐんぐんと近づいてきて――お互いの唇が触れあう寸前で、彼女の動きは止まった。


「……コータロー。ドキドキしてる?」


「いや……そりゃ……するだろ……」


 互いの吐息がまじりあうような、そんな距離感で。

 ラビュの瞳に奇妙な光が浮かぶのが見えた。


「いいんだよ……?」


「な、なにが」


「したいんだったら――ラビュにキス、しちゃってもいいんだよ……?」


「……」


 なら、やっちゃう?

 なんて軽々しく言えるはずがない。


 だってキスだ。

 互いの愛情を確かめ合う神聖な行為で……。

 

 でも興味があるかないかで言えば、もちろんある。

 

 緊張のあまり唾をごくりと飲みこむ俺。

 彼女の潤んだ瞳に完全に魅入られ、身動きすらできない。


 すると――カシャ、という音がすぐ隣から聞こえた。


 視線を向ける。


 いつの間にいたのだろう、そこには見覚えのない黒髪の少女が立っていた。

 ――スマホを両手で握りしめ、カメラのレンズをこちらに向けた状態で。


「ちょ、おい!」


「撮れた?」


 ラビュは落ち着いたもので、俺に体重を預けたまま首だけ黒髪少女に向けて、ごく普通に話しかけている。


「……はい……ラビュさん……こんな感じです……なかなかうまく撮れたように思いますがいかがでしょう……」


「おぉ~! さすが、ユーラは撮影がじょーず! なんかエッチな雰囲気が凄い!」


「……恐れ入ります……ですが、それはラビュさんのかもしだす色気が素晴らしかっただけかと……」


 なにやら親し気に会話するふたりを見て、俺は呆然としていた。


 ……どういうことだ……?


 この写真を撮るために俺はここに誘い出されたのだろうか。


 でも、そもそもなんのために今の写真を撮ったんだ?

 俺を脅迫するため?

 でも、写っているのはラビュが俺にキスを迫っている状況なのだ。


 これが皆に見られたとして、困るのはラビュのほうだろう。


「満足されましたか……?」

 

「ん〜、でもコータローは誘惑できなかったから」


「誘惑……? まさか、本当にキスをするつもりだったのですか……?」


「え? ん~ん、ラビュからするつもりはなかったけど、でも興奮したコータローがキスしてきちゃったらしょーがないにゃあって感じ? 実際、ユーラだってきょーみはあるでしょ? だって、ウイウイとナギーが推薦する男の子だよ」


「それは……ですがラビュさんは、もっとご自身の身体を大切になさったほうが良いかと……」


「も~、だからラビュからキスするつもりはなかったんだって。あんまりナギーみたいなこと言わないでよ」


 そう言って階段を上がっていく2人を見て、俺はハッとした。


 (ほう)けてる場合じゃない。


 彼女たちの後を追おう。

 旧校舎のどこに潜伏しているのか、今度こそアジトを突き止めるのだ。

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